19話
「ミラ嬢、やめるんだ! 今からでも遅くない。逃げよう」
少し準備をするから一度外へと出てほしいと頼み、現在外に騎士達は待機している。
部屋の中にいるのは私とレイス様だけなのだけれど、レイス様はぴょんぴょんと準備を進める私の足元で飛び跳ねながら言った。
「絶対に危ない! 頼むミラ嬢!」
「……だって……私がいかなければ、彼らは処罰されるかもしれないのよ? 知ってしまった以上、気分が悪いじゃない」
私は騎士達と共に、一度ルーダ王国へと戻る決意をした。
ただし、一度帰ってから国王陛下へ報告をし、その後はまたあの森に帰ろうと思ってはいる。
そして私がルーダ王国へと戻ろうと思ったのはそれだけが理由ではない。
騎士達のことを見殺しには出来ないと言う思いもあるが、やはり、レイス様が何故ウサギの姿にされたのかを明確にした方がいいと思ったからだ。
現在薬を服用してあと少しでレイス様の姿もきっと元の姿に戻るだろう。
だけれど、出来ることならば誰がどのようなものを使いレイス様に呪いをかけたのか、それを明確に知りたかった。
それを知ることで、レイス様に処方する薬の量や種類も変わるだろう。
レイス様の体調を考えるならば、それが分かっていた方が絶対に良いと思ったのだ。
「決めたの」
私の頑なさに、最終レイス様は大きくため息をつく。
「わかった。だが、絶対に危険なことはしないでくれ。もし危険なことをすれば、私は人間の姿に戻り、君を攫いルーダ王国から離脱するからな」
「あら、許してくれるのね」
「……仕方ないだろう」
レイス様はそう言いため息をつく。
私は荷物をまとめ終えた後、大きめのカバンの中にレイス様をゆっくりと入れた。
「これなら私が持ち運びできるわ。大丈夫?」
「あぁ……薬は?」
「ここに持っているわ。これが最後の薬だから……本当に大事な時に使わなくちゃね」
レイス様と私はうなずきあい、それから、私は荷物を抱えて外へと出た。
外で待っていた騎士達は私が現れたことにほっとした様子であった。おそらく私が逃げないか気が気ではなかったのだろう。
それから、私達は数日間かけてルーダ王国へと向かった。
私は少しややこしい道のりに、ここへくるまではそこまで馬車の乗り換えもなく不便もなかったはずなのに、おかしなことだなと少しばかり思った。
そしていよいよとルーダ王国が近くなってきた時、私は心臓が煩くなるのを感じた。
またあそこへ帰るのか、そう思い王城を見上げ、私は吐き気が込み上げてくる。
怖い。怖い。怖い。
そう思った時であった。
持っていたカバンの中からレイス様の温もりが伝わってきた。
その温かさに、私は少しだけ緊張が和らぎ、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。
大丈夫だ。
この後。何が起こるのかは分からないけれど、レイス様が一緒にいてくれるならば安心だとそう思えた。
まるで精神安定剤のようだなと、自嘲気味に笑ってしまう。
「ミラ様……本当にありがとうございます」
「自分達が助かるのはミラ様のおかげです」
この数日間で騎士達は私にとても真摯に接してくれた。
だけれど、私は騎士が傍に来るだけでぞわりと背筋に鳥肌が立ち、気分が悪くなってくる。
それと気になることがあった。
おそらく、この騎士達に命令を下しているのはローゼウス殿下であり、ルーダ王国の国王陛下ではないのだ。
国王陛下は命令が遂行できないからと言って、騎士を処罰するような人ではない。
元々はローゼウス殿下もそんな人ではなかったのになと思うけれど、殿下はオリビアに出会い変わってしまったのだ。
そして王城の門の方へと向かった時であった。騎士達は静かに言った。
「命令で、もしミラ様を見つけた時には裏口から入り連れてくるようにと命じられています」
「なのでついて来て下さい」
私はその言葉を聞き、本当についていっても大丈夫なのだろうかと不安になる。
出来れば国王陛下に直接お会いしたい。
そう思っていたのだけれど、騎士達に案内されたのは王城の中にある隠し通路であり、それは私も知らない道であった。
「ここは? ねぇ……私は国王陛下に直接お目通りを願いたいわ」
そう告げると、騎士達は顔を見合わせた後に少し考える。
「そうですか……ローゼウス殿下に、もしミラ様を発見した時には直接執務室に隠し通路を使い連れてくるようにと命じられているのですが……」
「だが確かに、現在国王陛下専属騎士達もミラ様を探していると聞く。国王陛下の方へと連れて行った方がいいのでは?」
「どうだろうか……」
意見がまとまらずにおり、騎士達からも迷っている雰囲気が伝わって来た。
私がもう一押しだと思った時であった。
「あれ~? もしかして、お姉様?」
背後から、オリビアの声が聞こえ、慌てて振り返る。
「……オリビア」
「やっぱり! ふふふ! 見つかったのね! 良かったぁ」
何故こんなところに?
私が一歩後ろへと後ずさった時であった。
騎士達に向かってオリビアが言った。
「お姉様が逃げないように捕まえておきなさい。さぁ、ローゼウス様の所へ行くわよ」
「「「「はい」」」」
先ほどまでは私の意見を聞こうとしていた騎士達が、はっきりとそう言う。
一体何があったのだろうかと思い騎士達に視線を向けると、先ほどまでの生気は消え失せ、まるで人形のように私の腕を掴むと歩き始める。
「ねぇ、離して!」
そういうけれど、騎士達は答えない。
ぞっとした。
これは一体どうなっているのであろうか。
私は自分に起きている何かが理解できず、ただただ恐怖が胸の中に広がっていったのであった。
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焼肉食べたいな(*´▽`*)