二章「神騎候補生」- ⑥
「実践想定訓練おつかれー。
とりあえず茶でも飲みな。」
実践訓練から一夜明けた昼下がり。
1年サードクラスの面々は、サラに呼ばれ各々個人面談を実施していた。
教室の一角に向かい合わせの机と椅子。
顔を合わせて座るのは初めてのような気がしないほど、サラはラフな装いだった。
「さて...
リラ・フーガ・ウガリット。
綴りは合ってるな?
アネモス出身。
兵役等の経験はないが、パラディン【聖神騎】ニンリルの任意補佐として戦地への同行経験あり。
ちなみに、任意補佐は、ノア【純神騎】以上の称号を持つ神騎が育成候補として戦場への動向を許可する制度だ。
武装や兵糧等の物資運搬を主として、戦場での戦闘行為の一切を禁止しているのは把握してるな?」
「はい。
ただ、任意補佐も自らの命と民間人の命の危機がある場合及び神騎からの正式な許可がある場合に限りEP【Emergency・Protection :緊急防衛】は行ってよいと聖神騎より指示がありました。」
よく勉強しているな。
まだ齢十四の子供にしては、あまりにも知りすぎている。
「お父上は、何をされていた方だ?
兵士か?
それともアネモスの領主か?」
「あー、父はアネモスの住人じゃないんです。
何でも母が亡くなったあとに小さい頃の俺と妹を連れて...
親類を頼ってアネモスに移住したそうで。」
サラは押し黙ることなく「そうか」とただ一言告げる。
憐憫や同情などハナから持ち合わせていない。
自分という人間は呆れるほどに他人と自分とを切り捨てられる存在なのだと...
この仕事をしていると思えてくる。
ただ、ひとつ確かなことがある。
(なぁ、ニンリル...
ガキはいつまで経ってもガキのままじゃないんだぜ...)
古い友人のことをふと思い浮かべる。
1週間ほど前...
緊急招集のことも、模擬戦の開催も...
私は何一つ知らされていなかった。
後で知ったことだが、模擬戦の見届け人として参加したイグニも、どうやら生きた心地がしなかったらしい。
事実、あの場でニンリルがブチギレていたら候補生の死体五つと聖神騎の頭を一つ...
おさらばした胴体ごと祝水の足元に丁寧に届けられていたことだろう。
でも、この子はちゃんと戦った。
(戦ったんだよ。
ニンリル。)
リラは覚えていないだろうが、私は小さい頃のこの子と顔を合わせている。
ニンリルとは学生時代からの付き合いなのだから、当然この子がどんなクソみたいな運命を背負わされたのかも知っている。
「ところで、何故今任意補佐の話を?
まさか、ニンリル姉出さなきゃいけない書類サボってたとか言います?」
「ん?
ああ、違う違う。
出さなきゃいけない書類はサボってるが、お前の気にするところじゃないよ。」
呆れた顔をする少年の顔を見る。
あの頃と比べて、偉く賢く育ったもんだ。
「なぁ、リラ。
お前、この学園で何を知りたい?
何を学びたい。
外面じゃなく、手前の本心を話してみろ。」
「俺は...
俺達が生きていい...
俺と妹が、真っ当に生きていい理由を探したいです。」
平穏な国もひとつ路地を抜ければそこに法は無い。
きっと、天国と地獄も死ぬ前から陸続きで...
こいつらは、人と違うものを見てきたのかもしれない。
「お前の学びたいもの。
全部見せてやる。」
「え?」
なぁ、ニンリル。
あの人のガキは成長してるぜ。
大事な時に、大切なもんのために拳を振るえるイケてる男に...
地獄を見て、それでも家族と向き合おうとする優しい奴に...
「過保護が過ぎるんだよ、昔から...」
首を傾げる少年に笑顔を向ける。
「なぁ少年、あたしのバディ【任意補佐】にならないか?」
次回更新は5月13日を予定しています
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