公爵令嬢マグノリアは見た
王宮では静かな嵐が巻き起こっていた。
第二王子リチャードのスキャンダル。それに伴う嵐が。
第二王子リチャードが婚約者を陥れ浮気相手のブルジョワの娘と結婚しようとたくらんだが当のブルジョワ娘にあっさりと断られるという間抜けな結末にすべての王宮関係者が言葉を失った。
第二王子の危険思想に国王と王妃は頭を抱えた。
そして王族ですら憧れるほどブルジョワの隆盛は著しいのかと国政を真剣に憂いた。
もちろん今この国のブルジョワを排するなんて真似をすれば国はつぶれる。いつの間にかブルジョワはそれだけの力をつけてしまったのだ。
公爵令嬢マグノリア・セントバーナードはその有様を白けた目で見ていた。
マグノリアはかつて間違いなくリチャードを愛していたと思う。
しかしいつの間にかその気持ちは失せていた。
リチャードがいわゆる恋愛体質で親の決めた政略結婚ではなく本当の恋人を探し始めたと知ったのはいつのことだっただろうか。
いつだって隣にいたのに視線は別の女に向けているのにムカつかないと思っていたのだろうか。
すでに婚約は破棄された。リチャードのためでなくリチャードのせいで。
そうせいでだ。これは大きい。
もちろんマグノリアはこの年で婚約破棄となれば国内に年頃の合う結婚相手候補はいない。このままでは尼寺送りだ。
しかし、この婚約破棄を後悔はしていなかった。
家族としても公爵家の娘はブルジョワの娘に劣るなどという暴言を吐かれて黙っていたら面子が丸つぶれだ。
貴族が何よりも大切にしているものは面子と言っても過言ではない。
後悔しているとしたら間違った情報を鵜呑みにして被害者であるジャネット・ウィービングを迫害してしまったことぐらいだ。
王族に意に沿わない関係を強いられていた被害者でありこちらに敵対する気は相手になかった。これを確かめなかったのはマグノリアのミスだ。
ただ、あのセリフはなかなか痛快だった。
まるで砂糖菓子のような愛らしい少女。ジャネットはいかにも愛嬌を振りまいているだけの頭の弱そうな娘に見えた。
しかし。見直してみればジャネットはむしろ冷徹な思考の持ち主だった。
「そうね、できることならゆっくりと話してみたかったわ」
あの冷徹な思考の持ち主と語り合うのは楽しそうだったが。だがそれは許されない。できる限り早くほとぼりを冷ますために関係者同士顔を合わせるのは極力避けろと厳命されてしまったのだ。
「さようなら、リチャード」
王家にとって危険思想の持ち主である第二王子をこのままにしておくわけがない。おそらく誰かが手を打つだろう。
「いっそ王家を追い出されて平民になってしまえばいいのにね」
それもありかもしれない。身分のない男になったら身分に囚われない恋人に出会えるかもしれない、それまで死ななかったらだけど。
「まあ、なくはない可能性ね」
マグノリアは小さく笑った。
そして、婚約の贈り物だった小さな指輪を投げ捨てた。




