4話
自分の家に、誰かがいる生活というのは、思いの外心が浮き足立つものなのだなと私は思った。
私が歩くと、レイス様は私の足元をぴょこんぴょこんとついて来くる。
それが可愛らしくて、私は毎回抱き上げようとするのだけれど、レイス様曰く、抱き上げられるのは何となく居心地が悪いとのことであった。
なので、休憩中に果物を食べる時だけ、抱っこして触らせてもらうことにした。
「さて、まずは呪いの具合を見させて」
「わかった。その、解呪にはどれくらいかかるだろうか」
そう言われ、私は少しばかり考える。
「そうね……呪いの具合を見て、それから採取に必要なものを町に買い出しに行き、それから森の中へ入って、そこから薬づくり。薬草の乾燥にも時間がかかるから……早くて薬が完成するのが一週間から一か月。そこから少しずつ薬を飲んで様子を見ていくことになるわ」
「なるほど……結構かかるのだな」
「そりゃあそうよ」
「……ミラ嬢に手間をかけさせてしまい申し訳ない……元に戻れば必ずお礼はする」
「ふふふ。貴方って義理堅いのね。いいわよ。私別にやることもないし。毎日ちゃんと食べて生きるだけで幸せだから。あ、でも貴方を最優先にはするけれど、毎日の生活でやらなければならないことはあるから、その分時間はかかるわよ」
「それはもちろんだ。私も出来る限りのことはさせてくれ」
「あら! それなら、撫でさせてちょうだい」
「……そうではなくて、家のことで手伝いは出来ないだろうか」
「……そう、ねぇ」
可愛らしい前足。これで何が出来て何が出来ないだろうか。
「とにかく、まずは呪いの具合を見せてちょうだいね」
私はそう言って、話題をずらすことにしたのであった。
「抱き上げてもいいかしら?」
そう声をかけ、レイス様がうなずくのを見てから私はやさしくそっと抱き上げると、台の上に乗せる。
「薬草の反応を見るから、じっとしていてね」
「わかった」
解呪の為に必要な薬草はかなりの数あるのだけれど、今回の反応を見る薬草というのはそれらとはまた異なる。
どの程度の呪いの進行具合かを調べる為のものであり、それによっては薬草の量が変わってくるのである。
丁度採取していたばかりの薬草があってよかったと思いながら、薬草をレイス様の体に頭から順番に撫でつけていく。
すると薬草の色が変化し、私はそれを記録していく。
頭、手、胴体、足、それらの反応をまとめ、次の薬草に移る。
それを何度か繰り返して、私は必要な薬草の分量を計算し、まとめていく。
「なるほど。貴方の呪いはやはり不完全なものね。おそらく呪いの薬かなにかを飲まされたようで、それの配分が悪かったからこそ、喋れるし意識を保っていられるようだわ」
「なるほど……つまり私は呪いの薬を誰かから飲まされたということか。ルーダ王国の何者かの仕業か……」
その言葉を聞き、私は小さく息をつく。
私はその薬を作ったであろう人物について、実の所心当たりがある。
それをレイスに告げるべきか、悩んでいるとレイス様は私の方を見て言った。
「それはこちらで元の姿に戻ってから調べる。ミラ嬢ありがとう」
はっきりとそう告げられて、ハッと私は気づいた。
おそらくレイスは私を巻き込まないようにと思っているのであろう。
だけれど今はそれに甘んじることにする。
「変な人……さぁ、もう後は自由に過ごしていてちょうだい。私はここからやることをまとめていくから」
「わかった! では私は掃除でもしよう。雑巾を貸してもらえるか?」
「え? えぇ」
私はどうやってするのだろうかと思っていたのだけれど、雑巾を手渡すと、少しずつ、少しずつ器用に床の拭き掃除をレイスは始めた。
自分の置かれた環境に悲観することなく行動する姿に、私は好感を抱いた。
「ありがとう。助かるわ」
毎日生きることに必死になっていると、床の拭き掃除は結構おろそかになりがちである。
少しずつでもやってもらえると、とても助かる。
「いや、こちらこそ迷惑をかけているのだ。このウサギの体! 使いこなして見せる!」
レイス様はそう言うとウサギの体を使いこなそうとしているのだろう。少し歪な動きをしながら、ぴょんぴょこと床掃除をしてくれる。
私はその姿をしばらく可愛らしいなと眺めた後に、レイス様の体に合った解呪に必要な薬草の量を計算していく。
メモに必要な量を書きだした後、私は家のこともしなければと庭の植物に水をやっていると、レイス様がやってきて、雑草を上手に引き抜くと、食べれる草は食べ、食べれない雑草は腐葉土づくりの穴の方へと持っていってくれる。
有能である。
私はそこが終わった後は、森の中に入るために必要な道具を買うために、まずは薬を売ってお金にしなければと保管庫に行き、売る品物をまとめていく。
以前、作り置きしていた薬が結構あるので、これをもっていけばまとまったお金になるだろう。
ただ、町に行くのにも時間がかかるので、明日出発にしようと考える。
明日仕事が出来ないとなると、家の仕事を前倒しで行っておかなければならない。
週に一度のパン作りと、あと水がめに水を溜めないといけないのでその作業もある。
「さぁ、頑張りますか」
繰り返される毎日に、少し別のことが組み込まれるだけで一日のスケジュールが変わる。
頭の中でやるべきことに段取りを付けていきながら、私は動き出したのであった。
忙しなく動いているとあっという間に時間が経ち、気がつけば昼の時間は優に過ぎていた。
夜になるまでに終わらせておかなければと思い、もう一度気合を入れなおした時のことであった。
「ミラ嬢……その、ミラ嬢は休憩しないのか? その、私のことで忙しくさせているので申し訳ないのだが……休んでほしいのだ」
レイス様はそう言うと少ししょんぼりとした様子で耳を垂れ下げる。
私は慌てて言った。
「あ、ちょ、ちょうど今休憩するところだったのよ」
すると耳がぴょこんと嬉しそうに立ちあがり、私は一度つけていたエプロンを外す。
「そうか! よかった」
こちらのことを心配してくれているのだろう。
少しむず痒くなりながら、私はパンの上に庭で穫れた葉野菜とチーズを載せる。
レイス様には野菜と干した果物を出すと、瞳を輝かせた。
「なんと! 私にもいいのか?」
「え? もちろん……ごめんなさいね。一人だとどうしても仕事優先にして、食べなくても大丈夫っていう考えがあるから。貴方の分も用意しないといけなかったのに……」
終わらせていく仕事のことばかり考えてしまっていた。
しっかりと相手の食事のことまで考えていなかった自分に反省していると、レイス様は慌てた声を出す。
「い、いや違うのだ。私は庭に生えている新鮮な草も食べれるから問題ない。その……ただミラ嬢は今にも倒れてしまいそうなほど細いから……食べないと心配になっただけなのだ」
まただ。
心配してくれている。
他人の私を、おそらく自分の呪いを解いてもらうとは別の感情で、当たり前に心配してくれている。
当たり前。
そんな当たり前さえ、私の身近にはなかったことすぎて、心がこそばゆい。
「とにかく、ちゃんと準備をするから……心配、ありがとう」
「私も出来る限り手伝う! 結構うまく動けるのだ! この体!」
「それはたぶん呪いが不完全だからよ。ふふふ。でもありがとう。家の中にある物は触っても大丈夫よ。あ、ただ保管庫の植物に関しては毒のあるものもあるから、そこは触らないで頂戴」
「わかった!」
可愛らしいウサギの手をにぎにぎとしている姿が可愛らしい。
優しい人なのだな。
心の中が温かくなり、こんなに居心地の良い人もいるのだなと私は思った。
小説家になろうの仕様が新しくなったのに、私が対処できてなくて…気づいたら連載始まってましたヽ((◎д◎))ゝ
私アホの子すぎるのです…。でも読んでもらえて嬉しいから、このまま連載いきますー!!!!
ううぅ…お星さまで応援してもらえると嬉しいです(>0<;)★
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