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二章 「神騎候補生」 - ①

グロロアの森。

王都イルミンスールにある最も神聖な世界樹の麓に位置し、王都の観光名所の一つでもある森林公園。



リラ、ダム、バアル、ヒノ、ピグ、イザベラの六名は、これから三日間この森で生きなければならない。



討伐対象はスライム。

水の都とも呼ばれるイルミンスールでは日常的によく見られるゲル状の不定形生物。

神威を特に濃く含んだ水から生み出されるこの生物は、生態把握には至らず、増えすぎても困るという理由でただの水に返される。



「んで、チーム分けだが...」



Aチーム、ヒノ、バアル、イザベラ。

Bチーム、リラ、ダム、ピグ。



「とりあえず、俺は結界も破った。

力は証明できたってことでいいな。」



異議なしというピグの声を他所目に、ダムは一人不服そうな顔を隠そうともしない。



(可愛くねぇなこいつ)



今いる場所はグロロアの森の最西端に位置する崖の上。

山林に囲まれた遊歩道を抜け、山間には小川のせせらぎが聞こえる。

鳥や兎のさえずりを聴きながら、3人は物思いにふける。



それはそうと...

少しまずいな...



先程から感知領域を一帯に広げているが、どうも引っかかる。

大量発生したから間引きすると聞いたのにこれは...



「あからさまに数が少ないな...」


俺の懸念を察してか、ダムが言葉を放つ。



「ひとチーム100体のノルマに対して、感知で引っかかるのがせいぜい30体前後...

湧いてくるとはいえ、ペース考えたら3日で全部倒しても100に届かねぇ...」



「これ絶対無理ゲーだよね。

3日で100なんて...

ははは。」



ニコニコと笑うピグ。

その不気味な程に作り笑いをした笑みに気を取られそうになった時、不意に足元に違和感を覚える。



「「「!!」」」



「下に何かいる...」


ピグの言葉に、不意に俺とダムはその場を飛び退き迎撃に入る。



「大海よ。

流れ、穿ち、飛沫を上げろ。

清涼なる大地に一振の冷徹を。」



ダムの素早く唱えた神言【カミコト】に呼応するように、その掌には一本の槍が握られる。

数メートル離れたこちらにも届くほどの凍てつく殺意...

ただ、それは...



「フリームスルス【霜の槍】」



穿たれた霜の槍。

神話の巨人をも射殺すその槍は、スライムの核目掛けて一直線に突き穿った...

はずだった...



「なっ...!?」



ダムは驚愕の目を隠そうとはしなかった。

自分は確かにスライムの核。

正確にはその心臓となりうる細胞組織の集中点にピンポイントで投擲した。

この距離で外すことはありえない。



だというのに...



「落ち着け。

スライムは祝水の加護が構成要素だから水を使わないって発想はいいが...」



「氷じゃ無理だね。

スライム自身の酸性と、液体とも個体とも言えないあの特殊なゲル状の身体のせいで氷は打ち込んだ傍から水に蒸発して無効化される。」



リラとピグの助言に焦る自分がいる。

先刻リラのことをあれだけ罵っておきながら、実戦経験において自分はこの2人よりも2歩も3歩も遅れている。



(分かってはいたはずだ...

焦りが勝って、冷静に物事を対処出来ないなんて...)



それに、ここの森では生態系を破壊してはいけないからと武装解除の命令がある。

なまじ獲物を使った神威の扱いに慣れすぎた弊害がこんな所で出るとは...



着地しながらリラを見る。

飛び退いた瞬間、リラは自分だけでなくダムにも蘭風の加護を使っていた。

それも片手で。

ピグも恐らく口に出してはいないが神威の扱いに長けているのだろう。



(対して私は...)



性質操作と形状変化が使えても、神威ひとつ出すのに小枝がなければ安定しない。

2人と違って咄嗟の判断が鈍る。

対スライム戦において圧倒的に無力...



「こんなんじゃ...」



次の瞬間、ダムに無力感を与える小さな塊は途端に核を穿たれ霧散していた。



「要は使いよって話だろ?

お前の加護の方が応用も効く。

やれるな、ダム。」



不意に出た言葉を、聞き逃すような男ではないようだ。



(今、確かに見た)



神威を放つ瞬間。

奴は掌から小石を取り出した。

そして、模擬戦で見せた広範囲への突風ではなく、一点特化のヴァンキッシュ【穿突風】。

穿たれた小石は、空気を割く音を孕みながらスライムの核を撃ち抜いた。



(考えろ。

祝水の加護によって身体を構成させているとしても、依代の大きさはせいぜいが椅子ひとつ分。

なら...)



「!?」


直後、リラの背後にもう一匹残党を見つける。

先程の一匹と比べるとサイズは倍。

不定形な身体はまるで水が蒸発するようにボコボコと煮えたぎり、まるで今にもリラの頭を撃ち抜こうと構えている。



「大海よ。

流れ、穿ち、飛沫を上げろ。

静観なる大地に一抹の冷閃を。」



どうやら、座学の1週間は無意味ではなかったらしい。

リラは当然というように首を左に傾け、その直線上に、ダムは視界に蒼き巨体を捉える。



「悪いな。

私のは、ちょっと痛いぞ。」



変化はすぐにあった。

神言【カミコト】を唱えた瞬間。

ダムの握りしめた小枝のその先...

刺突を構えた指先から手首へ、手首から肘先へ、肘先から上腕へ...

水の衣は少女を覆い、貧相な小枝は瞬く間に騎士とも見紛う聖剣へと変貌を遂げる。



(あれは...)



ピグは冷たい脂汗と共にニヤリと笑みを浮かべる。

この文明の時代に、まだあんな古い流派を使う奴が残ってるなんて...と...



クォータ・ロアダイト

【騎士刺剣・第四の構え】



直後、螺旋を帯びた突風が巻き起こる。

避けたはずのリラの首先からは少量の鮮血が流れ、音もなく、ただ鋭く...

刺剣は核を穿ち抜いた。



枝を振り抜き、まるで染み付いた朱を払うように...

ダムは枝を収める。


「非礼を詫びよう、リラ・ウガリット。

私には、まだこの先があるようだ。」



リラとピグは霧散していく哀れな水溶性物を観る。



「水がダメなら、さらに高圧縮極小範囲のレーザーにすればいいじゃない。」


「笑えねぇ。

てかお前、今俺の首まじで持ってくつもりだったよな。」



軽口を叩きはするが、内心リラもピグも動揺を隠すのに精一杯だった。



((えっぐ))



バケツに水を入れても底が抜けないのなら、螺旋を起こし、凝集させ、圧倒的質量で撃ち抜けばいい。

理屈は分かる。

だが力技が過ぎる。

しかし口には出せない。

出したら最後、自分もこのスライムのように...

そう考えると、苦笑いを浮かべるしかない2人だった...

次回更新は4月8日を予定しています


良ければXでの拡散を、励みになりますのでレビュー、感想あればぜひぜひよろしくお願い致します


m(*_ _)m

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