偶然の遭遇は僥倖
う~ん、惜しい。
私のストライクゾーンど真ん中をぶち抜く、超好みのタイプそのものズバリ。
そう。もう少し身嗜みなど整えれば...たぶん。
いや、まあ。そんな事を言われた方も困るだろうが...少し勿体ない、と思ってしまった程に、しげしげと見れば見るほど、彼女はその素材が相当に良かった。
ただ、お洒落に興味がなくガサツな性格、といった訳でもない。ようにも見えるのだが、何故だか全体的に漂う野暮ったい雰囲気が、その素の優れた部分を大きく阻害している。
それが、物凄く印象的だった。
始発駅からいつも通りに乗車した私は、扉に近いベンチシートの席に座りボンヤリとしていた。
終電までまだ余裕はあるが少し遅めな時間帯の車内は、地下鉄線との乗り換え駅でもある最初の停車駅で多くの客が乗ってきたため、少し混雑気味。
私の周囲にも、それなりに他の乗客たちが存在する。
扉付近で凭れていたり手摺を掴んで立っていたり、吊革に掴まっていたり。と、老若男女がそれぞれ思い思いの姿勢で、電車に揺られている。
私は、そんな車内で、見るともなしに目の前で吊革に縋り付くようにして立っている人物に目を留め、彼女に気付いたのだった。
少し草臥れた制服と革靴、女子高生にしては珍しくお洒落とは言えない素っ気なく飾り気の全くない靴下とヘアピン。
髪は丁寧だが奇麗に手入れされているとは微妙に言い難い感じのおかっぱ頭で、化粧っけは全く無く、リップクリームによる艶や色付きすらもない。
けど。よくよく見ると、顔のつくりは整っていて、小柄で女の子らしさもあるスリムな体型で、私の理想を体現したような美少女。
いやいや。
その女の子の外見に気を引かれたというのではなく、何だろう、滲み出る人格というか纏う空気というか、彼女が全体的に醸し出しているオーラのようなものに何故だか惹かれる、みたいな...。
何かのご縁があって、ちょっとした契機で彼女の纏う可愛さの阻害要因を排除することが出来て、何故だかお付き合いをするような良い間柄になれたりしたら、良いのになぁ。
などと、思わず性懲りもない妄想へと思考が流れかける。が、まあ、何とか正気に戻った。
ははははは...まあ、あり得ないよね。
私は、そんな益体もない事を頭の中で考えながらも、現時点で私の視野の結構な領域を占めている女の子の姿を、焦点を合わさずホケっと眺めていた。
のだが...何だか、様子がおかしい。ような気がする。
彼女の瞳に、何も映っていない。反応がない、と言うか、固まっている。
うん。これは、異常事態だ。
無意識の内にマジマジと見詰めてしまったが為に、私は、目の前に立つ制服姿の中高生であろう女の子が、相当にヤバい状態だ、と気付いてしまった。
そう。これはどう見ても、気力だけで立っている。
パッと見は無表情で微動だにせず立っているように見えなくもないのだが、下手すると意識が朦朧としているのではないだろうか...いや、もう意識が無いかも。
ま、拙いぞ。やばい!
私は、大慌てで、席から飛び上がる様にして立ち上がったのだった。