天から降るものの話
天女の話をきいて、思いだしたことがある。
おれが、まだ七つか八つのころ。
南の共有林の端、森入りの道具やなんかが置いてある小屋のあたりで、ひとりで遊んでいた。蟻の巣を見ていたか、とにかくぼうっと過ごしていたところ、
ぱさ、
ぱさ、
と、雨が降ってきた。
強くならねばよいが、と軒下に入ろうとして、ふと気づく。
金色の雨であった。
光のかげんでそう見えるだけかと、手をだして雨水を受けてみると、やはり金色だ。つめたい、いつもの雨の感触で、色だけがちがう。
両手で受けた水を、少しだけ飲んでみる。
やけに、甘い。
落ちながらきらきら光る雨粒を、ぼうっと眺めていると、どこからか、
──しまった。
という、声が聞こえてきた。
それから、降り続く雨はすぐに透明になり、金の水は流れて消えてしまった。
*
空から降るものということで、もうひとつ思いだした。
これは、人から聞いた話だ。
都の北、エルカララという街では、時たま石が降るという。
ふつうは、なんでもない石粒がぱらぱらと落ちるくらいだが、数年に一度は、大人の拳くらいの大きな石が、雨のように降る。
不思議なことに、その石は子供にはけして当たらないという。
大人は、石が振りはじめると、けがをせぬように建物の下に入る。
なかには、逃げ遅れて石が頭にあたり、死んだものもいるという。
長くても半日ほどで、石はやむ。その後は、片付けが大変だそうだ。
*
おれも、一度だけ、ふしぎなものが降るのを見たことがある。
やはり、子供のころ。
真冬で、毎日のように雪が降る時期だった。あけがたから吹雪いていたのが、ふいと止んで晴れ間がのぞいた。庭にでて、一人で雪を丸めたりして遊んでいると、またちらちらと雪が舞ってきた。
その雪に、赤いものがまじっていた。
手にうけて、ちろりと舐めてみると、あたたかく、血のような味がした。
たしか、いちばん上の兄が死んだ日のこと。そのあとは葬儀の準備でみなあわただしく、雪のことは誰にも言わずに終わってしまった。