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ランチタイムで

 それはうららかな昼下がり。私は学園の中庭でランチボックスを開き一人で静かに庭園の木々を愛でながら食事をとっていた。

 普段は一緒に食べる級友達は一人は本日欠席、もう二人は生徒会の仕事があってその仕事の傍ら生徒会の仲間と食事をとることになっていると前日言われていたので私は久しぶりに一人で昼食をとることになった。

 サンドイッチとハムに巻いた野菜を食べながら向こうのグラウンドで走り回る他の級友の姿を視界に入れた。

 食事を食べ終えると次の授業の用意をしなければ。そしていつもと同じルーティンが待っていると思っていた。

 その時は。

 ランチボックスを片付けてバスケットを手に立ちあがったその時、影が差した。

 顔を上げた私のすぐそばに立っていたのは若い男だった。

 知らない顔だ。

 顔はまあまあ、背が高くすらりとしているが肩幅はそれなりにある。立ち姿からして何らかの形で身体を鍛えているのだろう。

 着ているのはわが校の制服。

 男にしては白い肌に栗色の巻き毛が額に垂れかかってていた。

 奇麗な緑の瞳は笑みの形になる。

「君が好きだよ」

 唐突にそう言われた。

 男はにこやかな笑顔を浮かべたまま私に話しかける。

「君が好きだ、君のためなら何でもする。君だけなんだ」

 私の目を覗き込んで熱っぽくそう囁き続ける。

「あの?」

 その時私の頭の中をよぎっていたのは、まず自己紹介が先なのではということだった。

 顔に見覚えはないので同級生でないことは確か。だとすればたぶん上級生だと思う。下級生にしては老けているし。

「愛しているんだ、君は僕のものだ」

 こちらの意思も聞いてもらえませんか?

 そんな言葉も私の喉を通ってくれなかった。あまりにも状況が謎すぎて。

 もし級友たちがいたらこんなことにはなっていなかったのだろうか。

 いやもしかしたらこの男あの悪友たちの目の前で同じことをしたかもしれない。そんな空気の読めなさそうな顔をしている。

 男はさわやかな笑顔をして去っていった。

 そして、鐘が鳴った。その鐘は授業の始まりを告げる鐘だった。

「うげ、遅刻」

 あの男に絡まれなければ余裕で授業に間に合ったものを。

 私は少しでも遅れを取り戻そうと全速力で走った。

 もちろんすでに来ていた教諭に私はがっちり叱られることになり、生徒会の仕事をしていた級友は怪訝そうな顔をして私を見ていた。


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