鳥人の話
東方の森には、鳥人というものが住むという。
大きさは、人の腰くらいまで。鳥のようだがくちばしはなく、頭からは髪の毛のような長い羽毛がぞろりと生えている。足は人の手にそっくりで。
時たま、人語を話すという。
鳥人という名前については、こんな話がある。
森のはたの、マリブラナという村では、葬儀があった家に、奇妙な鳥が来ることがよくあった。不気味な姿をしているので、死のにおいをかぎつける魔物だといわれ、人々はこの鳥に近づかぬようにしていた。
森に入ると、時によってはこの鳥が群れており、人にであうと、人語のような鳴き声をあげてさわぐという。
さて、幼いころに両親に死にわかれた少年がいた。
少年は祖父母と暮らしていたが、その家の屋根に、時たまこの鳥がとまっていることがあった。
村人たちはそれをぶきみがって、この家に近づこうとしなかった。おかげで、少年は友達もできず、いつも一人で遊んでいた。
さて、そんな少年も大きくなり、祖父母が亡くなったのをきっかけに、都に働きに出ることになった。荷物を背負って家の門を出ると、その日も屋根の上に、あの鳥が一羽、とまっていた。
少年は、屋根の上にむかってうやうやしく一礼すると、
「いって、まいります。」
大きな声で、そういった。
それを見ていた近所のものが、「あの鳥は、お前のなんなのだ。」と、たずねた。少年はわらって、
「あれは、おれの母親さ。」
そう、いったという。
その鳥を、鳥人とよぶようになったのは、その時からだということだ。
いっぽう、こんな話もある。
森へゆくたびに、鳥人にまとわりつかれる男がいた。
「生者に思いをのこして死んだものが、鳥人となるという。いずれお前の縁者であろう。」
そんなことを言う者もいたが、笑いとばして相手にしなかった。
さて、男は猟師であった。森で獲物をさがすときにも、鳥人が飛んでいて邪魔をする。最初のうちは、それでもなんとかなっていたが、年をおうごとに、まとわりつく鳥人の数がふえていく。しまいには、男が獲物を狙うと、鳥人がさわいでみな追い散らすようになった。
男はついに業をにやして、鳥人をかたはしから射殺してしまった。
さて、男は鳥人の死骸を持ってかえり、さばいて喰った。最初は、肉にして売るつもりだったが、あまりにも味が良かったので、人にやるのが惜しくなり、ほとんど自分で喰ってしまった。
その後も、森にゆくたびに鳥人がそばへ寄ってくる。男はいつしか、他の獲物を狩ることをやめて、鳥人を狩っては喰い、腹がへっては森へゆき、そればかりを繰り返して生活するようになった。
村人たちは、男は鳥人を喰っておかしくなったのだ、と噂した。
あるとき、男が森から戻ってこなくなった。10日ほどして、さすがにおかしいということになり、猟師仲間が連れ立って男を探しに出た。
村からさほど遠からぬところに、男の死骸があった。
男は痩せ細って、別人のようになって伏していた。外傷はなく、おそらく、餓死したのであろうと思われた。
男のまわりには、たくさんの鳥人が集まって、ぼそぼそと唸り声をあげながらたがいに視線をかわしていたという。
もし、ふいに鳥人に出会ったときは、その名を呼んで、しずかに別れのあいさつをしてやるが良い。きっと、お前の縁者であろうから──と、
マリブラナのものは、今でもそう語り継いでいるという。




