婿殿(予定)
漸く安全な家にたどり着いた。私は母に挨拶をするとすぐに自分の部屋に戻った。
私はドレスを着替えて楽な部屋着に着替えベッドに倒れこんだ。
ああ、実家最高。
もともとブルジョワはあの学園には跡取り息子しか通えなかった。私のように娘まで通えるようになったのは少し前からだ。
私としてはこのような事態になるなら前時代に戻りたいと思った。
そんな私に来客が来た。思わず嫌な予感がした。
しかし私の予感は外れた。やってきたのは私の従兄弟たちだった。
そして、息を吐いた私は次の瞬間に裏切られた。
「ジャネット、まさか俺たちに不満でもあるのか」
「男を物色しているって本当か」
ストリングスの従兄弟ジョンとシャトルの従兄弟ラリーが私に詰め寄った。
「あの、それはいったい?」
「貴族の息子と付き合っているって本当?」
そして、父方の従弟ロビーも私に詰め寄った。
「あのな、そういう発言は現場を押さえてから言ってくれ」
私は頭痛をこらえているが、相手は納得しない。
「それなら、どうしてあんな噂が立ったんだ?」
ジョンはそう言って私を疑いの目で見た。
「言っておくが、私の姿を男子棟で一度でも見たのか?」
「いや、見ていないな」
ラリーが恨みがましい目で私を見た。
「俺たちがいるんだから、一度くらい来てくれてもいいのに」
その台詞は私はスルーした。この三人は私の婿候補の中でも特に有力とみなされている。最終的に決めるのはお父様と私だが、今のところ選定は特に行っていない。
「特に会いたいと思わないしな、私としては卒業してからの方がいいと思っている」
ロビーが深々とため息をついた。
「そうだよね、これがジャネットだ」
ロビーは私の父に似ていて、私と同じ茶色い髪をしていた。子供のころはよく兄弟に間違われた。何となくロビーはないなと思っていた。
あらぬ誤解を招きそうだと。この国では従弟間で結婚できるが。
ジョンとラリーは母方の従弟より遠い親族だ。母と同じ奇麗な金髪をしている。私の妹も母親似の奇麗な金髪をしている。
この二人はまあ、悪くないと思っているが。それにこの三人の誰かに確定しているわけじゃない。
父が取引先の誰かに薦められたら、その相手とお見合いもありうる。
「しかし、ならなんでそんな噂が?」
「どっかの貧乏貴族の息子がこの家の婿入りを企んだとか?」
ラリーとジョンがそう結論付ける。
巨額の持参金目当てに干上がっている下級貴族がブルジョワに縁談を申し込むのは珍しくもなんともない。
昔は爵位目当てによくブルジョワの方が貴族に縁談を持ち込んだが最近は逆の現象が起きている。
「そういうことなら、こっちでも調べておくよ」
敵を見つけた目で三人は笑った。
ウイービング家の家督を狙う不届きものに目にもの見せてやろうというのだろう。断じて私ではない。
「もしかしたら、栗色の巻き毛に緑の目の男かも」
「根拠は?」
「以前中庭で告白された」
「返事は?」
「していない」
「よくわかった、ぶっ殺す」
三人は好戦的な笑顔を残し我が家を去っていった。