二章「神騎候補生」- ⑤
「「確認したいこと?」」
ヒノ、バアルの両名がリラに聞き返す最中、泳ぐ視線が三つ...
「感じた違和感は三つ。
ひとつ、先に出た課題のスライムの圧倒的な個体数の少なさ。
まるで誰かが”意図的に”その数を操作しているような違和感。」
耳にかかるブロンドの髪が微かに揺らぎを帯びる。
「ふたつ、全てを計算し尽くされたような段取りの運び。
本来、この森の警備が破られるとイルミンスールという都市への大規模な人的被害に繋がる可能性がある。
それを、パラディン【聖神騎】やノア【純神騎】でもない俺程度で破壊できるほどの結界で満足している違和感。
そして、両チームに対しての圧倒的な役割の偏り。
地の利があるダムだけでなく、本来感知に優れた蘭風と恵土の神騎候補生をひとチームにまとめたこと。」
小さな肩が少し重力に従順になる。
「そしてみっつめ。」
今度は真っ直ぐ。
少年とも少女とも取れる顔立ち...
キャスケット帽の奥に潜める、まるで全てを見透かしたような瞳に問いかけるように...
「なぜ...
なぜお前は、この訓練中一回も”神威を使っていないんだ”...」
この言葉に「続けて」と促すように、ピグは言葉をリラに委ねる。
「正確には、”ずっと同じ範囲に一定間隔で使い続けてる”...であってるか...
地表からおよそ15メートル程下...
お前を中心に半径30メートル、体積にしておよそ113097立方センチメートル...
25メートルプールおよそ188個分の体積に、お前はずっと神威を使って何かをしていた。
この訓練中”それ以外”しなかった。」
話が見えないというような表情でバアルがこちらを見る。
「考えても見ろ。
もしスライムが自然に発生する現象だとして、発生源はどこだ。
空気中を含む水蒸気か?
時間によって降り注ぐ雨か?
いちばん簡単なのは...
ここだろ。」
地面をグッと踏みしめる。
ピグの神威にまるで自分の神威を撃ち込むかのように...
パイルバンカーのように鋭い風の圧力が瞬く間に地中を穿つ...
その直後...
ピグ、イザベラ、ダムの三名はその場から飛び退き、俺たち三人も境界線を分かつようにその場を離れる。
「おめでとう。
リラ、そこまで考えられてるなら...
僕たちが何をしたかったのか理解できるよね。」
乾いた拍手と共にさも悪役のようにピグがこちらに向き直る。
「どうせ、サラ教官かフリーマン教授の考えだろ?
仲間割れを前提とした場を造り、突如として現れる”超弩級戦艦並スライム”をみんなで打ち倒し、仲良しめでたく任務クリアってか。」
だがよ...
ピグの表情はニコニコしながら何故か多量の汗を流している。
ダムは顔を赤らめながらこちらから視線を逸らしている。
イザベラは、さも巨大ロボと対峙したかのように感動に打ち震えている。
「やりすぎちゃった☆
テヘッ☆」
「私は...
言われた通り水を...
入れただけ...
なのだが...」
「ふぉぉおおおぉぉぉぉおおおお」
俺は呆れて言葉も出ず。
「限度があるだろ貴様ら。」
ヒノは頭を抱えて巨体を眺め。
「すっげぇぇぇえええぇぇぇえええ」
バアルはイザベラと似た奴だということが判明した。
そして...
当初三日を予定していた訓練は三日目のラスト5分まで粘り...
1年サードの六名は、度重なる疲労と浅すぎる結果...
そして、泥とスライムで水浸しになった身体だけを残し、見事試験をクリアしたのだった。
次回更新は5月6日を予定しています
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