表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突然ですが、娘ができました。2  作者: ほととぎす
第1章の1 中学3年生編 (ストーカー疑惑)
11/64

紗奏

悩み事もひと段落して、家へ帰ると、そこには・・・

  【紗奏】


 学校のストーカー疑惑もひと段落して家に帰る。


いろいろな人がいて、

いろいろな思いがあって、

たまにはすれ違ったりして、


でも、それも無事に解決できて、


私はとても充足した気持ちになっている。


そう、『充足』

この間国語で習ったばかりの言葉だ。

満ち足りていて不足が無いようす・・・。

(ふふっ)



「ただいまー。」


「はい、おかえりなさい。」


 家の扉を開けると、ちょっと見慣れない靴があったけど、お客さんだろうと思って私はそのまま自分の部屋に行こうと階段を上がる。


すると・・・


「・・・俺が顔を出せた義理じゃないのは十分わかってる・・・」


そんな声が聞こえてきた。


私は背筋がすっと冷たくなるのを感じた。


(宗太郎おじさん。)


うちの会社がピンチになるきっかけとなった会社の社長さんで、お父さんの幼馴染だ。


去年の暮れに直樹が私に言った言葉がよみがえる。


そして私は逃げるように、耳をふさぐように部屋に入って戸を閉めた。


 宗太郎おじさん。

この町に古くからある不動産屋さんで、インテリアデザイナーをしているお父さんの会社の良いパートナーだった。


 お父さんは優しい。

直樹が言ったようにあの人の世話をするんじゃないだろうか?


確かに、あれ以前はたくさんの仕事をもらって(正確には建設業者さんとの間に立ってもらって)いい関係だった。


でも、宗太郎おじさんにデザイナーの知識や経験はない。

うちで出来る仕事はないはずだ。


うちもあれからいろいろ営業して回り、今はかなり軌道に乗っている。


実は営業に関しては私の功績が大きい!(たぶん!)


本間さんにプロデュースしてもらった動画が梨桜に続く大好評で、それをちょっと加工してそのまま会社のCMとして使ってしまったのだ。

(そのアイデアも本間さん。)


もちろん、Youtubeくらいなら(いまのところ)著作権云々という話は聞いたことが無いけど、CMに使うとなるとまた別問題という事で、本間さんが許可を取ってくれたのだ。


なので、家族もまさか、娘が歌う歌がCMで流れているとは夢にも思っていないはずだ。(ふふっ)


というか、本当に本間さんって何者・・・?(笑)


うちにCMを流すような体力があったとは思えないから、たぶんそれも銀行からの融資のはずで・・・


うーーーん・・・


梨桜が言ったように、謎がいっぱいだ。


ともかく、後できちんとお父さんに聞いてみようと決心する。


せっかくのいい気分が台無しになり、鬱々としていると、下の方でおじさんを見送る声が聞こえてきた。


私はそっと部屋の扉を開けて、居間へ降りていく。


「・・・あなた、よかったの?」


そんなお母さんの声が聞こえて来たが、私が階段を降りる足音で話し声が止まる。


  (カチャリ)


「お父さん、来てたの宗太郎おじさんだよね?」

私は意を決して話しかけた。


「あぁ。声で気づいたのか。

 心配をかけたか。

 ・・・

 大丈夫だ、お前が心配することは何もないから。」


「え?断ったの?」


「あぁ。

 というか、お前もすっかり大人になったんだな。

 話さなくても、何の用事で宗太郎が来たか分かったのか。」


「うん。

 心配だった。

 うちもどうなってたかわからないのに。

 よく来れたなって思った。」


「本間さんがな、あの時アドバイスをくれたんだ。

 自分が守らなきゃならないものを見失わないように、ってな。

 俺が守らなきゃならないのは、

 お前と、時子と、うちの会社のみんな、それだけだ。

 それで手いっぱい。

 だから、宗太郎には自分で頑張れって言って追い返した。


 一からやり直して、そしたらまた協力しようって。」


「そっか。お父さん優しいから、面倒見ちゃうんじゃないかとひやひやしたよ。(笑)」


「あぁ。心配をかけた。」


「それじゃ、あたしご飯まで上にいるね。」


私はほっと胸をなでおろし、自分の部屋へ帰ったのだった。



  【白石啓介の独白】


 4月も終わりに近づいた今日、宗太郎から電話があった。

本当にまさかあいつの方から連絡があるとは夢にも思っていなかった。


顔を出せた義理じゃないのは本人が一番わかっているだろうから、恥を忍んで電話して来たのだろう。


そして、家に招き話を聞いてやると、思った通り働かせてほしいと言った。なんでもする・・・と。


まさか・・・

本当にまさかこういう日が来るとは思わなかった。



あの人はこんな先のことまで見えていたというのか?


本間さんがあの時私にした、たった二つのお願い・・・


 『自分が保証人になったことは決して口外せず悟られず、

  自分で勝ち取ったのだと堂々としていてほしい。』


 『もし今後、潰れた会社の人間が頼ってきても必ず断ってほしい。』


一つ目のお願いは、おそらく娘たちの間に変な空気を作らないためなのだと理解できた。


しかし、二つ目の願いを聞いたとき私は言っていることが分からなかった。ウチがつぶれるかもしれないという憂き目にあわせた会社の人間が、どうしてうちに泣きついてこられようか・・・と。


おそらくあの人は、その泣きついてくるのが社長本人だとさえ予想していたのではないか?


しかしなぜだ?


私は宗太郎やその会社と個人的に交流があったなどと言ってはいない。

そもそも銀行が貸し渋った理由もはっきりとは話していない。

(あの時点での銀行の判断は当然だと私も思っていた。)

それに、うちの業種や潰れた会社の業種すらあの時点では知らなかったはずだ。


それを、ただ娘が可愛いから、その友達だからと借り入れの保証人になると言う。それもあの金額の。


正直ありがたかった。

だが、同時に立て直しはとても厳しい道のりになるとも思っていた。

それでもなんとかせねば、話をしてくれた娘に申し訳ないと思った。



ウチの手がける仕事は、おおむね個人住宅のインテリアデザインであったり、アパートやテナントであったりと、比較的低価格の物を他より安く、見栄え良く、使い勝手よくデザインして売り上げにしていた。

その最大の顧客が宗太郎の不動産会社だった。(もちろんそこには建設業者も絡むのだが)


そして、最大の取引先というか口利き先がなくなり、それを他へ求めねばならなくなったのだが、いわゆる花形のデザイン事務所のような目を引く仕事をしていたわけでもなく、その後の営業は困難を極めた。


そんな折、また話を持ってきたのも彼だった。

インターネットで人気になっている素人歌手と連絡が取れるから、それをCMに加工してイメージアップしようと。


だが、残念なことにウチにそんな体力が無い事は分り切っていたし、銀行がよもや宣伝広告のために追加融資をするとも思えなかった。

しかし、それもあっさり通ってしまった。


そして、水曜7時にターゲットをがっちりと絞ってCM放送に乗り出したのだが、そこからの反響がすさまじかった。


それだけその子の影響力というのが大きかった。

(とても美しい容姿に美しくも心に響く歌声。)


個人向け住宅のデザイン依頼があっという間に2年先まで埋まってしまったのだ。

芸能関係と思われるところからの問い合わせも途切れることが無く、仕方がないから専用ダイヤルを作ったほどだった。


なんとかその子にお礼が言いたいのだが、

『素性は出さない約束をしている』のだと、彼はそう言った。


おかげでウチはしっかりと立て直しを終えて順調に滑り出している。

だからなのだろう。宗太郎が頼って来たのも。


私は彼との約束が無ければ、宗太郎をはねつけることができただろうか?

いや、できはしなかっただろう。


そうしたらどうなったのだろう?

正直今なら一人分の食い扶持くらいは出せる気がする、

しかしその先が私には見えない。彼にはおそらく見えているものが。


そして私は、宗太郎に『会社をダメにしたのなら、また最初からやり直せ。そうしてまた一緒に仕事をしよう。』と伝えたのだ。


そう、後のことはあいつが解決する問題であり、私が守るべきは彼ではなく、自分の家族と社員なのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ