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掌編怪談

百物語

作者: 暮月 弥涼

 小学生の頃だったろうか。宿泊研修の夜に、同室の10人ほどで百物語をしたことがあった。

 百物語とはいっても、1人10個も怖い話を知っているわけではないし、蝋燭を準備できるわけでもない。

 なんだかんだと全員怖がっていたので、部屋の電気も付けたままである。

 要は、単純にそういったイベントらしい事をして雰囲気を楽しみたいだけだった。


 案の定、2,3周もしないうちに皆話すことが無くなってきた。


「もう誰も話すことないの?」

「怪奇現象起きるかと思ったのに何にもないしさあ」

「もう終わらせてウノやんない?」


 全員が飽きはじめ、怖がっていた数人がここぞとばかりに百物語自体を終わらせようとする。


 と、突然パッと隣が明るくなった。


「わあっ!」


 思わず後ずさると、隣に座っていた女子が、顔を照らしながらにこにこと笑っていた。

 部屋が暗いので、一瞬生首が浮いている様に見えて心臓が止まるかと思った。


「びっくりした?」

「なんだよ、脅かすなよ…」


 周りにいた他のメンバーも口々にびっくりした、今のが一番怖かった、と笑う。

 彼女はそれを聞いてさらに楽しそうに笑った。


「ねえねえ、もう終わり?私も話していい?」

「いいけど、ちゃんと怖いやつ知ってんのか?」


 まかせて、と顔を照らしたまま自信ありげに頷くので、全員が期待のまなざしで彼女を見つめた。

 彼女はゆっくりと口を開いた。よくとおる声が、静まり返った部屋に響き渡った。


「この部屋、いつから電気が消えてるの?」


 しばらくの沈黙の後、あ、と暗い部屋の中で誰かが声を上げた。

 百物語を始めたとき、部屋の明かりはつけたままだった。

 話をしていた間、誰も立ち上がった者はいなかったはずなのに。


 一人が悲鳴を上げたのが引き金だった。

 部屋の中はパニック状態になり、慌てて駆け付けた担任も落ち着かせるのに相当手を焼いたに違いない。

 口々に担任に言いつのったが、誰かがいたずらで消したんだろう、そもそもとっくに消灯時間は過ぎているのに何をやっているんだ、と当然相手にされず、大目玉を食らう結果となった。


 長い説教の間に段々冷静になってくると、電気が消えたくらいで取り乱していた自分がなんだか恥ずかしくなってくる。

 怪談に夢中になっている間に電球が切れたのかもしれないし、そもそも彼女が気づいたところで電気をつけに行ってくれればこんなことには…


 恥ずかしさを通り越して怒りが込み上げてきた。

 しかしその怒りは、担任の次の一言で一瞬にして消え失せた。


「大体、俺はここの廊下の見張りをしてたんだぞ。女子部屋の方にも他の先生はいるし、男子部屋の廊下に女子が来てたら、いくらなんでも気づくだろうが」

 思わず全員で顔を見合わせる。その中に、彼女の姿はなかった。


 あとで確認したことだが、その部屋にいた誰もが彼女が誰なのか知らなかった。

 宿泊研修中どんなに探しても、どの写真を見ても、どこにも彼女の姿は見当たらなかった。


 その後は怪奇現象と呼べる出来事は全く起こらず、帰ってから宿泊施設を調べてもそれらしい話を発見することは出来なかったため、あれが何だったのかはいまだによくわからないままだ。

 ともかく、その夜は一睡もできなかったことは言うまでもない。

                             <了>

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