竜を狩りに山へゆく話
さて、じゃあおれも少し喋ろうか。
子供のころ、ばあさまから聞いた話じゃ。
竜、というものを聞いたことがあろう。おそろしく鋭い牙をもち、炎を吐くという、あれだ。
むかし、竜を探すことに、とりつかれた若者がおったという。
わけは、知らぬ。
竜の骨は高値で売れるとか、すみかには宝物があるという話もあるが、あるいは、それがめあてであったかも知れぬ。
ともかく、若者は、竜を探して各地を歩いた。
竜を見たものがあるときけばそこへ、竜の鱗が落ちたときけばそちらへ。
けれども、竜にはなかなか会えなかった。
さて、長いあいだかかって、あちこちで竜のうわさを集めるうち、竜がいるらしき場所がだんだんわかって来た。
西のはて、ダイバラン山地とよばれるところから竜はやって来るらしい。
けわしい山である。近隣の住民も、山にはけして近寄らぬとかで、道もなく、案内人も見つからない。それでも、若者はためらわなかった。
ふもとで十分な準備をして入ったものの、知らぬ土地のこと。森ぶかい山の奥へゆくにつれ、だんだん道がわからなくなっていった。
ともかくも、頂上と思われるほうへ、少しずつ進むだけである。
「竜やあい、竜やあい」
ときおり、若者はそう叫んだ。
すると、それにこたえるように、
ごろごろごろ、ぐるぐるぐる、
と、奇妙な音が聞こえてくる。
山鳴りの一種のようでもあり、なにか動物の唸り声のようでもあった。
あたりをさがしても、何もない。
ともかく、その音に誘われるように、若者は、奥へ奥へと入っていった。
さて、山に入って、七日。
ゆけどもゆけども竜には会えぬ。
頂上を目指していたはずが、登っているのか、降りているのかもわからない。
若者はとうとう動けなくなって、岩肌に座りこんでしまった。
その、直後。
ごろごろごろごろろ、ぐわーん!
いっとう大きな山鳴りがして、地面が大きく揺れた。
あっ、と思う間もない。
若者が座っていた岩はぼろりと土からはずれて転がり、どこかへ消えてしまった。とっさに、地面に手をつこうとしたが、そこには、ぽっかりとした虚空があるばかりだ。
気がつくと、手にも、足にも、尻の下にも、支えてくれる地面はどこにもなくなっていた。
若者は、突然生まれた巨大な地割れのなかに、なすすべもなく落ちていった。
さて、その日の晩、山のてっぺんから、火と灰と岩が降った。
近くのものは、また竜が人を食った、と噂したという。
え? 若者は戻らなかったのに、なぜ最後のようすがわかるのか、って。
知らんさ。あるいは、嘘かもしれぬ。けれども、おれの母方のばあさんの弟が、若いころに、たしかにダイバランの者に聞いたそうだ。
その山は、今でも竜の山とよばれ、ときどき火を吹くそうな。