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3話

 最近は夜の寒さに慣れていたというのに、今日はやけに暑いな。

 そう思いながら目を覚ましたレイスは、自分の眼前に美しい女性、ミラがいることに驚き息を呑んだ。

 声が出そうになるのを手で止め、どうにか驚きの声を上げずにすんだ。


 そこでふと、自分の手がちゃんとした人間の手であることに気がついた。

 自分の顔を触り体を見ると、ちゃんと衣服を着ている状態であった。それに少しばかりホッと胸を撫で下ろす。


 どうして人間の手に戻っているのか分からずにミラを起こして尋ねようと思ったのだけれど、ふと、ミラが人間を少し嫌っているような雰囲気を思い出す。


 それに何より、自分の都合でこんな夜中に起こすのは忍びない。


 レイスは自分の横ですやすやと寝息を立てるミラを見つめ、一度自分の姿を確認するかと立ち上がると、視点が高くなり少しばかり驚く。


 しばらくウサギだったので、どうにも高い視点に違和感を覚えるのだけれど、どうにか洗面台の所へと向かうと、自分の顔を見て息をつく。


 白い髪に赤い瞳。


 ウサギの白い毛と赤い瞳は自分の顔とよく似ていて、レイスは人間になってもこれでミラに自分だとわかってもらえるだろうかと首を傾げる。


 それにしてもとレイスは視線を家の中へと向ける。

 至る所から隙間風が入ってくる家で、古くて今にも壊れそうである。


 しかもここは森の中心部である。


 普通の人間ならばこの家にたどり着く前に、獣に襲われて死ぬか道に迷って終わりである。

 それほど深い森の中なのである。


 だからこそ言い方を変えればよい隠れ場所である。

 ベッドの所へと戻ると、眠るミラを見つめながらレイスはしゃがみこむ。


 知識量や文字が書けること、また所作からしても平民ではないだろう。何か事情があるのだろうと思いながら、レイスはこの呪いが解けたならばしっかりと恩返しをしようと心に決める。


 その恩返しの第一歩にと、レイスは立ちあがると部屋を出て家の外へと出た。


 空には珍しい程に赤く大きな満月が輝いていた。


 月には魔力があると言う。特に赤い満月には不思議な力があるらしい。


「もしやその影響か……とにかく、いつまで人間の姿でいられるのだろうか」


森の中は恐ろしい雰囲気で月がなければ漆黒の世界が広がっていたことだろう。


レイスは首に付けていたネックレスへと触れた。


 次の瞬間、剣が現れ、レイスはそれを構える。


「よし、使えるな。緊急用の魔法具が使えて良かった」


 発熱にうなされた際、レイスはシャツにズボンという軽装であった。そんな時ですら、このネックレスだけは肌身離さず何かがあった時用に付けておいた。


 魔法石がはめ込まれているこの魔法具の中は、いくつかの緊急時に必要なものを取り出せるものだ。


 指ではじくと同時に剣が現れる。


 レイスは剣を振り、自分の体の感覚が鈍っていないかしばらくの間基礎の方から動き、それから森の中に入るとよさそうな木を見つけて、剣を構え切る。


 次の瞬間、木は真っ二つとなりレイスは構えるとそれを巧みに切っていく。


 魔法具の剣なので、恐ろしい程によく切れるのであるが、レイスが作り上げていったのは木の板であり、それが出来上がるとレイスは水の魔法石を指ではじき、それを使って木を洗い、そして火の魔法石を使って乾燥させていく。


 出来上がったらそれを家の近くへと運び、隙間風が入ってくる家の位置を確認すると出来る範囲修理を施しておこうと考える。


 次いつ人間に戻れるか分からないので比較的緊急性を感じる場所から応急処置をしていく。


ミラに協力してもらったらお礼として、いつかちゃんとした家をプレゼントしよう。


そんなことを思いながら作業を続けていく。


「よし……ひとまず、まぁ少しばかりはいいか?」


 勝手にだが外の物置にあった修理に必要な道具は貸してもらった。

 空を見上げると月が乳白色へと変わり始め、暗かった空が明るんでいる。


「朝か……」


 そう思った瞬間、体が突然重くなる。

 レイスは急いで家の中へと入り、その場にうずくまると体の中がぐつぐつと煮えたぎるような熱さを感じた。


 視界がかすむ。そして、瞼は重たく、意識は遠のいていった。

 次目が覚めると、温かなにかに包まれており、頭を優しく撫でる手を感じた。


「目が覚めた? 大丈夫?」


 こちらを心配そうに見つめるその姿に、優しい人だなとレイスは思う。

 自分の体が小さくなり、ウサギになっていることに少しがっかりとする。


「大丈夫……だ」


 人間になっていたことを話そうかと思っていると、ミラが口を開いた。


「外の修理をしてくれたのは、貴方?」


「え? あぁ」


 もうミラは自分が人間に一時的に戻ったことを知っていたのか、そう思った。

 だけれど違ったようだとすぐに気づく。


「ウサギの姿でどうやって……でも、ありがとう。朝目が覚めた時に、隙間風がなくてびっくりしたの」


「え? い、いや。いいのだが……じ、じつは」


「ふふふ。すごく嬉しい。可愛いウサギさんと暮らせてしかも寝ている間に家を修理してくれるなんて。でも、それでこんなに疲れて床で倒れているなんて、びっくりしたわ。もう何もしなくてもいいから、元気でいてちょうだい」


 優しく頭を撫でられ、レイスは言うタイミングを逸する。

 あまりにも可愛らしく笑う姿に、見とれてしまったのが原因の一つだろう。


 そしてそれから月が出ても人間の姿に戻ることはなく、あれは赤い月の魔力による一過性のものだったのだなと毎夜月を見上げながらため息をつくことになった。


読んでもらえると、勇気になります。

伸びてほしぃー!!!(●´⌓`●)

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