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非日常の勃発

 進路に悩む高校三年生の女の子を、過干渉と感じさせる事が無いよう出来るだけ己は露出せずに、全力でバックアップする。

 それが、私が私自身に対して課した今回のミッション、だ。


 例え偶然とはいえご縁ができて、興味本位で聞き出すつもりなど毛頭なかったとはいえ結果的に身の上話をさせてしまい、あまりにあまりな状況に何か少しでも力になりたいと強く思った。

 とはいえ。そう、とは言え、だ。

 身内でもご近所さんでも古くからの知り合いでも何でもない赤の他人な年齢も近い若い男が、何の下心もなく唯々応援したいのだと主張したところで信用も信頼性も欠片もない、と思う。

 だから。表面上は大した事などしていない、という形態は崩さず何かの(つい)でとばかりに契機をつくり裏で最大限に手を回す、といった手法を選ぶことにした。

 まあ、実際には。私に、地位も権力も財産も飛び抜けたものは何一つないので、これが出来るといった目途や目論見が何かあった訳ではない。

 けど。生真面目で一生懸命な彼女に、将来の展望が少しでも開けるように、どうしても何かお手伝いしたかった。


 うん、まあ、勿論。下心が全く無かった、とは正直なところ言えそうにない。

 第一印象からして、私の好みのタイプのド真ん中、だったからなぁ...。


 だけど、その、なんだ。彼女の置かれた苦しい境遇を知ってしまい、如何にかしたいと痛切に思ったのもまた事実。

 だからこそ、私が何か必死に尽力しているなどと相手から見えないようにコッソリと裏で手を回す、という縛りを自分自身に課してみた。

 彼女が首尾よく進学を果たし、生活に困窮することなく将来に過大な枷が嵌るようなことも無く、楽しそうに学生生活を送っている姿を見られたならば、何食わぬ顔してお近付きになろうとする程度であれば許されるだろう、などといった甘いことは欠片も考えていない。とまでは言えない処が、玉に瑕ではあるのだが...。


 高校三年生としての、進路に関する悩み。

 そこまでは、よくある話だ。

 ただ、彼女の場合は、それだけではなかった。


 児童福祉施設で暮らしていると高卒で施設をでて自立する事が求められるため、実質的に進学は難しい。けど、勉強が好きで、成績は悪くない。飛び抜けて良い訳ではない、と本人は謙遜していたが、学校の先生や周囲の人が進学を進めてくれるので、悩んでいる。

 体調不良に陥ってしまっていた初めて会った時も、お礼を言うために探していて再会できたその日も、実は通学する高校から推薦されると無償で受講できる大学受験に向けた特別授業に参加した帰りだったので遅い時間だった。


 そんな話を聞いて、そうなんだ頑張ってね、と何もせずそのままで袂を分かち忘れてしまう事なんて、私には出来なかった。


 と、まあ。

 兎にも角にも、そんな訳で。

 自分自身に縛りを課してのミッションを設定した私ではあったが、大変遺憾ながら、暫くの間は打開策が何も思い浮かばずに悶々とするばかり、だった。

 そして。

 ついついポロリ、と。

 たまたま来店していた伝統と格式ある名門お嬢様学校の卒業生であり現職の大学職員でもある常連さんのお姉様に、無意識に尋ねてしまったのだ。

 何が如何なってそんな話になったのか今となってはもう何も思い出せないが聞き出してしまった彼女の通う高校と大凡(おおよそ)の成績など引き合いに出し、経済的負担なく進学する方法はないものなのか、と。


「バイトくん、バイトくん。そこ、詳しく説明しなさい」


 ギラリと瞳を輝かせ、ニンマリとした笑顔を浮かべた迫力ある綺麗なお姉さまが、何故だか強烈な興味を示した。

 そう。何がお姉様の琴線に触れたのか不明だが、超弩級の地雷を踏み抜いてしまったかの様に、強烈な引きだった。


 うん。ごめんなさい。


 当事者である彼女には大変申し訳ないが、良家の子女であり迫力ある大人な美人さんでもある姉御肌なお姉様の意向に逆らうなど、不可能。

 私は、お姉様の目力に促されるまま、洗い浚いを吐き出す事となった。

 そう。包み隠さず、私が知り得た情報を全て、お姉様に詰問されるがままに供出した。


 彼女がスマホを持っていない上に普段は容易にネット閲覧する環境すら与えられていない、といった説明をすると。


「説明資料一式は、タブレット端末に入れて見せながら説明して、端末ごと渡せば良いか...」

「タブレット端末、ですか?」

「私がこの前まで使っていた十インチのパッド君があるから、あれを暫く貸し出そう」

「はあ」

「けど、色々と対処するのには、ネット接続ができた方が良いのよね」

「そう、ですね」

「だけど、あのパッド君、わいふぁい接続しか出来ないんだよね」

「...」

「ねえ。彼女の行動範囲内にあるホットスポットって調べられる、よね?」

「は、はい!」

「よし。調べて、纏めて、分かり易いレポートにしてから速やかに提出なさい」

「分かりました!」


 そんな、心温まるけど震撼せしめるような遣り取りが交わされる事態と、相成ったのだった。

 しかも。

 当然と言えば当然ながら、そこでその話が終わる訳もなく、実質的にほぼ一回しか会ったことのない女子高校生をこの店まで連れて来るという過酷なミッションも、強制的に拒否権なしで仰せ付かることになった。


 うん、まあ、自業自得である。


 巻き込まれてしまう彼女には、大変申し訳ないのだが、諦めて貰うしかない。

 謝罪あるのみ、だ。


 そんな訳で、私は、姉御肌でパワフルな押しの強い綺麗なお姉様の指示を受け、お姉様のご都合と彼女の意向を調整するという難易度の高いミッションを可及的速やかに実行する羽目になったのだった。


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