短冊になんて書けない
『**くんと恋人になれますように』
そんな願いが書かれた短冊を巷で見かけるたびに、こっちまで恥ずかしくなってしまう。
私に言わせれば、そんな直筆の想いを不特定多数の人に往来の中公開するなんて、本人に直接言うより恥ずかしい。
たぶんそんなことを書く人は、軽い気持ちで書いたか、そこまで考えつかないほど馬鹿かのどちらかなんだろう。
そんなことができるなら、直接言えばいいのに。
「……そういうサキは、僕に直接言ってくれたっけ?」
にこにこと笑いながら私を追い詰めるユウの腕を、容赦なく抓って黙らせる。
私の言葉は貴重なの。
気安く売ったりしない。
「僕はサキに好きって言ってもらえて嬉しかったけど」
「……っ!」
顔に血が集まって、熱くなるのが分かる。
この男は、なんてことを平然と言うんだ。
「サキは嬉しくなかった?」
声は悲しそうに、顔はにやにやと笑いながらという器用な真似をしながら、私の腕を捕まえるユウ。
フリとはいえ、さすがに振り払うわけにもいかないし、かといって素直に答えるのは恥ずかしい。
それに癪だ。掌の上で踊らされっぱなしなのは許しがたい。
「……もう一回」
「?」
「もう一回、ちゃんと私のこと好きって言ったら、考えてあげる」
私の言葉に、少しだけ固まるユウ。
すぐにいつものにこやかな表情に戻ったけれど、私の目は誤魔化せない。
「サキ……」
「ユウのそういう恥ずかしがりなところ、好きだよ」
人差し指でユウの照れ隠しを唇の奥に閉じ込めながら。
今できる精一杯の笑顔で告げる。
誤魔化しきれずに赤面してそっぽを向く君に送る。
恥ずかしがりやの私の恥ずかしい言葉。
もう一回なんて、ないんだからね?