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宿直の夜  作者: 楠羽毛
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天から降るものの話

 天女の話をきいて、思いだしたことがある。

 おれが、まだ七つか八つのころ。

 南の共有林の端、森入りの道具やなんかが置いてある小屋のあたりで、ひとりで遊んでいた。蟻の巣を見ていたか、とにかくぼうっと過ごしていたところ、


 ぱさ、

  ぱさ、


 と、雨が降ってきた。

 強くならねばよいが、と軒下に入ろうとして、ふと気づく。


 金色の雨であった。


 光のかげんでそう見えるだけかと、手をだして雨水を受けてみると、やはり金色だ。つめたい、いつもの雨の感触で、色だけがちがう。

 両手で受けた水を、少しだけ飲んでみる。

 やけに、甘い。

 落ちながらきらきら光る雨粒を、ぼうっと眺めていると、どこからか、


 ──しまった。


 という、声が聞こえてきた。

 それから、降り続く雨はすぐに透明になり、金の水は流れて消えてしまった。



 空から降るものということで、もうひとつ思いだした。

 これは、人から聞いた話だ。

 都の北、エルカララという街では、時たま石が降るという。

 ふつうは、なんでもない石粒がぱらぱらと落ちるくらいだが、数年に一度は、大人の拳くらいの大きな石が、雨のように降る。

 不思議なことに、その石は子供にはけして当たらないという。

 大人は、石が振りはじめると、けがをせぬように建物の下に入る。

 なかには、逃げ遅れて石が頭にあたり、死んだものもいるという。

 長くても半日ほどで、石はやむ。その後は、片付けが大変だそうだ。



 おれも、一度だけ、ふしぎなものが降るのを見たことがある。

 やはり、子供のころ。

 真冬で、毎日のように雪が降る時期だった。あけがたから吹雪いていたのが、ふいと止んで晴れ間がのぞいた。庭にでて、一人で雪を丸めたりして遊んでいると、またちらちらと雪が舞ってきた。


 その雪に、赤いものがまじっていた。


 手にうけて、ちろりと舐めてみると、あたたかく、血のような味がした。

 たしか、いちばん上の兄が死んだ日のこと。そのあとは葬儀の準備でみなあわただしく、雪のことは誰にも言わずに終わってしまった。

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