1話 赤ドラゴンは炭風味
『ドラゴンだー!!!この街はもう終わりだー!!!早く避難するんだー!!!』
ドラゴン。この世界における最強種の一角であり、知性のある龍や、悪魔、魔人などとは異なり知性を持たないことから気まぐれで定期的に災厄を撒き散らす厄介者である。
しかしドラゴン討伐は並では無い。少し腕に覚えがある程度の魔術師では束になっても敵わない。剣や槍、弓など物理単体では世界一の使い手であっても傷一つつけれない、そんな存在であった。
『あんちゃんも早く逃げな!見たところ得意なのは体術だほ。ドラゴンには物理が効かない事、知らないわけじなないだろ?』
『問題ねーぜ。俺は"魔術師"だからな。行くぜ、ロッタ!』
『うん。ブート。今日はドラゴン鍋なの。』
ブートと呼ばれた男は見た目はまんま武闘家、しかし体格は並以下で強そうには見えない。目鼻立ちはくっきりしていてとにかくカッコいい。イケメンではなくカッコいいが似合う顔立ちをしていた。だが10人に彼の印象を聞けば揃ってこう言うだろう。
スキンヘット と。
そのスキンヘットの後ろにとことことついていくのはロッタと呼ばれた少女。フード付きのロングコートを着ていてシルエットしか見えないがコートの上からでもわかるほどスタイルがいいのがわかる。腰掛けの鞄をしているのかお尻の上あたりは不自然に膨らんでいる。
『お前たち!冗談じゃないんだ!ドラゴンなんだぞ!、ってもうあんな遠くに、、、』
人類域最北のこの街スリュフの守衛であったウーガは避難誘導中に二人に出くわした。制止も聞かずドラゴンの方へ向かっていく自称魔術師に構って居られるほど事態は穏やかではなく再度の制止を無視して行った二人は放っておき、逃げ遅れが居ないか付近の捜索へと消えて行った。
グガァーー!!
ドラゴンは城壁を破壊し既に街の中へと入ってきていた。城壁を破壊したドラゴンブレスは周辺の民家諸共なぎ倒し街中に大きな更地が出来上がっていた。所々で火の手が上がりさながら地獄絵図であった。
グガァーー!!!
口元に火花を散らしながら挑発的に吼えるドラゴンは明らかに顔前の者達を見下していた。
ドラゴンの前には十数名者たちが杖や魔法剣を持ち決死の面持ちで立ち合っていた。
その中に一人赤毛の少女がいた。
肩より少し長い赤毛に可愛いと言うよりは綺麗な顔立ちに抜群のプロポーション。明らかに場違いな少女であった。しかし、その目が、気迫が、佇まいが、彼女が只者ではない事を、そしてこの場で最も力ある者である事を物語っていた。
彼女の名はシオナ・ルー。スリュフの街、そしてスリュフの街を含むノリア皇国において名を馳せるルー家の生まれでシオナ自身も相当の有名人である。シオナの曽祖父に当たるギルター・ルーは人類域に出現した黒龍を撃退したパーティ唯一の人類であり、現在も存命で御歳171。ルー家を一躍有名にした人であった。
そのパーティメンバーは現在では6英勇として知られており、"仙人ギルター・ルー"とよばれ、シオナはそのギルターの愛弟子であった。
そんなシオナであるが彼女はまだ17歳。若すぎた。ギルターが黒龍を撃退した時は80歳とおよそ5倍の時間鍛練を重ねてやっと到達できる領域であった。
ボワッ!ギュワァァァアアアア!!!
数秒の睨み合いののちドラゴンは勝ち誇るように口を開けると、口元に魔力がほとばしり光の玉の様な物が出来た。
ドラゴンブレス。
魔力を集め熱に変換し圧縮、そしてそれを指向性を持って解き放つ。ドラゴンの唯一にして絶対の技である。
『『『っ!!、退避!!』』』
ブレスはタメ始めてからの方向の変更ができないので対処法は単純明快、射程外へ逃げる、である。
『お!、いたいた!、みーっけ。』
ドラゴンに対峙していた全員が左右に飛び退いて出来た間をスキンヘットが闊歩する。
『赤ドラゴンかー、、ロッタ、赤はあんまし美味しく無いけど本当に鍋??』
『うん。鍋なの。お腹空いたの。、、ブート、ブレス。来るの。服大丈夫なの?』
『あっ!しまった!服きて
キィィーーーーー!!!!
ドラゴンの方を振り返る事なくスキンヘットはブレスをもろにくらった。
そんな場違いな状況をシオナ達はただ呆然と眺めていた。永遠にも感じたブレスが白い光線から赤みを帯びていく。
キィーーーーゥゥウボッ!ボッーーーッ!
そして、、
『服は燃えるんだったぜ、忘れてた。』
マッパのスキンヘットがさも当然の様に仁王立ちしていた。
そしてドラゴンを一瞥すると
マッパはブレて消えた。
そして
ドカァン!!!!!!!!
物凄い爆音が響きその場の全員が音のする方へ向いた。そこには
拳を振り抜いたマッパの奥で頭の無いドラゴンが崩れ落ちる所だった。
そして拳の先にドラゴンの首が転がっていた。
『いっちょ上がり!、ロッタ!、鍋にしようぜ!』
『うん。鍋なの。今すぐなの。』
ドラゴンを捌き初めてどこから出したかわからない特大鍋でグツグツ煮出すマッパと少女を呆然とながめていたシオナいち同が"これは夢だ"と現実逃避してヘタリ込むのは至極当然のことであった。