白菜が人になって転生したらこうなります
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(俺は白菜、名前はまだない)
手入れされていない痩せた畑の中で、新鮮な青白い肌に高身長の葉を持った姿はまるで、『国宝級白菜』だった。
だが、そこは誰の土地でもない草木の1本も生えていない痩せた畑。奇跡的にここまで大きくなったとしても誰も食べてくれるわけがなかった。
◇◇◇◇◇◇◇
あれから数日が経ち白菜、いや『国宝級白菜』は数日前黄色い花を咲かせ、今日ついにその花が枯れ、種ができていた。
(ついに俺も子ども達と別れる日がやってきたのか)
どことなく哀愁の漂う『国宝級白菜』の姿が見ていたとしても、自然が空気を読んでくれるはずもなく風に乗って種、いや子どもたちが旅立った。
(もう俺は枯れて肥料になるだけだな)
・・・・・・可哀想じゃのぉ。そうじゃ、神の力で異世界に転生させてあげれば良いのではないか。
神界のルールだと人に見られたものでなければ、別に年齢とかをいじらなきゃセーフだったはずじゃった。
神、ヴェルドゥーラの力を使えば朝飯前じゃな。ちと、『国宝級白菜』のままの姿を見れるのが最後になるのが悲しいのじゃが、仕方がない、我慢するとしよう。
(なんか今日明るくないか?・・・・・・もしかして俺が光って───────)
◇◇◇◇◇◇◇
「今日も可愛いね、カボロちゃん」
・・・・・・何があった?こんな高い声の仲間に覚えはないが。もしかしてこれは、人間ってやつか?肌は俺の知ってる白菜よりも黄色いし。声が高いってことは女性か。
「ついにうちも5人目か。大家族になったなぁ。カボロの兄は優秀だし、こいつも何かしら才能があるのだろうな」
こっちは男か?男の方は目が見えないからなんとも言えないが、言葉に欲が溢れ出てる気がする。
でもなにかされたわけじゃないのに決めつけるのも良くないな。
それと兄がいるのか。俺は種の頃、親の顔は覚えているものの兄弟とは離れ離れになってしまったから兄弟とは新鮮だ。
その兄弟やらを見てから食べられてみたかったが、目が見えないなら仕方がないだろう。
◇◇◇◇◇◇◇
あれから数日だった。この間に分かったことを整理しよう。
まず俺は人間になった。てっきりついに収穫をされて人に食べられるのかと思っていたのに。
次に俺の名前はカボロ=チニーズ。そしてなんと貴族の子どもらしい。なんとも貴族とは、10歳にある『職業授与の儀』で良い職業を当てた家系がより大きな権力を持つことが出来るらしい。
それで俺の父の言葉が欲にまみれていた理由がわかった。
おまけに人間が愚かに見えてきた。白菜ならそんなこともなく平和なのに。
あとは要らなかったのに親の名前を知ってしまった。母はキャボル、父はラトゥーガ。まぁ一応覚えておくのも悪くないか。
「カボロ様、入りますよ?」
今日も俺の世話をしてくれる人間が来たようだ。
話しかけられても俺はまだ声を出せないから無視している感じがして気分が悪いんだが。でも、この時間が1日で1番意味があるんだけどな。
「カボロちゃん、今日も元気?私は毎日カボロちゃんのお母さんに怒られて大変だよ。ちゃんと魔法の教育してるの?とか、泣かしたらクビだからね!とか。他にも数え切れないくらい言われて、覚えれないよ。それにまだ言葉もわかんないのに魔法を教えるとか無理でしょぉ」
こんな風に俺の前では見せないキャラが見えるのが面白いし、唯一の情報源だからだ。
まだ喋れもしないし、歩けもしない俺を何も覚えられない赤子だと思ってなんでも話してくれる人間は俺の親たちにいじめられて可哀想だけども、情報をよく喋るためありがたいとも思っている。
「カボロちゃんは貴族生まれでいいよねぇ。私も貴族の家に生まれたかった」
これがこの人間の口癖だった。生まれたとしても、今息をできてることを気力にして、生活しないとこんな、ないものねだりな性格になってしまうのだろう。そもそも自分で言うのもなんだが、将来有望な貴族の子どもをそこら辺の人間に任せるわけが無い。
「私も昔に戻ってみんなに可愛がって欲しいなぁ。カボロちゃんみたいに生まれたての白い肌に戻りたいよぉ」
さすがにこの人間のないものねだりにも飽きてきた。聞き出せる情報ももうない気もする。白菜のときにはできなかった、自分の意思で喋ったり歩いたりを早くしてみたいものだ。
◇◇◇◇◇◇◇
あれから何百回もあの人間の愚痴を聞き、ついに単語なら言葉を喋れるようになった。でもそのときは4足では歩けたものの2足で歩くことは叶わなかった。あれから4足で部屋を歩き回る日々を過ごし、ついに2足で歩くことができるようになった。よし、部屋を出よう。この部屋は簡素すぎて、何百日もここで過ごしてきた自分を褒めたいくらいだ。
「俺の名前はカボロ=チニーズ。チニーズ家の5番の子どもだ」
喋れるようになり、自己紹介もできるようになった。あとは外の世界出るだけだ。股下40cmでゆっくりとドアに向かい歩く。だが、ドアに着いてから気づいた。
「ドアに手が届かない!?」
大誤算だった。簡素なこの部屋には踏み台にできそうなものもない。
「くそぅ。ここに来て外を見れないなんて」
俺が床をぺちぺちと叩いて悔しがっているといつも通りノックをしてくる俺の世話をしてくれる人間が来た。
「カボロ様、入りますよ?」
相変わらず、ドアの外で声をかけてくる人間。
「いいですよ」
「失礼します」
俺が話せるようになってからは会話するようになっている。最初は喋れるようになったことに驚いたり、愚痴を話せなくなったことに悲しんだりと色々な表情をしていたが、今はまさに仕事をしに来た、というふうに表情ひとつ変えずに俺に接するようになった。まるで性格を改造されたように。まぁ、静かになってよかったのだが。
「お昼ご飯です。残さず食べてください」
今日は食べさせてくれないらしい。もしかしてたち歩いていたからだろうか?それを基準にするなんてまるで機械のようだな。俺が歩いていたことにも驚かないし。このまま部屋から出てもバレないんじゃ・・・・・・。
「カボロ様、ドアの外には出ては行けません。次、キャボル様の許可なしでそのようなことがあればベッドに拘束させていただきますので、考えて行動するようにお願いします」
まじかよ。背中に目でもついてるのか?逆側を向いて俺のことに気づくなんて。もしかしてこれが魔法ってやつか?便利だが使われると気味が悪いな。
「すいません。気をつけます」
「お分かり頂けたようで何よりです。では、私はこれで、お夕食の際に食器は取りに参りますので」
そう言ってドアの外に出て行った。おまけ程度に鍵をかけて。
「そもそもドアノブに手が届かないっての」
言われた通りに昼ごはんを食べる。
「でも外に出たかったなぁ。1回でいいから自然の光を浴びたい」
植物だったときの名残なのかもしれないが太陽の光を浴びたい、という気持ちが日に日に大きくなる。
「はぁ。そもそもなんで母親の名前が出てくるんだよ」
◇◇◇◇◇◇◇
「カボロ様。ドアの外へ」
この日をどれだけ待ったものか。ドア枠を通ったその先には見たことのない男が立っていた。
「カボロ、ついにお前も5歳だ。そろそろ魔法の実技をやるべきだ。今日から兄弟たちと一緒に訓練してもらう」
あぁ、この男は父親、ラトゥーガか。相変わらず、欲が見えて雰囲気が締まらないな。まぁいい。こいつのおかげで外に出れたのかもしれないし。
ラトゥーガが歩き出すので、俺もそれに続いて歩いていく。世話係の人間も着いて来るようだった。
少し歩いて着いた場所は壊れることを知らないような、牢獄を彷彿させるような作りだった。
「今は誰もいないが明日からは兄弟と共に訓練をしてもらう。まぁ、と言っても1男のセダーノしか訓練に出てこないんだがな。もう次男も三男も儀式を迎えるというのに。まぁそんなことはいい。今日はここで魔法を出す練習をしておくといい。講師はお前の世話係にでも頼んでおこう」
「私なんかには勿体なきお言葉。この世話係、その命、全うしてみせます」
武士か?俺の世話係は武士なのか?まるで最初にあったときとは比べ物にならないくらい印象が変わった。ラトゥーガはこの部屋を出て行った。
「ではカボロ様。魔法について、簡単に説明させていただきます。まず魔法を使うには体内にある魔力を使います。この魔力、という ものは筋肉と同じで、使い切ればその分次に使える魔力を増やすことができます。ですが1日でも訓練を怠ると魔力量は落ちてしまいます」
この後にも長ったらしい、定型文のような説明が続いた。まぁ、まとめるとこんなところだろう。魔力量は毎日使えば増える。魔力には属性があり、その属性を特化させると、『職業授与の儀』で神に気に入られる確率が上がりよりいい職業が貰えるらしい。
「ではまず今日は魔力の使い方をやりましょうカボロ様は水や木が得意な魔力をしています。なので、水系の魔法を使えるようになることを目標に1年頑張りましょう」
魔法を使うまでに1年もかかるのかよ。
「では、魔力を出す方法から。魔力はそのまま魔法になる訳ではありません。それぞれの魔法の形に直して魔法を出す必要があります。魔力を形に直す方法は後ほどやりましょう。最初は魔力を1箇所に集めることから始めましょう。まず私を見ていてください」
そういうので、人間を見る。すると人間は、目の前に手を伸ばし、
『火玉』
と抑揚のない声を出したと思ったら、手から火の玉が飛んで壁に当たって消えた。これが魔法か。確かに無から有を創造するのだから、重宝される理由も分からなくもない。
「今のは『火玉』と呼ばれる魔法です。火の魔法では1番簡単なものとされています。でもカボロ様は使えませんが・・・・・・」
申し訳なさそうにこっちを見ているので、フォローしてあげるか。
「気にしなくていいですよ。人それぞれ得意なこと、不得意なことがあるわけですし」
「そうですね。では私の真似をしてみてください。まず手を前に出して、手の甲に血を集めるような感覚で、体内に流れる魔力を感じて、集めてみてください」
・・・・・・え?魔力が流れてるのわかってる設定?
「あのぉ、すみません」
「どうしました?恥ずかしいですか?でも皆さんこうされていますよ?」
「いえ、そうではなくて、魔力が流れているのか分からないというかなんというか」
「そうでしたか。では、お手に触れますね」
そういって人間は俺の両手に触れて、魔力?なのだろうかを左手から流してくる。くすぐったい感覚があったが何とか耐えると、そのくすぐったい感覚が体を駆け巡り、右手から出て行くところで、今までに感じたことの無い痛みが走った。
「ったぁ」
人間も痛かったらしい。思わず顔を歪める。この数年は表情ひとつ変わらなかったのに痛い、という感情は全身で表現するらしい。
「もしかしてカボロちゃん?」
「は?」
あ、思わず声が出てしまった。まるでいつも隣にいたはずの野菜がお前誰って言ってきたような感じだったので驚きを隠せなかったのだ。
「そんな怒んないでよぉ」
「どちら様ですか?」
「え?喋れるようになったの?でも、どちら様ってのは酷いよ。私にはチェトリオードって名前があるんだから」
その名前は初耳だ。というかなんだ?これはもしかしなくても誰かに操られていたのか?とりあえずそのことを伝えておく。
「えぇ!?私が操られてた!?」
声がでかい。
「そうです。多分あなたの業務態度が悪すぎたので、誰かが操ったんだと思いますよ?」
この理論だと何となく親のどっちかなことになるが、あれだけキャボルについての愚痴の内容があれだったのだから、多分キャボルが、それこそ魔法で制御又は、性格をいじったのだろう。それを俺の魔力で浄化した、みたいに考えるのが妥当だろう。この理論は土の中に根を張る中で邪魔になる石ぐらい硬いな。
「ということなので、僕と2人きりのとき以外は僕に敬語を使うようにしてください。今から僕に魔法を教えている最中はずっと敬語の練習です」
「えー」
言ってるそばからこれだ。このままだと茎が折れそうだ。
「ちゃんと敬語を使ってください。また操られたいんですか?」
すると首を左右に全力で振りまくった後に
「ちゃんとやる!」
って言うのだが、もう敬語じゃないんだよなぁ。まぁこれから気長に待とう。
「それで、魔力ってどうやって使うんですか?」
「そうでしたぁ。魔力は手に血を集めるようにするんです!」
なんでだ?話した内容が全然頭に入らねぇ。
「そのあとは?あと、できるだけ、言葉の後はきるようにしてください」
「わかりました。アドバイスありがとうございます。そして集めたあとはドバっと外に出せばいいです」
あ?ドバっと外に出す?やっぱり操られたままの方がいいか?
まぁ、やってみるか。でも、人間の手に気孔なんてついてないんだしトバって出せるのか?
「うぉっ」
え?なんか勢いよく水の玉が出てきた。まぁ壁に当たって壊れたんだけどね。
「凄いです。さすがカボロちゃん」
「ちゃんじゃなくて?」
はっ!っとした顔になるチェトリオード。この調子だとボロを出しそうな気もするがまぁ、魔力も出せるようになったわけだしいいか。
「あとは魔力を全部使い切ればいいんですか?」
「え?使い切っちゃダメですよ?誰から聞いたんですか?」
え?あなたですけど。まぁ、操られてたわけだし気にしないが。それよりも疑問を解消する。
「使い切るとどうなるんですか?」
「まず倒れて、数日は歩けなくなります。そして、そのあとが問題で魔力が1度尽きるといい場合でも魔力が元の10%減ります」
「最悪の場合は?」
「そのまま一生魔力が使えなくなります」
なかなかにとんでもない人間だな。キャボルってのは。だから兄弟達が1男以外訓練に参加してないのか。ん?でも1男は毎日訓練に出てるってことは・・・・・・これは水かけたての土ぐらい黒い話かもしれないな。
「じゃあどのくらいで止めておくのがいいんですか?」
「だいたい1割残しが基本ですけど、慣れるまでは少しでも疲れたら止めた方がいいです」
敬語にも慣れてきたようだし、俺も頭を使って疲れた。
「じゃあ今日はこのくらいで終わりにしましょう。くれぐれもバレないように気をつけてくださいね?」
「わ、わかってるもん!」
心配だぁ。まぁ、浄化できることもわかったしいっか。でもこんなことをするくらいだし、毎日といてしまうとキャボルがチェトリオードの首をきることも考えられるな。本当にやばいのは、キャボルがキレて比喩なしで、チェトリオードの首を切ることだ。それだけは避けなければ。
「ではカボロ様。お夕食をお持ち致しますのでお部屋でお待ちください」
心配は杞憂だったらしい。
あれからチェトリオードが持って来てくれた夕食を食べ、ベッドに寝転がり今日のことを思い出す。
今日は思い返してみると、今までの人生で1番濃い一日だった。歩けるようになって、俺の世話をしてくれる人間、チェトリオードが感情を取り戻し、キャボルが悪者のことに気づいて、魔法っぽいのが使えるようになって。
毎日がこんなに濃くても困るが、薄味よりはいいかもしれない。土から生えていた頃では考えられない言葉が思いつく。
「明日は何が起こるかな」
◇◇◇◇◇◇◇
「カボロもあと10分ぐらいで10歳かぁ」
俺の部屋でそんなことをつぶやくチェトリオードことチェト。俺が魔法を1番最初に感覚で出すことができたときから約5年。ステータスはまぁ、職業が与えられていないので仕方ないが、結構寂しい。まぁ、ステータスが見れるようになっただけ大きな進歩な訳だが。
☆ステータス
名前:カボロ=チーニズ Lv.56
職業:
特技:
魔法:
だがこのステータスもステータスだ。俺が使える魔法は全く記されない。チェトもおなじらしいので神様のミスとかでは内容だが。あまりの白紙具合で思わずため息とともに、言葉に出てしまう。
「はぁ。なんも書いてない」
「仕方ないよ。あと少ししたら多分、覚えれないくらい増えてるよ?それにLvだけなら次の跡継ぎの1男にも負けないよ」
そういうが、1男以外今家にいないのだから当たり前だ。俺も明日追い出されるのだろう。
「俺が勘当されたらチェトはどうするの?」
「んー、カボロに着いてく?」
疑問かよ。まぁ、前世が白菜に与えられる職業なんて、ろくなものでは無いのかもしれないからな。そうほいほいと誰にでもついて行くような綿毛みたいな女じゃなくてよかった。
「そろそろだね」
「そうだな」
時計を見るチェリに続き俺も魔法で時計を表示して時間を確認する。そこには20:56と書かれていた。この世界は21時間で1日が終わる。そのためあと4分で俺の運命は決まるわけだ。チェリの方を見るととてもそわそわしていて俺も緊張がうつる。
「あとは60秒59.58・・・・・・」
いや、なんでそんな秒読みしてるんだ?よく人間がやってたっていう、土の噂で聞いた将棋ってやつでもやってるのか?
「3.2.1。あー、なっちゃったぁぁぁ」
騒がしいなぁ。どれどれ?職業は・・・・・・ん?
☆ステータス
名前:カボロ=チーニズ Lv.56
職業:園芸師 Lv.1
特技:植物への加護・・・任意で好きな植物に加護を与えられる。加護の内容はレベルによって変化する。
魔法:湧水・・・水を少し出すことが出来る
意思疎通・・・植物との対話が可能になる
日光浴・・・あるひと地点に木漏れ日を生成可能
気体生成・・・気体を生成可能。経験をつむ事に好きな気体を生成することが出来る。
加護:世界神・ヴェルドーラの加護
「どれどれ?」
チェトは俺のステータスを覗き見て絶句する。
「ごめんチェト。失望したよな。俺なんかと一緒にいると雑魚スキルが映るぞ」
「そ、そんなことないよ」
俺に期待をしていたらしい、チェトはなんとも絶望にまみれたトーンで、俺の言葉を否定する言葉を発する。
「もう俺は追い出されるだけの身だ。俺と一緒にいてもいいことがない」
やはり人間は欲にまみれて生きているんだな。確かに俺も欲はある。チェトあったときから思っていた。この人間は人一倍欲が強いことも。でも最近は楽しそうに話すから、嬉しくなって目を背けていたんだ。
俺なんかが幸運を掴もうなんて甘かったんだ。転生した時点でもう俺のこれからの運は先払いで使われていたんだ。そのあとすぐにチェトは部屋を出ていったのを確認して俺はベッドに横になり、変な夢を見た。
◇◇◇◇◇◇◇
(なんだここは?まるで身動きが取れない。・・・・・・もしかして白菜に戻ったのか?)
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。安心するといい。白菜に戻った訳では無い。はくさいなのはワシじゃよ。入れ歯が臭いと孫によく言われる。ポリゴンと、みたいなのを使ってるんじゃがなぁ」
何も無い暗闇から突然現れた長い髭の生えたまるで大根のような人がそこには立っていた。
「大根とは失礼な。わしはお主を転生させた神じゃよ。今日はこのままだとお主は自分を追い詰めそうだったのでな、少し助言をしに夢の中に入ったわけじゃ」
(確かにこのままだとせっかく貰った命を無駄にするところだったかもしれない)
「じゃろ?だから助言じゃ。別に転生させたのはわしの気まぐれじゃ。お主の運を使った訳では無い。たまたましゃきっとしていたから転生させただけじゃ。死んだものはわしの領域だからのぉ。元の世界に元の形では戻せないけども抜け道はいくらでもあるのじゃよ。お主が死ななかったらわしが暇なら助けるてみせよう。もし命の危機が来たら、わしを信じて自分が生きることを最優先に考えるんじゃよ。それとお主の世話係のちぇとりおーどはお主と同衾するくらいにはお主を信頼しているようじゃよ。ワシの目に止まるくらい立派な白菜だったのじゃ。もっとしゃきっとするといい。それでも背筋が伸びないようなら、お主をしゃきっと食べれるうちにワシがしゃきっと食べてやるから安心するといい。しゃきっとな。ふぉ、ふぉ、ふぉ」
◇◇◇◇◇◇◇
「はっ!しゃきっと、だと!?」
・・・・・・なんだ、夢か。もう1回寝、よう!?
(なんでチェトが一緒に寝てるんだ!?おかしいぞ。さっき部屋を出ていったはずじゃ)
もしかしてさっきの夢で言っていたことは本当なのか?本当にしゃきっと食べられるのか?それだけはやだ。背筋シャキッとしないと。でもしゃきっとすると食べられるし───────、
「カボロのバカ」
(やべっ、起こした?)
・・・・・・なんだ、寝言かぁ。危ねぇ。でも俺が馬鹿って聞き捨てならないな。・・・・・・でも確かに、俺は馬鹿だったかもしれない。
相手の悪い部分しか見ないで勝手に自己完結して。ダメ男の典型的な例じゃん。後で神様にお礼を言っておかないと。
俺はシャキッとするんだ。『見ても美味しい、食べても美味しい』人間、つまり鮮度王に俺はなる。そんな馬鹿なことを考えているといつの間にか扉の隙間から光が差し込んでいた。時計を見ると5:00。
「もう朝か」
とりあえず今日はステータスについてでキャボルの元へ行く必要がある。全て決まっているのに行くのはなんとも馬鹿らしいがまぁ、仕方がないだろう。付き合ってやる。
それが終われば俺は自由だ。これで自由に鮮度を高められる。つまりこんな所で首を切られるわけにはいかない訳だ。そのためにはチェトには外に出ていてもらう必要があるな。申し訳ないが、起きてもらうことにしよう。
「チェト。朝だ、起きろ」
華奢な体を揺さぶると直ぐに起きた。そして起きて直ぐに俺に向かって宣言するようにこういった。
「私はカボロに着いてくから。たとえどんな形になったとしても」
「なら早く支度をしてこい。多分もうここには戻らないぞ」
「りょーかい」
◇◇◇◇◇◇◇◇
チェトが戻ってくる。
「じゃあ勘当されに行くか」
「おー!」
普通勘当される人間は、こんなものでは無いのだろうが、生憎と俺は勘当されるのを待ってるんじゃない、自ら勘当されに行くんだ。でも俺がキャボルの顔を見るのはこれが最初で最後か。
「5男のカボロ、ただいま参りました。失礼してもよろしいでしょう?」
「入っていいわ」
「失礼致します」
・・・・・・顔見えねぇ。幕張ってるとか聞いてねぇよ。
「ステータスは見たは。何か言いたいことはある?」
「ございません」
「ならいいわ。でも気になったことがないかしら。あなたの父親と1男以外を最近見てないってことに気づいてたかしら?まぁ、そんなちゃちな頭だと考えられないわよねぇ。無駄に父親に似て困るわぁ」
いや、喋るのかい。なんだ?そろそろ首切っていいか?
「答えを教えてあげるわ。邪魔な父親は私が殺したし、あなたの兄たちは今頃ただの平民として暮らしいるの。可哀想だわねぇ」
うぜぇ。
「それで───────」
「いつ私が喋っていいって言ったの?ねぇ、いつ言った?答えれる?答えれないよねぇ?だって馬鹿だものねぇ」
『水刃』
「あ?」
あ、やっちった。もう首はねちゃったよ。カッコつけて、「あ?」って喋ってないで防げばよかったのに。おかげで見たくもない顔が見えちゃったよ。
「じゃあな。ここまで俺を育ててくれて。せいぜい早く地獄から上がれるといいな」
そう言って、入ってきた扉から外に出る。
「じゃあどこか行くか」
「うん」
元白菜の冒険がやっと始まる。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
どうでしたか?草も生えない内容でしたか?
でも白菜は生えてましたよね?
作者は実は初めて俺TUEEEE的なやつを書きました。出来ればレビューをしていだたいたり、感想を書いていただけるとありがたいです。