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宿直の夜  作者: 楠羽毛
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炎の中で踊る小人の話

 ちらちらと火が燃えるとき、そのかけらが人のように見えることがないか。

 そんなときは、そっと気づかないふりをして、火を消すといい。でなければ、火をそのままにして、すぐにその場を去るのだ。


 おれの母方の親戚からきいた話だ。山で野営していると、ときたま、たいた炎のなかに、小人のようなものが見えるという。

 親戚が実際に見たところでは、それは、目も鼻も口もない、のっぺらぼうの人間のような姿をして、七人ほどで手をとって火をかこみ、クルクルクルとまわっていたという。

「けっして、小人に気づかれちゃならねえ。昔から、そう言うんだ」

 そう、おれが聞いたのは、大叔父の葬儀のあとの宴会のときだった。

「それを忘れちまうと、こうなるんだ。」

 ひらひらと右手をふると、手の甲に大きく広がったやけどの痕が見えた。


 おもわず、炎をかこむ小人の輪を見つめて、ひと呼吸。


 気がつくと、小人は踊りをやめていた。

 つないでいた手を離して、こちらを見上げているようだ。

 目が、あった。そう思った。

 次の瞬間、炎が大きく噴き上がった。おもわず顔の前に手をかざすと、掌が焼けた。炎はぐいと曲がって、頭のてっぺんを焦がしてから地面に墜ちた。

 小人は、いつのまにか消えていた。


 そういえば、こんな話もあるらしい。


 ある男が、山越えをしようと歩いていた。

 だんだん暗くなって来て、心細くなってきた頃、ゆくさきに火のかげが見える。

 しめた、道連れがいる。とたんに嬉しくなって、そばに寄っていくと、誰もいない。ただ、火だけがチロチロと燃えている。

 いや。

 よく見てみると、それはただの火ではなかった。

 蛇であった。


 炎の色に染まった大きな蛇が、とぐろを巻いて、チロチロと舌を動かしながら燃えていたのであった。


 男は悲鳴をあげた。そのとたん、蛇は舌を動かすのをやめて、首をあげた。

 かま首をもたげて、じろりと。


 男は悲鳴をあげて、かけだした。後ろから、じりじりと熱気が迫って来る。

 走っても走っても、後ろに炎の気配がする。

 ついに、山をおりきって、ふもとの道に出てから、男はやっと後ろをふりむいた。


 山は火に包まれていた。

 見上げると、山のてっぺんから、翼のある巨大な蛇が、炎をまとってこちらを見下ろしてきていた。

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