表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿直の夜  作者: 楠羽毛
23/45

死んだ子供が怪物となる話

 おれも、少し似た話を思い出した。都で、ジュナスという男からきいた話だ。

 かれの故郷の村では、子供が幼くして死んだときは、あえて弔いをせず、森の奥のきまった場所に、死体を置いてくるのだそうだ。

 そうすると、数日のうちに、子供は帰ってくる。

 ただし、人としてではない。


 帰ってきた子供たちは、髪も耳も鼻も口もなく、目だけがボンヤリとあいて、まばたきもせず、影のように黒ぐろとした身体をノッソリと動かして、あたりをうろつき回るそうだ。

 この子供たちには、けっして話しかけてはいけないことになっている。

 それだけでなく、触れてもいけないし、家に招き入れてもいけない。

 そうしていると、数日のうちに、彼らは森に帰ってゆく。そうすることで、子供たちは本当の死をむかえ、安らかに眠れるのだという。


 さて、二十年ほど前、ある家で子供が死んだ。

 原因は、わからぬ。流行り病であったのかもしれないし、事故かもしれない。ともかく、例のとおり、子供の遺体は森の奥に運ばれ、そうして次の日には、子供は戻ってきた。

 ふらふらと、おぼつかぬ足取りで。

 例によって、村人たちは子供を見ぬふりをした。それがおきてだ。高札のたつ広場でも、畑のきわの井戸端でも、子供の相手をするものは誰もいなかった。

 むろん、家族であってもだ。

 子供は、もの言いたげにきょうだいにまとわりついたが、姉も、兄も、いとわしげに首をふるばかりだった。

 孫に甘かった祖母がぴしゃりと戸を閉めるに至って、子供は、すごすごと門をくぐって、大通りへと出ていった。

 やがて、村と森との境界にさしかかった頃、うしろから母親が追いかけてきた。

 母親は、人目がないのを確認してから、子供の手にぐっとパンのかけらを握らせると、すぐに走り去ってしまった。

 そうして、子供はボンヤリした足取りのまま、村を出ていった。


「……そうやって、おれは、村を出たのさ。」

 ジュナスは、そういって、からからと笑った。

「パンのかけらを喰いながら、森をさまよい歩いて、気がついたら山むこうの町に出ていた。そこで、今の親に拾われたのだ。

 ……子供のころの記憶は、今はボンヤリとしている。おれが怪物だったのか、村人たちがおかしかったのか、今ではわからない。」

 そう言ったジュナスの手足は、なぜかうっすらと黒くて。それに、おれが見るかぎり、やつは一度も瞬きをしなかった。


 この話には少しだけ続きがある。

 ジュナスが成人してから、生まれた村に一度だけ戻ってみたことがあるそうだ。しかし、そこにはかれを知るものは一人もなかった。家族はおろか、幼いころ遊んだ友人や、顔見知りの姿も、誰ひとりとして見つけられなかった。

 おおかた、場所をまちがえたのであろうと、ジュナスはただ笑うばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ