↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿直の夜  作者: 楠羽毛
PR
35/45

鬼の住む村の話

 西方のある村に、うそつきで有名な男がいた。

 何かをやらかしては、ごまかす。嘘に嘘を重ね、しまいには自分でもわけがわからなくなっていく。そんな男であった。

 さて、あるとき、道路普請があった。隣村までの道が荒れてきたので、村のもの総出で手入れをするのだ。

 男衆は、朝いちばんから夕刻まで、たっぷり作業をするのだが、この男は、少し働いただけでいやになって、ちょっと林のなかに入ってごろりと寝てしまった。

 夕刻になって、男は戻ってきた。さぼっていたのを責められて言うことには、

「いや、違うのだ。実は午前中に、ちょっと小用をたそうと林に入ったところが、あやしい人影がみえた。これは、と思ってよく見てみると、額に角がある。果たして、鬼であった。

 鬼はおそろしい形相をしていたが、一人であったので、いざとなれば走って逃げればよいと思って、あとをつけることにした。なにしろ、こんなところに鬼がいるとあっては、危なくて仕方がない。根城をつきとめねばならぬと思うてな。

 林の中を、身をかくしながら進むと、昼ごろに、見たこともない場所に出た。たぶん、山頂の南あたりだと思うが、よくわからぬ。そこに、鬼の集落があった。

 ちょうど山肌が大きくくぼんでいて、近くに行かなければ見えないようになっていた。おれはそのくぼみの端に身をひそめていたので、ちょうど集落をまるごと見渡すことができた。

 鬼どもは岩に穴をあけたような家に住んでいた。人数は、たぶんこの村の半分くらいか。女も、子供もいた。子供たちは、まるで人間の子供のように走り回って遊んでいた。

 それだけ見てとると、おれは身をひるがえして走って戻ったというわけだ。なにしろ知らぬ場所であったので、戻る道を見つけるのにこんな時間までかかってしまったがな。」

 村のものはそれを聞いてしばらく騒然としたが、すぐに、嘘だとみぬいて相手にしなくなった。男はそんなことは気にもせず、何事もなかったかのように普請あがりの慰労会に出て、酒をかっくらって寝てしまった。

 その夜のことである。

 男が寝ていると、がんがんがん、と戸をたたく音がした。

「あいとるよ、」と男は夢うつつに答えた。すっと戸があいて、大きな影が入ってきた。

「……なんだ、寝ておるじゃないか。」影は太い声でそういいながら、男の寝ているわきに座った。

「まさか、後をつけられているとは思わなんだ。本来ならくびり殺すところだが、近在のものにこちらから手をだすのは禁じられているゆえ、やめておく。かわりに、これをやろう。」

 枕元に、なにかが置かれる音がした。

「人界では手に入らぬものゆえ、大切にするがいい。そのかわり、これ以上、今日のことを口にしてはならぬ。破れば、今度こそ殺しにゆく。」

 それだけ言うと、影はどこへともなく消えた。


 翌日、男が目覚めると、枕元に、ちいさな珠があった。五色に光る、みたこともないきれいな珠で、傷ひとつなく真ん丸に磨かれていた。

 男は一度だけ、この珠のことを人前で口にしたことがあったが、現物を見せなかったので誰も本気にしなかった。そんなときも、男はからからと笑って、ただほらを吹きつづけるばかりであったという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。