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【書籍2巻9/25発売】追放後の悪役令嬢は、森の中で幸せに暮らす~うさぎの呪いを解きたくない~  作者: かのん
第一章

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1話

 鳥の鳴き声が聞こえ、太陽の光がカーテンの合間から差し込む。


 私はその眩しさで体を起こすと、肌寒さに身を震わせながら、洗面所へと向かう。


 古い家なので至る所から隙間風が入り込んでくる。冬になるまでに少しくらいは手入れをしなければと思いながら洗面台の水桶に、貯めておいた井戸水を移しそこで顔を洗う。


「つっめたい……今日は……痛むなぁ……」


 2年前に元婚約者の手によって顔に負った火傷は、寒い日には痛む。


 鏡に映る自分は、昔の自分とは全く違う。


 貴族令嬢であった頃は、化粧をしないなどありえなかったけれど、深い暗い森の奥では化粧をする必要もなければ化粧品すらない。


 それになにより、火傷により右側の顔は赤く焼けただれており、化粧を施したところで隠れるものでもない。


 ただ、それを見るだけであの頃の絶望や悲しみが蘇ってくるので鏡を見るのをやめた。


「……まぁ、右目が失明しなかっただけ、ましよね」


 そう独り言ちりながら邪魔なので黄金色の後ろ髪を一つにまとめ、身だしなみを整え着替えを済ませると調理場へと向かう。

着ている服は古びたワンピースで、肌触りは悪いが着る物があるだけましだろう。


「火の魔法石も小さくなってきたな……こればかりは買わないと不便だし……頑張って働いて買わないと」


 この世界には魔法石という物があり、それを使って作る道具を魔法具と呼ぶ。


 火の魔法石は打ち付けることによって火を生み出す。魔法具になっている物だとより安全で使いやすいのだけれど高いので私はこの火の魔法石を購入している。


 魔法石で火をつけ、ポットでお湯を沸かしながらパンを切り皿へ載せる。その上にチーズを載せて机へと運ぶと、丁度お湯が沸いた。


 森で採れた草花で作った茶葉で紅茶を淹れると、私は席に着く。


「いただきます」


 温かな紅茶を一口飲めばそれは少し薬湯っぽい苦さがある。昔飲んでいたような香り豊かなものではないけれど、それでも十分体は温まる。

 チーズの載ったパンをかじりながら、私は今日も生きて食べ物が食べられることに感謝する。


 この2年間、よく死ななかったものだと思う。


本当に運が良かったのだ。


 追放処分となり、その後紆余曲折あってルーダ王国の隣にあるアレクリード王国の森の中で暮らしている。


 王家を呪ったことも、何故自分が泥にまみれこのような仕打ちを受けなければならないのかと泣いたこともあった。


 だが泣き叫んだところでお腹が満たされることはない。


 自分を助けてくれる救世主が来るわけではない。


 サクサクとパンを最後まで食べ終えると、紅茶を飲み干し、そして立ちあがる。


「さて、今日もしっかり生きていきましょう」


 もう人間など信じるものかと必要最低限以外はこの森に引きこもって暮らしている。


 エプロンを付けると、私は庭へと出て今日の仕事を始める。


 早朝の森の中はうっすらと霧がかかっている。


 森独特の土の匂いと、湿った空気をゆっくりと吸い込み、しゃきっと働いていくぞと気合を入れる。


 生きていくためには、一日一日、しっかりと働いていくしかないのだ。


 庭に作った畑にて、野菜への水まきと雑草取りを済ませる。


 その後は薬づくりの材料を森の中で採取へと出かけるための準備を行う。


 長靴に履き替え、ローブを羽織ると籠を持ち、腰には護身用のナイフを備え付ける。

 

 森の中には狼もいれば猪もいる。野生の動物たちはこちらを警戒して襲ってくることは少ないけれど、ここでは自分の身は自分で守らなければならない。


 朝の森は本当に静かだ。


 落ち葉を踏みながらも出来るだけ音を立てないように森の中を進んでいた時であった。


 森の中に住む鳥たちがざわめき始め、そして何かが走ってくる足音が響いた。


 何か来る。けれどそれは、普通の動物ではない殺気を放っていた。


 森の中で暮らしているとこういう気配に敏感になっていく。


 私は腰に備え付けていたナイフを抜くと、木の根元へと身を低くして隠れながら様子を窺う。


 普通の獣であれば食料の為に狩りたい気持ちもある。


 ただ、感じたことのない気配に身を強張らせた。


―――タンタンタン……。


 ぴょこんと長い耳が辺りを警戒するように動く。


 丸く赤い瞳、ふわふわの白いしっぽ。


 可愛らしい姿に思わず私は小さく呟いた。


「……ウサギ?」


「誰だ⁉」


私の小声に反応するようにどこからか声が響いて聞こえた。


 まるで運命のようだと思う。


 まさか自分がお目にかかる機会が、人生であるとは思ってもみなかった。


 関わらないほうがいいと言う気持ちと、白いふわふわのその姿に引き込まれる自分がいる。


 私は立ち上がるとローブについた落ち葉を手で払い、ウサギの前へと進み出て、その目の前で片膝を突くとその姿をしげしげと見つめる。


 どこからどう見ても真っ白でふわふわとしたウサギである。


 表情には出さないようにしつつも、私は心の中でふわふわの真っ白なウサギが鼻をひくひくとさせながらこちらを見つめてくる姿に、胸が高鳴っていた。


 大変可愛らしい。


 ウサギは黙り、しばらく私の様子を見てから口を開いた。


「……そなたが、森の魔女殿だろうか」


 姿はウサギでも、精神まではウサギになっていないらしい。


 そればかりかしっかりと人語も話せるということは、この呪いは不完全にかけられたものなのだろう。


「獣人化の呪い……ウサギだなんて……よく生き延びていたわね」


 ウサギは食用にされる動物だ。小さくて、捕まえやすい。


 良く捕まらなかったものだなと思いながら感心して呟いたのだけれど、その言葉にウサギは少し怒ったのだろうか。


 後ろ足を地面に、タン、タンッと打ち付けた。


 可愛いなと思いながら、私は我慢しきれずにひょいとウサギを抱き上げた。


「仕方ない。今日は採取は取りやめね。一度家へ帰るわ」


「おい。さりげなく頭を撫でるな」


 実の所、可愛い動物は大好きである。


 この森に来てからも可愛らしい動物をどうしても食用としては見ることが出来なかった。


 だけれど森の中でいくら可愛い動物を見つけても撫でられるわけではない。


 なので、ふわふわの毛並みがすごく魅惑的で抱き上げたことは内緒だ。


「うら若き乙女が、私が何者かも分からずに撫でるとは、危険だぞ。もし私が変態だったならばどうするつもりなのだ!」


「その時は、ウサギ鍋にしていただくわ」


「っひ」


 体がぷるぷると震えており、私は慌てて体を落ち着くように撫でながら言った。


「冗談よ」


「……笑えん冗談だ」


 ここまで怖い思いをしてきたのだろうか。そう思うと、ここに逃げて来た昔の自分と重なり、私はウサギをぎゅっと抱きしめる。


「大丈夫よ。ごめんなさいね。そんなことしないわ」


 怖い思いもたくさんしただろう。

 そう思い、私は優しくしてあげようと思えた。

 そして出会ったのが人間の姿でなくて良かったとも思った。


 人間は怖い。


 だから、ウサギの可愛らしい姿で良かったとそう思ったのであった。


読んで下さりありがとうございます(*'ω'*)

感謝感謝です!

お星さまいれてもらえると、飛んで喜びます!

ぴょんぴょーーーーん!!!


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