奇妙な骨の話
おれが、都にむかったときの話だ。
知ってのとおり、このたびの派遣は、うちの町からだけではない。この近くだけでも、ベルム、クレリア、ナナママクドリから、一人ずつ選ばれている。
さて、おれが都へむかう途中、ジャドリというところで、同じように街道をあるく、旅姿の男と一緒になった。並んで歩くうち、なんとなく世間話をするようになり、互いに名乗ることになった。
男は、ベンスという名だった。
偶然にも、用向きはおれと同じ。ベンスはジャドリのすぐ隣の、ペリドムというところの村役人で、都へ向かおうとしているところであった。
ベンスはつかみどころのない男で、驚くようなことを、笑顔のままひゅっと口に出すようなところがあった。
名乗りあって、すぐの頃。山越えの道の半ばにさしかかったとき、ベンスは言った。
「……この道をつくったとき、変な骨が、出てね。」
驚いて聞き返すと、ベンスは、
「十年くらい前かな。山越えの道はもともと無くてね。シャドリの住民たちが訴え出て、道普請することになったんだ。」
この道がなければ、都へゆくには大きく山を迂回するしかない。
「ペリドムの住民たちは賛成しなかったが、ともかく普請はすることになった。五年で終わるはずが長引いて、八年。最後の難所とされた岩場の隅から、奇妙な骨が出た。」
「それは、どんな。」
「人骨よ。いや、それだけなら、さして奇妙でもない。首から下の人骨が4つと、牛か何かのような、大きく曲がった角のある動物の頭の骨が、4つ。大岩の真下の土の中に、埋まっていた。」
「それは、つまり首が……、」
「出てきたのは、ただの骨。生前どういう状態だったかは、わからぬ。死体が埋められて骨になったのではなく、骨になってから埋められたものらしい。」
「ほう……、」
「その骨を見たものは、みな、病になった。」
「なに!?」
「その日の夜、みな高熱をだして、動けなくなった。一人ずつ、わけのわからぬうめき声をあげて、朝には息を引き取ったと云う。……なにやら、異形のものの姿を見たというものも居た。死ぬ前には、口をそろえて、そのものの名前を、」
「まて、まて。」
たんたんと語るベンスに、おれはあわてて口をはさんだ。
「見てきたように言うが、おぬしはそのとき何をしていたのだ。」
「その道路普請の、かしらの一人さ。現場はジャドリのものが殆どだったが、おれも含め、ペリドムの役人もいた。」
「では、その骨を見たのか。」
「見たさ」
「みな、病になったと言うたが……、」
「おれも倒れたが、死にはしなかった。……守り袋を持っていたから。」
「守り袋?」
「これさ。」
ベンスが懐から出したのは、何の変哲もない、紐のついた小さな布袋だった。
「この中には、小さな書きつけと、絵が入っている。」
「それが、守ってくれたと。」
「さァ、守ったと言うべきなのか。ともかく、こういうものを持たぬものは、死んだ。特に、ジャドリのものは、全員。」
「それで、その後は。」
「何もない。骨はとっくに捨てられて、どこにあるかもわからぬ。人足は補充され、翌年には道ができた。それで、おわりだ。」
そういってから、ベンスはこともなげに、もう一言つけくわえた。
「こんな話は、よくある。たいしたことではない。」
そのあと、袋の中を見せてやろうかと言われたが、とても勇気が出ずに断ってしまった。
からかわれただけかもしれぬ。だが、ともかくそんな話だ。