一章「世界樹と神」- ⑧
イザベラからの一通りの講義が終わり、俺達1年サードクラスの面々は闘技場から北におよそ2キロ歩いた先、「グロロアの森」を訪れた。
神威が特に濃いこの場所では、スライムと呼ばれる不定形生物が自然に湧き出すためか定期的な駆除が必要なんだそう。
さらに俺たちの今立っている森への入口からは、外周をぐるっと囲むように祝水、恵土、篝火の三重防護層が敷かれている。
「これで必須過程の座学分は全員修了じゃわい。」
あれから約2週間。
俺たちは闘技場でひたすら座学続きの毎日だった。
この学園は特に自主性を重んじる。
だから、名目上は必須課程なんてものを取ってはいるが、基本的に2週間前後でこれを終わらせ、残りを実技、自習に当てるんだとか。
「候補生とはいえ、ユノス学園に入学した時点で君たちはれっきとした軍人。
何時いかなる時も、有事に備え、訓練する必要がある。」
「フリーマン様、質問が...」
フリーマンの説明にまるで異を唱えるかのように、ダムが口を開く。
無言で促すフリーマンにお辞儀をしたあと、ダムは俺達全員、ひいては俺の目を見てゆっくりと話し始める。
「グロロアの森での実践訓練。
パーティを二つに分け、自然発生したスライムと戦う。
それはいい。
そして、倒したスライムの数で勝敗を競い、負けたチームにはペナルティ。
それも分かりやすくていい。」
だが、チームが気に入らない。
ダムははっきりとそう言った。
「我々は、確かに経験や知識に疎い。
ピグのような実戦経験もなければ、イザベラのような博識もない。
だが...」
ゆっくりと俺を見据え、大きくされど悠々とした口調で彼女は言い放つ。
「神威の知識も乏しく、実戦経験も皆無。
聖神騎のコネで入学したような者を、私はパーティリーダーとは断じて認められん。」
なるほど。
そこら辺潔癖なところか。
ダムは、生まれながらにラック家にあった訳では無い。
生まれてすぐ捨てられラック家に拾われた養子。
近寄る他人、隣の友人、養子の自分。
全てを信じられず、ただラック家の繁栄のためにと行動をしてきたらしい。
(そんな重圧に押しつぶされそうな中、聖神騎からの推薦で入学してきたなんて虫唾が走るもいいとこだよな。)
「口で言ってもどうせ信じられないだろうし、別に言い訳する気もねぇよ。
だから...」
ゆっくりと歩みを進め、結界に右手を触れる。途端、触れた先からミキサーで粉々にされているような激しい激痛に見舞われる。
だが止めない。
肩から肘、肘から掌、掌から指先...
各関節を軸に神威で身体を纏う。
(昔、ニンリルが一度だけ見せてくれたっけ。)
うろ覚えの記憶。
幼い自分にはとても大きく見えたあの背中に追いつこうと、今日まで鍛錬を重ねてきた。
(今なら...)
脱力した力を一気に指先に集中させる。
派手な技じゃない。
ニンリルからしたら技ですら無いかもしれない。
でも確かに、あの日の俺を動かした。
父や母、妹やニンリルに押しつぶされそうだった自分を救ってくれた。
そんな美しい御業。
「ウガリット流【飛翔する竜の御業】・天衝」
指先から走る力の軌跡は、瞬く間に神の衣にヒビを走らせた。
音は無い。
ただ走る閃光は、まるでガラスでも割るかのように重厚な光の帯を緩めた。
「行動で示す。
それが、うちの家訓だ。」
一章 世界樹と神 【完】
次回更新は4月1日を予定しています
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