表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宿直の夜  作者: 楠羽毛
16/45

翼のない鳥が落ちてきた話

 50年ほど前、どこかの土地でほんとうにあった話らしい。どこかは知らぬ。


 あるとき、何もない青空から、一羽の鳥がとつぜん落ちてきた。

 珍しいこともあるものだと、鳥を拾った若い男がよく見てみると、翼がない。

 雉に似た、顔の赤い鳥であった。

 持ち帰ってはみたものの、どうにも気持ちわるい。

 庭に置いたまま、外出してしまった。


 さて、用をすませた帰りに、ふと思い立って、昔のことをよく知っている年寄りに、翼のない鳥について聞いてみると、

「それは、瑞祥である」と言う。

「なれば、どうすればよいか。」と問えば、

「それは知らぬ。」と言われてしまった。

 喰うたものか、それとも庭に埋めて、祠でも建てるべきか。

 考えながら家にかえると、よい匂いがする。

 あわてて、台所に入ると、ぐつぐつと煮立った鍋。

 鳥は、もう母の手でさばかれ、調理されてしまっていた。


 さて、その鍋を家族で喰うだんになったが、どうにも食が進まぬ。

 父と母、妹はがつがつと顎を動かしていたが、男は一口喰うただけでいやになって、気分が悪いといってひっこんでしまった。

 そのまま寝たが、夜中、どうにも胃が気持ちわるい。庭にでて、えづいているうちに、少しだけ腹に入れた鳥肉もすっかり戻してしまった。


 次の日には体調もすっかりよくなり、いつもどおりに仕事にいって戻ってくると、庭の隅でなにか物音がする。

 猫かなにかか、と気になって行ってみると、妹であった。

 妹が、地面に落ちているなにかを、四つん這いになって喰っている。

 よく見ると、それは、昨夜自分が吐き出した、鳥の肉であった。

「何をしている!」

 さけんで、妹の顔を近くでみると、目がおかしい。

 黒目がほとんど目の端まで広がって、薄く膜が張ったように白く濁っている。

 妹は、ぼんやりと首をかしげて、平坦な声で、

「なに、が?」

 と言った。


 父と母の目も、妹とおなじような異形になっていたが、それを指摘しても、なんの不思議もないかのように首をかしげるばかりであった。

 色々なことがあって、五年後に男は村を出た。

 そのころ、十一歳だった妹は十六の娘ざかりになっていたが、見た目はまったく変わっていなかった。


 さて、家を出てからはほとんど手紙もださず、仕事に精をだして時が過ぎた。三十をすぎて、ひとりだちの職人となったのを機に、一度実家の様子を見に戻ることにした。事前に手紙を出したが、返事はなかった。


 行ってみると、そこに村はなく、ただ森があるばかりであった。


 場所をまちがえたかとあたりを見てみると、朽ちた建材や、錆びた道具類がたくさん転がっていた。地形と照らしあわせてみると、やはりここは、村があった場所に間違いないようであった。ただ、わずか十年ほどの間に、すべての建物が朽ち、人がいなくなったばかりか、立派な木々が生い茂る森となっていたのだ。

 実家のあったとおぼしき場所にいってみると、そこだけは避けたように草木がなく、百歩四方ばかりの空地となっていた。

 空地の真ん中には、青白く光る岩が3つ、並んで立っていた。ちょうど人の背の高さくらいの岩で、ひとつは小さかったという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ