鬼の住む村の話
西方のある村に、うそつきで有名な男がいた。
何かをやらかしては、ごまかす。嘘に嘘を重ね、しまいには自分でもわけがわからなくなっていく。そんな男であった。
さて、あるとき、道路普請があった。隣村までの道が荒れてきたので、村のもの総出で手入れをするのだ。
男衆は、朝いちばんから夕刻まで、たっぷり作業をするのだが、この男は、少し働いただけでいやになって、ちょっと林のなかに入ってごろりと寝てしまった。
夕刻になって、男は戻ってきた。さぼっていたのを責められて言うことには、
「いや、違うのだ。実は午前中に、ちょっと小用をたそうと林に入ったところが、あやしい人影がみえた。これは、と思ってよく見てみると、額に角がある。果たして、鬼であった。
鬼はおそろしい形相をしていたが、一人であったので、いざとなれば走って逃げればよいと思って、あとをつけることにした。なにしろ、こんなところに鬼がいるとあっては、危なくて仕方がない。根城をつきとめねばならぬと思うてな。
林の中を、身をかくしながら進むと、昼ごろに、見たこともない場所に出た。たぶん、山頂の南あたりだと思うが、よくわからぬ。そこに、鬼の集落があった。
ちょうど山肌が大きくくぼんでいて、近くに行かなければ見えないようになっていた。おれはそのくぼみの端に身をひそめていたので、ちょうど集落をまるごと見渡すことができた。
鬼どもは岩に穴をあけたような家に住んでいた。人数は、たぶんこの村の半分くらいか。女も、子供もいた。子供たちは、まるで人間の子供のように走り回って遊んでいた。
それだけ見てとると、おれは身をひるがえして走って戻ったというわけだ。なにしろ知らぬ場所であったので、戻る道を見つけるのにこんな時間までかかってしまったがな。」
村のものはそれを聞いてしばらく騒然としたが、すぐに、嘘だとみぬいて相手にしなくなった。男はそんなことは気にもせず、何事もなかったかのように普請あがりの慰労会に出て、酒をかっくらって寝てしまった。
その夜のことである。
男が寝ていると、がんがんがん、と戸をたたく音がした。
「あいとるよ、」と男は夢うつつに答えた。すっと戸があいて、大きな影が入ってきた。
「……なんだ、寝ておるじゃないか。」影は太い声でそういいながら、男の寝ているわきに座った。
「まさか、後をつけられているとは思わなんだ。本来ならくびり殺すところだが、近在のものにこちらから手をだすのは禁じられているゆえ、やめておく。かわりに、これをやろう。」
枕元に、なにかが置かれる音がした。
「人界では手に入らぬものゆえ、大切にするがいい。そのかわり、これ以上、今日のことを口にしてはならぬ。破れば、今度こそ殺しにゆく。」
それだけ言うと、影はどこへともなく消えた。
翌日、男が目覚めると、枕元に、ちいさな珠があった。五色に光る、みたこともないきれいな珠で、傷ひとつなく真ん丸に磨かれていた。
男は一度だけ、この珠のことを人前で口にしたことがあったが、現物を見せなかったので誰も本気にしなかった。そんなときも、男はからからと笑って、ただほらを吹きつづけるばかりであったという。




