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学園祭初日

 まとめた資料はラリーに預かってもらった。

 私に対する嫌がらせは女子棟にとどまっているはずだ。そして資料は私だけの問題ではなく、同じ課題をこなすマリアンヌやメディアの問題でもある。万が一にでも破損など許されない。

 幸い学園祭の時は男女が自由に男子棟や女子棟を訪れることができるので預けた資料の受け渡しに困ることは無い。

 私の発表は二日目、その間は他の生徒の発表を聞くだけだし。発表自体はマリアンヌが行うことになっている。

 私は脇に控え、その補佐をする。

 発表はこの時だけ使われる講堂だ。物凄く広い。そして最終日の舞踏会の会場でもある。

 発表会のための設営や諸々でおそらく時間を潰すことになるだろう。

 初日は楽曲を奏でるものが多い。

 発表は学問に限らない。私たちが絵画を題材に選んだように芸術もその対象になる。

 音楽会は楽曲によっては楽しめる。私はスローテンポの曲を聞くと眠気がさすので、その場合は眠気に耐える苦行となるが。

 そんなわけで、かなり大量の楽器を持ち込む生徒が発表台に向かう頃、私たちはひたすら椅子を運んでいた。

 軽い椅子というものはない。そういうわけで私たちは一脚ずつ椅子を地道に運ぶことになった。

「軽くて丈夫な椅子が発明されたら一儲けできそう」

 丈夫な樫の木でできた椅子を担いだマリアンヌが呟く。

「ぜひ発明してちょうだい、私たちが卒業する前に」

 私の人一倍小さな身体では椅子を運ぶのは一苦労だ。

「そうね、金属で作るとしたら、どうかしら」

 マリアンヌが考え込んだ。

「筒状の金属は軽いけれど丈夫なのよね、それを組み合わせればこんな分厚い木でできた椅子より軽く作れるかしら」

 もしマリアンヌが言う軽くて丈夫な椅子が発明されたとしてもおそらく学園では採用されないだろう。

 何しろ伝統と品位こそ存在意義な方達が運営する学園なのだから。

 私はよろけながら椅子を運んだ。

 男子はもっと重い机や、その他の備品を運んでいる。椅子はその中では軽い方だ。

 そのため文句も言えずひたすら足を動かした。

 全校生徒だけでなく来賓の分もある。そういう方が軽量の椅子なんかをあてがわれたら無礼討ちにしてやるぐらい言い出しかねない。

 まったく面倒くさいったら。

 椅子を運んでいるのは私たちだけではないが、やはり大貴族の子弟たちはこのような肉体労働に駆り出されることは無い。

 どうしたって身分制度はこの国に根強く残っているのだから。

「この椅子の配置も今日だけなんだから」

 明日は文科系の発表なので、椅子の配置が変わる。明後日は舞踏会のために椅子を片付けてしまわなければならない。

 たとえ舞踏会に出席できたとしても、踊る体力が残っているだろうか。

 ふとそんなことを思った。


 


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