別れのこと
「……さて、」
ガナンが、ふと立ち上がった。
「そろそろ、夜も明けてくるようだ。月光が消えぬまえに、おれは去ることにしようか。」
「なに、まだよいではないか」モーリスが引き止める。
「いやいや、」
ガナンは苦笑して、
「いうであろう。こんな月の夜は、この世ならぬものが来ると。なれば、月の光が消えるまえに、去るのが掟というものよ」
「はて、ガナン、きさま──」
ノリンが、顔色をかえる。
「いやあ、今夜は楽しかったぞ。」
ガナンは、ふらりと外をむいた。扉はあいている。月光はかげりをみせて、あけがたの暗さがあたりを包もうとしている。日は、まだ出てこない。
「……そうだな。」
ちいさく、ダールがつぶやく。
「ええ、楽しかった。」
ナナドが同意する。
「ああ、」
きらりと最後のかがやきをみせる月を背負って、ガナンは、
「楽しかったな。それでは、」
かるく手を振って、
「さよならだ。」
消えた。
*
「……ここで夜を明かしたのですか。」
男は、草原のどまんなかにあぐらをかいて、じっと地面を見ているようだった。背後からの声に、ふりむいて、ふと笑顔になる。
「おうさ。……ちょいと、知り合いに会っていた」
男の前には、ふたのあいていない酒瓶と、半分ほどになった干し肉の包み。
「いくさから一年ぶりに帰ったというのに、出迎えもなかったのでな。こちらから、押しかけたというわけさ。」
「……なるほど。」
うしろに立っていた男は、あたりを見回して、首をふった。
「突然の火事でございました。」
「そうらしいな。」
「火つけらしいのですが、犯人はわかっておりません」
「ああ。」
「書類も、備品道具も、みな焼けてしまいました。夜であったので、人はあまりおりませんでしたが──」
「……宿直室にいた4人だけが、煙に巻かれて焼け死んでしまったのだったな。」
「ええ。」
草原、と見えたのは、焼け跡であった。
もう、あらかたの片付けがすんで、100日ほども経っているので、見た目はほとんどただの草っぱらである。
「ゆきましょう。仮庁舎はあちらです。ご案内します」
「すまぬな」
ガナンは、重い腰をあげて、空を見上げた。
空には、なにもかも消し飛ばすような太陽が、傲然とたたずんでいた。




