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宿直の夜  作者: 楠羽毛
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別れのこと

「……さて、」

 ガナンが、ふと立ち上がった。

「そろそろ、夜も明けてくるようだ。月光が消えぬまえに、おれは去ることにしようか。」

「なに、まだよいではないか」モーリスが引き止める。

「いやいや、」

 ガナンは苦笑して、

「いうであろう。こんな月の夜は、この世ならぬものが来ると。なれば、月の光が消えるまえに、去るのが掟というものよ」

「はて、ガナン、きさま──」

 ノリンが、顔色をかえる。

「いやあ、今夜は楽しかったぞ。」

 ガナンは、ふらりと外をむいた。扉はあいている。月光はかげりをみせて、あけがたの暗さがあたりを包もうとしている。日は、まだ出てこない。

「……そうだな。」

 ちいさく、ダールがつぶやく。

「ええ、楽しかった。」

 ナナドが同意する。

「ああ、」

 きらりと最後のかがやきをみせる月を背負って、ガナンは、

「楽しかったな。それでは、」

 かるく手を振って、

「さよならだ。」

 消えた。



「……ここで夜を明かしたのですか。」

 男は、草原のどまんなかにあぐらをかいて、じっと地面を見ているようだった。背後からの声に、ふりむいて、ふと笑顔になる。

「おうさ。……ちょいと、知り合いに会っていた」

 男の前には、ふたのあいていない酒瓶と、半分ほどになった干し肉の包み。

「いくさから一年ぶりに帰ったというのに、出迎えもなかったのでな。こちらから、押しかけたというわけさ。」

「……なるほど。」

 うしろに立っていた男は、あたりを見回して、首をふった。

「突然の火事でございました。」

「そうらしいな。」

「火つけらしいのですが、犯人はわかっておりません」

「ああ。」

「書類も、備品道具も、みな焼けてしまいました。夜であったので、人はあまりおりませんでしたが──」

「……宿直室にいた4人だけが、煙に巻かれて焼け死んでしまったのだったな。」

「ええ。」


 草原、と見えたのは、焼け跡であった。

 もう、あらかたの片付けがすんで、100日ほども経っているので、見た目はほとんどただの草っぱらである。


「ゆきましょう。仮庁舎はあちらです。ご案内します」

「すまぬな」

 ガナンは、重い腰をあげて、空を見上げた。


 空には、なにもかも消し飛ばすような太陽が、傲然とたたずんでいた。


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