G.W.鷺の沢(その1)
キャンプ場に来て、ご飯のおかずをゲットしなくてはなりません。
【鷺の沢キャンプ場(初日)】
「 「 「 おおぉぉーーーー 」 」 」
囂々(ごうごう)と流れ落ちる滝を目の前にして、私たち6人は見事にハモった。
G.W.初日の今日、みんな早起きして6時に家を出た。
お父さんが(また)友達からワンボックスカーを借りて、みんなを拾いながら3時間かけてやっとのこと、ここへたどり着いた。
そして、とりあえずみんなであたりを散策しながら、この滝まで来だのだけど、
いま、その姿を見て感嘆したのだ。
「綺麗な滝だなー・・・・」
そう、上から滑り落ちるように3段になって流れるこの滝はとても美しい。
滝壺は相当深そうだ・・・
「ヌシがいそうだな!」
うん、真ん中からちび竜とかがニョキっと顔を出したら、さぞや可愛いだろう。
・・・なんて考えながら、
私は跪いて川の水に手を差し込む・・・
とてもひんやりとして、でもなんだか水が柔らかい感じがした。
そのままひとすくい・・・飲んでみる。
「あっ、おいしい!」
「こら!、いきなり飲むやつがあるか!(笑)」
「平気。」
「あ。ほんとだ、水おいしい。」
「うん。」
私につられて紗奏と美沙も味見をする。
そして・・・
来た道を戻り、まずはベースキャンプの設営をすることに。
残念ながら、美沙ちゃんのご両親はおじいちゃんたちを温泉に連れて行くのだそうで、「娘をよろしくね」と託された。
一方、直樹さんの方は予定を入れていなかったそうで、一緒に来ることになり、紗奏の嬉しそうな顔ったらない。
それから引っ越してきたばかりの安藤君も特に予定はなかったようで一緒に来ることに。この旅行中に二人が急接近したらどうしようかと、私はドキドキ・・・いや、ワクワクしている。
そんな感じで、男手が3つもあると、二つのテントと、一つの日さし、簡易テーブルセットなどの設営はものの30分で終了した。
「さて、それじゃまず、散策しながらよさそうなポイントがあったら、釣りでもしようか。釣れなかったら飯はないぞ。(笑)」
「 「 はーい 」 」
(お父さん、カレーの準備をしてあるのは、全員知ってますから!)
このキャンプ場にはお店はおろか民家さえないのだけど(たぶんいざという時のための小屋が一つあるだけ)、山の入口には1件のお土産屋さんがあって、そこで釣り竿セットを人数分借りて来ていた。
ここは釣り人にも人気のスポットなのだと言う。
【伸朋と直樹】
「おっ!」
本日初ヒットで見事釣りあげる。まずはヤマメが一匹。
「やりますね。」
「しっかりと食料調達しないとな。(笑)」
「・・・
紗奏の家のこと、ありがとうございました。」
彼が何か言いたげだなと思っていると、そう言ってくる。
「いやいや、俺は実質何もしてないよ。」
「本間さんが何もしていなかったら、今のこの時間はありえなかったと思います。」
「・・・それじゃぁ素直に感謝されておくかな。(笑)」
「一つ聞いていいですか?」
「うん?」
「紗奏の親父さんに何か言いませんでした?」
「あぁ・・。
うん。一つだけな。
どうか守るべきものを間違えないようお願いします。って。
出過ぎたお願いかもしれなかったけどね。」
「それも、ありがとうございました。
優しい親父さんが、よく断れたもんだと正直感心したんです。」
「白石さんの会社は、販路以外全く問題が無いと思った。
・・・まぁ、販路じゃなくて受注先だったけどね。
ということは、軌道回復するのは難しくないし、
あれだけ取り引きが深かったんだ、恥を忍んで頼ってくることは
予想できたからな。」
「でも、それを断るよう勧めるのは誰にでもできる事じゃないと思います。」
「私は娘が大事だから。
すると、その大親友の紗奏ちゃんも大事になるし、
そのラインまでは幸せであって欲しい。
逆にそのラインの外の人は自力で頑張ってください、
と思ってしまうから・・・。
守備範囲外には、冷たいのかもしれない。」
私はごく自然に自分の本心を話していた。
「親父さんの友達なんです。潰れた会社の社長は。
いい人なんです。
だから、あの経理担当が俺は許せない!」
「・・・。
そうだったのか。
それは、・・・酷なことをお願いしてしまったな。
・・・
でもね、人を恨んでもいい事は何もないよ、直樹君。
自分の限られた時間を、憎しみなんかに使っちゃ勿体ない。
どうせ考えるなら、好きな子の事だけ考えてたほうがずっと幸せだ。」
「紗奏の事ですか?」
「いや、俺はそこまでは言ってないぞ。」
「中学生であれですからね、正直こっちは困りますよ。」
「年に不相応な美しさの彼女の愛が重い?」
「そんなこと思うわけがない。
・・・でも、犯罪者にはなれないでしょ。」
「・・・そう素直に出られるとは正直思わなかったな。」
「あの子も、もう少し感情を隠す努力をして欲しいんですが。」
「君は上手にフィルターを掛けてるよね。」
「俺はこれでも結構大人ですからね。」
「紗奏ちゃんは、感情を隠す必要が無いくらい友達を信頼してるって事じゃないのかな?」
「そうでしょうね。それ自体はとてもいいことだ。」
「おっと!」
そう言って一匹の魚を釣り上げる。
いいサイズのヤマメだ。
「お、話しながらでもうまく合わせたね!」
「ちょっとはいいところを見せたいですからね。」
「それにしても、ほっとしたよ。
ちゃんと気持ちに向き合えていて。」
「否定しても始まりませんからね。」
「そうなんだよね。
『だめだ』、
『ちがう』、・・・
そうやって偽っていたらいつか堤防は決壊する。
一度認めてしまえば、結構我慢はできるものなんだと俺は思うよ。」
「ええ。
それじゃ、ホントにありがとうございました。
俺は紗奏のところに行きます。」
「ああ。せっかく来たんだ、楽しもう。」
【梨桜と紗奏】
「ごめんね紗奏、お父さんが直樹さん取っちゃってて。」
「んーん、直樹が本間さんと話がしたいんだって。
すぐ来るって言ってたから平気。」
「ん~~、何の話かな~~。」
「ウチのことだと思う。お礼言いたいんじゃないかな。
ほんとに、自分の事の様に感謝してて、あたしもびっくりだよ。」
「それだけ紗奏のことが大事なんでしょ?
・・・
あ。ねぇねぇ、あれから進展あった?」
「・・・あった・・・ような・・・たぶん。(笑)」
「なに?」
「うんとね、あの後、勉強みに来てくれた日に・・・」
「うん。」
「うちに泊まることになってね。」
「え? それって・・・」
「しかも私の部屋に。」
「えーーー!!!」
(私はできるだけ声を落として絶叫した。
まさか・・・まさか?)
「ちがうからね!(笑)
でも、思い切ってアタックしました。」
「うん。」
「・・・たぶん、悪くは思われてはいない。
・・・いやちがうね、
・・・うん。
好かれてはいる・・・と思う。」
「テレる~~、なんかすごい照れるよ~~」
「あたしも照れる。(笑)」
「・・・そっち行っていい?」
「ん?」
「・・・って言った!(笑)」
「きゃ~~!!!!!」
(またしても、小さく小さく絶叫した。
ポンポンと自分の腿を叩いてしまう。)
「・・・それでなんて?」
「『ダメに決まってるだろ』だって!(笑)」
「紗奏、お母さんも許しませんよ!(笑)
・・・
・・・でも、直樹さんもそこまで言われてよく踏みとどまれたね。
私なら、がぶっと行っちゃう。(笑)」
「これ!(笑)」
「あ、直樹さんだ!
じゃ、私はお父さんとこ行くね。(微笑)」
「気を使わせてゴメン。」
そう言って私は、お父さんのいる下流のほうへと向かった。
【美沙と道兼】
「よっ!・・・
・・・あー・・・。」
これで何回外しただろうか、
それなりに自信はあったというのに。
「どんまい!
そういえば道兼、勉強できるのはこの前ので分かったけど、運動神経はどうなんだ?」
「普通かな、可もなく不可もなくって感じ。
反射神経は割といいと思うけど。」
「おっ、・・・・。
よっと!」
美沙ははや3匹目の魚を釣り上げた。
それがアユなのかヤマメなのかはわからないが。
彼女はとても反射神経がよさそうだ。
「美沙は反射神経も運動神経もいいみたいだね。
こんな難しいのに。」
「あぁ。勉強はまずまずだけどな。(笑)
運動は全般的に好きだし、かなり得意だと思う。
・・・
道兼は、休みの日は勉強してることが多いのか?」
「うん、そうだね。僕も父さんを目指してるから。
たまに息抜きにゴルフクラブを振るくらいで。」
「えっ!、それは意外だわ。
家の前とか、打ちっぱなし場とか行くの?」
「いや、部屋で。
7番アイアンくらいだと、振り回しても平気なんだ。
正面にベッドのマットを立てかけてさ、
床には足ふきマットを置いて、ボールを置いて。」
「凄いな、部屋でゴルフ練習って。
ゴルフ場とかも行ったりする?」
「いや、とてもそんなレベルじゃないし、
目的もどっちかって言うと、精神集中みたいな、ね。
最初のころは結構当たって前に飛んだんだけど、
慣れてきたら、逆に空振りも多くなったりして・・・(笑)
一回、ボールが真横に飛んじゃってさ(笑)
危うくガラス割るところだった。」
「ぷっ、どんな当て方したら真横に飛ぶんだか(笑)
・・・・・・
ゴルフかー、やってみたいなー。」
「美沙は運動神経いいから、すぐ僕より上手くなりそうだな。」
「じゃぁ今度遊びに行って、ガラス割ってやろうか。(笑)」
「う、うん、どうぞどうぞ。(笑)
僕がG.F.連れて帰ったりしたら、親は腰抜かすかもね。(笑)」
「あえて聞くけどさ、女っけなかったのか?
イケメンなのに。」
「残念ながら、まったく。
イケメンなんて言われたのも初めてだよ。
ていうか、今言われるまでその言葉もそんな好きじゃなかったし。」
「あー、男子も女子も、顔がいい奴ほどコンプレックス持つんだよなー」
「僕もモテたためしがないんだけどさ、それでも顔で選ばれてるって思うと、いい気はしないかな。」
「あたしは道兼を顔で選んだぞ。(笑)
だって、会ったばっかでなんも知らんのに、中身で選べって言われたってな。」
「ぷっ、正面切ってそう言われると、不思議とイヤな気がしないもんだね。」
「この際だから言っとくけどさ、あの二人と一緒にいてみ?」
・・・そう言って、少し下流にいる友達の二人を指す。
「あれだけ顔がいいのに、全く意識してないだろ?
多分、自分の容姿が良いって言うのは認識してはいるんだ。
でも、相手の目を通して自分を見てなくて、
なんというかな。
相手は相手、自分は自分だから、
寄ってきたやつがどういうヤツかは考えるけど、
そいつの中の自分像には興味が無い、って感じ。」
「やけに二人を褒めるけど、美沙だってモテるだろうに。」
「いーや、アタシはモテないね!
こんな性格だけどさ、基本は人と深く関わりたくないタチなんだよな、アタシ。だから面倒だとスルーするし。
だいたいほら、男子なんて、大抵おとなしくて優しい子が好きだからな。アタシとは真逆だし。」
「・・・あ、そういえば『顔で選ばれるのは嫌』とか言っておきながら、僕も顔でOKしちゃってたんだよね、実際。そういう自分もなんか嫌になるけど。」
「いやいや、顔で選ぶならどう考えてもあの二人のどちらかだろ。(笑)」
「主観の相違だね。」
「ほー、じゃぁちゃんと面と向かって言ってみ?」
「えっ?」
「アタシの容姿を気に入ってくれたんだろ?
ほら、褒めてみ、褒めてみ。」
「僕にとっては、一番だった。」
「何横向いて言ってんの。
そう言うのはちゃんと目を見て言いなよ。」
「美沙が一番きれいだと思ったから、付き合うことにした。」
「お、ちゃんと言えたじゃん、偉い偉い。」
と言いながら、結構顔を赤くしている。
・・・とても可愛い。
「じゃ、そっちの番。」
「へっ???」
「ほら、僕も言ったんだからね。」
「(コホン)・・・。
・・・。
・・・・・・。
やば・・・、
これめっちゃ照れる・・・ダメだこりゃ。」
「はい、やり直し。」
「マジでか・・・
お前良く言えたな・・・
なんつーか、根性あるわ。
・・・。
・・・(ふぅ)。
・・・。
道兼は顔がカッコイイから惚れた。」
「・・・すげー嬉しい、
・・・穴に入りたい気分だけど・・・。」
「ふぅ~~(ぱたぱた)、
死ぬわこれ。(ぱたぱた)
マジ死ねる。(ぱたぱた)
もう死ぬかも。(ぱたぱた)
なんかアツイし・・・(ぱたぱた)
まさかアタシがこんなラブコメをする羽目になるとは・・・
(ぱたぱた)」
盛んに手で顔を仰ぐ美沙。
照れた姿もどうしようもなく綺麗だと思った。
【紗奏と直樹】
「調子はどうだ?」
「んー、だめ、何回か引いたけど全部外れた。」
「お前、運動神経もいいのにな、
ちょっと竿上げてみ?」
「ほい。」
見ると、針全体にまん丸く練りエサがつけてある。
こりゃ釣りにくいわけだ。
そこで俺は、それを外して、針の先にチョンと丸いのをつけて渡す。
「え?これじゃ、針見えちゃうじゃん。」
「いいから、それでやってみろ?」
そうして、俺と一緒に糸を垂らす紗奏。
「ねぇ、直樹。」
「なんだ?」
「大学卒業したら、何するか決めてる?」
「迷ってはいるな、堅くいくかどうか。
幸いうちの大学は結構いいところからも求人が来てくれてるし。」
「あー・・・。私も早く大人になりたいなーー。」
コイツはまたそう言う事を言う。
「中学から高校大学、このあたりがたぶん人生で一番楽しい時期だぞ。先のことを考えるより、今を存分に楽しめ。」
「おっと、見てきたようなことをおっしゃいますねぇ、なーにぃ。」
「お前ね、ここでその呼び方はやめとけって。」
「はーい。」
と、そのとき、
紗奏にアタリが来たようだ。
「あっ!
・・・
よっ!
・・・やった!、初ゲット!」
「良いサイズのヤマメだ、やったな。」
「これがヤマメかー。アユやイワナとどこが違うの?」
「色と形と味。(笑)
気になるなら、後でググってみ。」
「ほかの種類も釣れるのかな?」
「俺も詳しくないけど、イワナはもうちょっと上流じゃないか?
それから、鮎は下流のイメージがある。
だけど、混在して生息してるかどうかわからん。
味はヤマメが旨いって聞くな。」
「そっか、じゃぁこれでアタリだね。」
「しかも、かなりいいサイズだからな、旨いと思うぞ。
・・・あと、ちょっと針貸してみ。」
「ほい。」
その針にたっぱに入れてあったミミズを付けて返す。
テントを立てている時に、草むらで石をどけて3匹ほど捕まえておいたのだ。
「えー、ナニコレ、さっきのエサのがいいー。」
「まぁ、せっかくだし、色々楽しめ。(笑)」
「はーい。なーにぃがせっかく付けてくれたんだもんね。」
と、またそう言う事を言う。
本当に困ったやつだ。
「お前ね。
俺はまだ塀の中には行きたくないぞ。」
「はーい、気をつけまーす。」
そう言って、なんともまぁ、いい笑顔になっていやがる。
これを曇らしたくはないもんだ。
いつもありがとうございます。