特別話 手紙
「うぅ...ぐすっ...優...」
彼は泣いていた。
明かりがひとつだけついた安置室で、もう目覚めることのない友の手を握って、ただ泣いていた。
もうどれだけ時間が経ったのかもわからない。だがそんなことはどうでもよかった。
友の両親と、彼の啜り泣く声だけが響いていた。
「優ぅ...なんで僕なんかを助けたんだよ...なんで...」
彼にとってその友はかけがえのない親友だった。
幼かった頃から、常に隣にいて、血はつながっていないのにまるで兄弟のようだった。
そんな家族のような存在を無くしてしまったのだ。
「あの時...僕がすぐに逃げていれば優が僕を助けて死ぬこともなかった...
君はいつもそうだ...自分のことなんか顧みないで行動して...死んだら元も子もないのに...!」
「凪くん、もういいんだ。優は、その時できることをしたんだ。」
「そうよ、凪ちゃんは悪くないのよ...優ちゃんも、きっとあなたが泣くのを望んでいないわ...」
涙を流しながら彼を慰める親友の両親は、彼の何倍も悲しいはずなのに、それでも彼を慰めた。
「だって...!僕が...!僕がしっかりしていれば...!」
「いいのよ...私たちは恨んだりしないわ...優ちゃんが命をかけて守ったんだもの...あなたを責めるなんて、優ちゃんに怒られちゃうわ...」
「凪くん、優のために泣いてくれてありがとう。君が優の親友でよかった、優は幸せ者だ。」
「うぅ....あぁ....うわぁぁぁぁぁぁああ.......」
まるで幼い子供のように泣く彼を両親は抱きしめた。
自分の子が命を張って守った子を、彼らは優しく抱きしめた。
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「すいません...もう落ち着きました....」
「よかった...今日はもう帰りなさい...ずっとここで泣いてたんだもの、ゆっくり休んだ方がいいわ...」
「ありがとうございます...そうします...」
親友の両親に促され、彼はフラフラと魂が抜けたような歩き方で安置室を出て、病院を後にした。
その後、家につき、部屋に入ろうとした時、床とドアの隙間に封筒が挟まっている事に気がついた。
「なに...これ...手紙?」
表には差出人は書いていない。
宛名が「凪へ」とだけ書かれている。
「とりあえず...見てみよう....」
封を開け、中から紙を取り出し、読んだ。
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「凪へ
この手紙を読んでいる頃には、僕はもう...なんてありきたりな文はいいか。
凪が生きていてくれて本当によかった。それだけでも成仏できそうなくらい。
お前のことだから自分を責めてるんだろうなって簡単に想像できるよ。
でもあれは僕が選んだ行動だから、凪が気にする事はないんだ。
せっかく可愛いんだから笑って僕を見送ってくれよ!
きっとまた会える。なんかそんな気がするよ。
じゃあね、ありがとう。
優」
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間違いなかった。
それは死んだはずの親友からの手紙だった。
「そんな...優は死んだのに...」
それでもなぜか、笑みが溢れた。
「結局死んだ後も優に心配されてるんだなぁ...僕は...」
その時、空だと思っていた封筒から、小さな手鏡が出てきた。
「こんなの入ってたっけ...」
明らかに封筒に入ってたらわかるサイズの手鏡、訝しげにその手鏡を覗き込んだ瞬間、手鏡がいきなり光を発した。
「なんだこれ...!?」
そして光は部屋を包み込み、何事もなかったかのように収束した。
ただ一つ、その部屋にいたはずの彼の姿がなかったことを除いて。
手紙を受け取った凪視点です。
彼はこの後どうなるんでしょう。
今後もお楽しみに。
詩幽乃