梨桜と千夜ちゃん
ストーカー疑惑にあって、怖い思いをしていた能代さんに
安心していいよ、と告げることに・・・
【梨桜と千夜ちゃん】
今日はいつものように、お父さんと一緒にカレーを仕込んで、それが終わると学校の課題をして過ごした。カレーのおいしい香りが漂う中、それを我慢して、お昼はかつ丼だ。
・・・うー、この上にカレーを掛けたい。(笑)
(だけど晩まで煮込むので、まだ食べてはいけないのがウチの決まり!)
ご飯と後かたずけが済むと、私は出かける支度をする。
今日は能代さんと会うことになっていて、昨日『詳しくは明日話すけど、もう大丈夫だよ』とだけ伝えてある。
「いってきま~す。」
「うん。気を付けてな。」
電車で二駅、すっかりお馴染みになってしまった喫茶店で待ち合わせる。・・・と言ってもお馴染みになってしまったのはストーカー疑惑について話し合っていた私たちだけなのだけど。
「こんにちは。本間さん。」
「うん。こんにちは。
こうして休みに会うのは初めてだね。」
「うん。ごめんね、わざわざ。」
「ううん、こっちこそ。
昨日話せるとよかったんだけど、遅くなっちゃって。」
「それで、犯人というか、相手は誰だったのかなって。」
「うん。ちょっと長くなるけど・・・」
・・・・・・
そう言って私は、この間のことを詳しく能代さんに話した。
いくら元気づけたいからとはいえ、いつも道端で見守ってくれていた山野辺さんからだったと知ると、彼女はかなり複雑そうな表情を浮かべていた。
小説のことも伝え行ってみようと尋ねたのだけど、どうも気乗りしない様子。
「無理に、とは言わないけど、ちゃんと謝らせてあげたほうがいいかなって・・・」
そう言って、そっと見つめていると、能代さんも顔を上げて小さく頷いてくれた。
「それにしても、告白されたのが文化祭の日で、すぐその後には友達に悟られてたのかな?」
「えっ?」
「ほら、山野辺さんが『元気がなかった』って言ってたこと。」
「あ。それは違くて・・・」
「えっ?」
「その子が話してくれなくなったのは3学期の途中からだから・・・。」
「あれ?それじゃ、11月ころは別に何もなかったんだ。」
「・・・えっと・・・」
・・・どうやら別の事で元気がなかったようだ。
なんか、私が見つめると話させるみたいで気がひけるな・・・
そう思って目線を落としていても、なぜかやっぱり一緒で・・・
「・・・えっとね、おねぇちゃんが・・・」
そう切り出す能代さん。
「え?」
(おねぇちゃん?)
「そのころからちょっとおねぇちゃんが・・・
あの・・・
いけない事してるかもしれなくて・・・」
いけないこと・・・
おねぇちゃんはいくつなんだろう?
「おねぇちゃんって、いくつ上の?」
「あ。2コ上の・・・だから今高2で。
えっとね・・・
援助・・・してるかも・・・しれないの。」
聞いてはいけない事だったのかもしれない。
「帰りが遅いとか、高い買い物をするとか?」
「ううん、そんな遅くはないんだけど、6時半とか、
でもご飯はいらないっていう日が多くて・・・
それに、土日も出かけることが殆どで・・・
なんか、服とか買ってる気がするし・・・
親にも注意されたんだけど、
『やましい事なんて何もしていない!』って。」
仮にしていても『していない』とは言っちゃうよね。やっぱり。
それとも・・・本人がそう思っていない事・・・?
「ご両親に注意されるって事は、明らかにお小遣いの範囲を超えてお買い物をしている、ってことだよね?」
「う~ん・・・明らかにと言えるのかどうか、
バイトもしていたから、それを取ってあったとか、ないわけじゃないかもしれないし・・・。でも、夏までやってたファミレスのバイトもやめちゃったんだよね、9月で。それもなんか関係ありそうな気がして・・・。」
「そっか、結構微妙なお金の使い方なんだ。
帰りがそんなに遅いわけでもないし・・・
ご飯を食べてくるとすると・・・
・・・そういうバイトとかかな?」
「うん・・・そういうバイトだったとしても、やっぱりやだよね。」
そういうバイト、高校生を売りにした大人の人とデートをしたりするアルバイトがあるらしいのだけど、そういうのもいつエッチなほうへ行くのかわからないから、とっても危険だと思う。
「わかった。ちょっとお父さんに聞いてみるね。」
「え?、梨桜ちゃんのお父さんも警察官なの?」
「ううん、うちのお父さんは会社員だけど、
ただのじゃないのですよ。(笑)」
「ぷっ(笑)、なにそれ?、探偵さんとか?」
「ううん、ゴメン、実は私もよく解りません。(笑)」
「あはっ(笑)」
そう言って、月曜日の放課後に山野辺さんのお宅にお邪魔することにして、能代さんと別れた。
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