表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿直の夜  作者: 楠羽毛
25/45

水ねずみの話

 東方の辺境には、水ねずみという動物がいるらしい。

 見た目は普通の鼠とさして変わらない。毛皮は灰色で、川や湖の底を、きゅうきゅう鳴きながら走り回るという。地上では息ができないらしく、水からあげてしばらく置いておくと死んでしまう。

 魚をとっていったり、網に穴をあけたりするので、川や湖で漁をするものたちからは、嫌われている。もっとも、肉がそこそこの値段で売れるので、鉄でつくった罠で、水ねずみを専門にとる漁師もいる。


 さて、こういう話がある。


 セノラスという男が、旅をしていた。剣の腕をたよりに、あちこちで用心棒をしたり、獣を狩ったりして、国じゅうをうろうろしている流れ者であった。

 この男が、ある村で一夜の宿を乞うた。老夫婦が暮らしている家であったが、礼がわりに旅の話をしながら夜を過ごしているうちに、奇妙な話をきくことになった。

 なんでも、この村からしばらく歩いた先に、病を癒す泉があるという。

 この村のものは病にかかると誰でも、そこで泉につかって治すのだという。そればかりではなく、近隣から病人が続々と集まって、近ごろは泉のまわりは人ごみで溢れかえっている。

 ところが、話はそれで終わりではない。

 老夫婦の息子と、その妻子が、泉に行ったまま帰ってこないのだという。

 半年ほど前、病にかかった幼い子供を治すために出かけたっきり。近ごろ、そういったことが時々あるのだという。泉に行ったっきり戻らないものが、この村だけでも何人もいる。

「それならば、」とセノラスは提案した。「おれが、見てきてやろう」


 さて、泉にゆくと、聞いたとおり人が大勢いて、泉につかるのに順番待ちをするようなありさまだった。セノラスは大声をあげて剣をふりまわし、人を遠ざけてから、じゃぶじゃぶと水をかきわけて泉のなかへ入っていった。

 それから、がつん、がつんと剣を泉の底に突き立て突き立てして、さぐっていった。泉に入っていた人びとは遠まきにそれを見ながら、ざわめいていた。

 やがて、泉の中心あたりで、剣先が深い穴のようなものにあたった。

 セノラスは、泉に手をいれて、穴のまわりの岩に指をかけた。んぐむうう、と真っ赤になって踏ん張ると、地震のようにぶるぶると足元がゆれて、泉の底の岩盤が大きくはがれた。

 そのとたん、広がった穴から、なにかがあふれ出てきた。

 灰色のなにかが、波のように広がって、泉のなかを這い回った。鼠であった。水ねずみの群れが、泉の地下の空洞から飛び出してきたのだ。

 それから、なにか白いものが大量に流れてきた。

 人骨であった。

 水ねずみが、人を喰っていたのであった。


 セノラスは、水ねずみを掴みとっては泉の外に放り投げ、ついにすべて殺してしまった。それから、出てきた人骨を持って帰り、村のものに供養させた。


 不思議なことに、それから泉の効能は消えてしまい、今では誰も寄り付かぬようになってしまったという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ