災難は突然に
普段は五分前に教室に入っている私がなぜ遅刻したのか。悪友たちはこぞって話を聞きたがった。
そして私はランチタイムであった一部始終を話すしかなかった。いや無理やり話させられたような。
「あら、良かったわね」
悪友のマリアンヌはにっこりと笑う。
「ジャネットが告白されるなんて、ほんと良かった」
「そうね、勇気ある人がいてよかったじゃない、なんだかあんたってそこそこ可愛いわりに男を避けているようなところがあるから」
「学生の本分は学問だ」
「だからって完全無視はよくないよ、たまには話を聞いてあげないと」
それに関しては私にとっても何事も言い難い。基本的に私はそれほどそうしたことを気にしたことは無い。
しかしあれはないと思う。
「まず自己紹介だろう? 自分の名前も名乗らないような奴は相手にするわけないだろう」
「ああ、自己紹介なしか、それはちょっとね」
「で、どういう男?」
マリアンヌは興味津々な顔で私を覗き込んだ。
「顔はまあまあ、体育会系の体つき、茶髪の巻き毛に緑の目」
端的すぎない?しかし私にとってはどうでもいい。
「それでどうするの」
「最低限のこともできない男だし、問答無用で人を勝手に自分のもの呼ばわりするような男は御免」
「あら、顔がまあまあなら付き合ってみればいいのに」
そういう問題じゃないの。
マリアンヌはすでにお付き合いしている男子がいる。学園はクラスは男女別だが、庭園やテラスはグラウンドは男女共用なので、そうしたところで相手を探すものは多い。
基本的に私は探したことは無い。だって面倒くさいもん。
「今度紹介してね」
いや、私としては二度と会いたくないんだけど。そう言おうとしたがマリアンヌの奴聞いていねえ。
心底疲れ果てた私は自分のロッカーに向かった。
ロッカーの中には昨日買ったばかりの詩集が置いてある。雄大な山を詠んだ静かな詩を詠む私のお気に入りの肉体派詩人の最新作だ。
私はロッカーを開けた。そしてロッカーの中身がなだれ落ちてきた。
私はロッカーの扉を開けた途端なだれ落ちるような収納をした覚えはないのだが。
ロッカーの中身は私の体操着と鞄、そしてノートや教科書。教科書やノートはページがぐしゃぐしゃになっている。
「え?」
そして体操服は刃物で裂かれている。
なんで私がこんな目に遭わなければならないの?
このような悪質ないたずらが横行していたとは初めて聞いた。いや私が最初の被害者なのか。
刃物が使われているならほかの生徒も危ない急いで先生に。
そして私は見た。買ったばかりの詩集に刃物が深々と突き刺さっているのを。
私は押し殺した悲鳴を上げた。