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罠の在り処

 領主の城は全てが大きかった。

 扉も廊下も部屋も今まで見た中で一番大きく、清潔だった。

 メイナードはあたりをキョロキョロと見渡しながら、カーペットの敷かれた廊下を歩く。


「珍しいかい?」

「あ、はい。こういう経験がないもので」


 少し前を歩いてくれているのは、ここの領主に仕えている騎士達のまとめ役、騎士長パーシバル・スウィニーだ。

 短く刈り込んだ金髪に大柄な体型、鎧を脱いだラフな格好だが、まだかすかに血の臭いが漂っていた。

 

 メイナードはパーシバルが開けてくれた扉をくぐり、豪奢な部屋の柔らかいソファに身を沈める。

 六歳の身体では背もたれに身体を預けると足がつかないから、ふわふわした感触だった。

 そんな風に未知の体験を楽しんでいると、眼の前にテーブルに湯気の立つティーカップが静かに置かれた。

 召使いが部屋の中で待機していたのだ。

 部屋の中は騎士長と二人だけだと思っていたから、少しだけ驚く。

 しかし召使いはそんなメイナードを気にする様子もなく、しずしずと元の場所へ戻った。

 向かいに座ったパーシバルが早速カップを手に取り、話を始めた。


「今回は本当に感謝している。領主に代わってわたしからお礼申し上げたい。本当にありがとう」

「いやいや。そんなに言われることじゃないですよ」


 メイナードが謙遜するが、パーシバルは頭を下げ続けた。

 確かにメイナードはそれだけのお礼を言われるだけの成果を出した。

 もし騎士達と一部の研修生だけで戦っていれば、どうなっていたかは分からないからだ。

 メイナードが戦闘中に感じた恐怖が本物なら、街は国軍が来る前に壊滅していたとしてもおかしくない。

 それどころか、国軍ですら鎮圧できるかは怪しかった。

 メイナードは巨大な魔法を行使し続けることで竜を倒したが、それと同じようなことを一般人はできないということを知っている。

 大牙狼ですら、普通の人の手には余るのだ。

 竜が魔法使い以外の手によって倒されるのは、想像できなかった。


「街を守ってくれたこと、竜を倒してくれたこと。いずれも君にしかできないことだし、それを恐れずに行ってくれたことを感謝せずにはいられない」

「僕にしかできない……ですか」

「ああ、そうだ。君のような強い魔法使いにしかあれは倒せなかっただろう。まだ子どもなのに、率先して戦ってくれたのは大人として情けないばかりだが、本当に嬉しいよ。君が守ってくれなければこの街がどうなっていたかは火を見るより明らかだからね」

「いやあ……」


 メイナードがソファに身をうずめて頭をかく。

 緩みきった頬が落ちそうなくらいに朗らかに笑うメイナードは、もしかすると何かご褒美がもらえる可能性も考えながら、褒め言葉を聞いていた。

 しかし、パーシバルは先程までの嬉しそうな顔を少し曇らせて、手を仰いだ。


「だけど、法律は情を持たない」

「……え?」


 メイナードは話の方向性が変わったことに気づいた。

 深刻そうな表情のパーシバルが話を続ける。


「君が使った魔法による街の破壊は深刻だ。とくに一つ目の土壁が良くない。二つ目はあくまでも私有地に建てられているから交渉次第でなんとかなるが、広場に作られた土壁は領主が直接名義人になってる場所への攻撃扱いになる。もちろん、道理で考えればそれが一つも悪くないことは誰もが分かっている。君が悪人だという人はこの街には誰もいないだろうし、もしいるとするなら私が責任を持って、全力で説得しよう」

「はあ」

「それでだ。君が領主に対する攻撃を行ったことについてだが、それらを無罪にすることはできないんだ。これは法制上の問題であって、君が悪いという意味ではない。君が有罪になることを、誰も止めることができないという意味だ。法律を犯しているという点で悪人と言われる可能性があるが、今回は理由があってのことだし、誰も咎めはしない。それに法律を犯しているということを悪人であることとそのまま結びつけるほうが、無責任だと思わないかい? 単に犯罪が悪い行いであるにすぎないし、悪い行いをした人間が悪い人間だと決めつけるのは論理の飛躍だよ」

「……」


 何を言っているのか分からなかった。

 メイナードは竜を倒して、街を救ったのだ。

 それなのに、犯罪者?


「つまり、君は犯罪者ではあるが、悪人ではないということだ。騎士としてはこうしたルールに縛られた善人に同情したくなる。それに本来ならば君のような子どもではなく、私たち騎士が倒さなければならなかった敵を実質的に押し付ける形になったのも、あまり褒められたことじゃない。だから何とか君をかばってあげたいし、できるなら無罪にしてあげたい。しかし私たち騎士にそんな権限はないし、そもそも街のなかでは法律の力はあまりに強大だ。どんな人間であっても個人では社会を形成できない以上、ある程度人間よりも耐用年数の高い縛りが社会には必要なんだよ。社会が継続的に反映していくにはね。今回はそれが裏目に出た形だけど、本来ならば君のような者をこそ社会は守るべきなんだ」

「あー……つまり何が言いたいんです?」


 歯切れの悪いパーシバルがしばらく黙った。

 メイナードはじっとパーシバルを見つめて、答えるまでの間、目を合わせ続けた。

 しばらく経って、ようやく彼が重い口を開いた。


「まあ、要するに……君は犯罪者ってことになる」


 **


 しばらく絶句していたメイナードを気遣うように、後ろで控えていた召使いが温かいカップに取り替えてくれた。

 まだ一口も飲んでいなかったお茶が下げられる。


「もしかして、牢獄とかに入れられたり処刑とかされるんでしょうか?」


 禁固刑ならともかく、死刑なんてメイナードは受け入れるつもりはなかった。

 前世では事故で死んだ挙げ句、今回は人を助けたのに理不尽に処刑だなんて納得できるはずもない。

 パーシバルは慌てて両腕を振った。


「ないない、そんなことするはずがないじゃないか! 君は英雄だぞ? この街を助けた救世主だ。当然そんなことにはさせないし、するつもりもない。誰も止めないなら、私が止めるさ。まあ、そこまでみんな頭が硬いわけじゃなかったから、私より上で君を助ける手順が踏まれたよ」

「騎士長の上ってことは領主ですか?」

「そうだ。まあ、この街の誰が君を責められるだろうか? なんてことは誰もが分かっている。君になるべく不幸が降り注がないように、誰もが協力的だったよ。私も報告する時は慎重に君を立てた。そのおかげとは言わないよ、もちろん。何が君を救ったかと言えば、当然君自身さ。君の行いが善良だったからこそ、こうして街は守られて君の身も守られる」

「でも法律がもうちょっと柔軟だったら僕がそもそも僕を守る理由はなかったんじゃないですか?」


 パーシバルの笑みが固まる。


「ま、まあその通りだね。すまなかった、軽はずみな意見だったよ。本当に申し訳ない。迷惑をかけているのはこちら側だってことは重々承知だ。そのうえで、何とか手立てを講じてる。法律上では、器物損壊罪の刑罰は罰金か懲役だ。そして同時に君が壊したのは領主の所有物だから不敬罪にもあたる。そしてこれの刑罰には罰金がなく、懲役刑しか存在しない。だが、これを器物損壊罪だけに焦点を当てて、不敬罪のほうをなかったことにする」

「どうやってです?」

「君が竜討伐の前に広場の権利を買い取っていたことにするんだ。君は罰金と広場の権利代を払うことで懲役刑を免れる」


 それって書類偽造でないのか、と思ったがメイナードは黙って頷いた。

 懲役刑なんて絶対に受けたくない上に、今パーシバルが言っていることは全部メイナードを助けるための算段だからだ。

 人を貶めるためならともかく、自分のためなら黙っている他ない、とメイナードは思った。

 今のメイナードに書類偽造を糾弾するほどの潔癖さはなかった。



「それで罰金を裁判でゼロにして、広場も実質無料で買い取り、後で僕がまた無料で返せばいいんですよね?」


 またパーシバルが口を閉ざした。

 メイナードは嫌な予感がしつつも、質問を重ねる。


「もしかして、無料にならないんです?」


 パーシバルがソファから急に立ち上がり、深々と頭を下げた。


「本当にすまない! それもできない! こっちも色々各所に手を回したが、嘘に嘘を重ねている以上、これ以上の手立ては打てなかった」

「じゃあ誰が払うんです!? 僕お金なんか持ってないですよ!」


 顔をあげたパーシバルがメイナードの目をじっと見る。

 

「領主が君を雇う、という形で収まるんだ。君への報酬の一部が罰金と広場の代金に充てられる」


 メイナードはあまりにも無茶な解決方法に、黙るしかなかった。


「もちろん君が雇われている間、衣食住の保証はするよ。それこそ領主は君にこの城の一室を充てがうつもりでいる。完全に清潔で、どこに行っても与えられない完璧なサービスがここでなら受けられる。柔らかいベッドや常に清潔なシーツで寝られるし、食事も好きなものだけ食べられる。そして少しだけ領主のために働いてくれればいいんだ、その魔法を使ってね」


 簡単だろう、とパーシバルは付け足した。

 メイナードは全然乗り気になれないまま、外をながめる。

 広場のほうではいつもの市場の活気はなく、垂直に突き立った土壁に沿って足組みが建てられているところだった。

 解体工事をしなければ、もう一度市場を開くことさえできない。


「両親と離れて不安になる気持ちもあるだろう。だけど安心して欲しい、君がここに来るまでの間に連れていた使用人もここで保護することを約束しよう」

「え? カルラがいるんですか」

「ああ。実は一週間くらい前に街を無許可で出ようとしたからこちらで保護していたんだが、どうせなら君と一緒のほうがいいだろう?」

「街を出ようとしたのを捕まえたんですか?」

「ああ。竜がこっちに向かってるって報告を受けた時点で、街は全面的に封鎖したからね。出入りの管理も厳しかったんだが、それを乗り越えようとしていたんだ。危険だからといっても聞きそうになかったから、保護した。無鉄砲な旅人は死んでも構わないだろう、なんて声が騎士達の一部から出たりはしたんだが、結果的には良かったかな。やっぱり人が死ぬのは見たくない」


 そういってパーシバルは壁の方へ歩いた。

 壁には絵画や剥製の首が掛けられている。

 パーシバルは一枚の絵画の額縁に手をかけて、丁寧な手付きで壁から外した。


「ほら、見てくれ。犯罪者なんかじゃないから、騎士寮で昨日まで保護してたんだが今日は連れてきたよ。丁寧に扱っていたということを知ってもらいたいからね。君はさらにこれ以上の待遇を受けられるということを、領主の名に誓って約束しよう」


 そういうと壁のほうをパーシバルは指さした。

 メイナードもつられて壁を見る。

 そこには、ぽっかり空いた丸い穴があり、そこから隣の部屋が覗けた。


「これ……向こうからは?」

「当然見えない。普段あっちは詰め所で扱うには身分が高すぎる人々に話を聞く(・・・・)ための場所なんだ。だから、こうして別室で監視ができるように部屋に細工がしてある」


 隣の部屋には、澄ました顔でコップの水を飲むカルラがいた。

 豪奢な部屋に似つかわしくない木彫りのコップは、おそらく彼女の持ち物だろう。

 まだ湯気の立つティーカップが目の前に置かれているにも関わらず、彼女はそちらに手をつけることなく、自分の飲み物で乾きを潤していた。


「まあ別室でもっと詳しい話をしよう。君を助けたいという話をするためにここを選んだが、次は君がどんな部屋をもらえるかという話をしたい。それに、この部屋を選んだもう一つの理由にこれ(・・)があることも関係してたしね」


 パーシバルが壁から視線を外して、部屋を出るべく扉を開けた。

 下からカルラを覗きこむように隣の部屋を見ていたメイナードも後に続く。

 カーペットまで完璧に清潔な廊下をパーシバルと共に歩く。

 そのとき、向かいの部屋から出てきた誰かと鉢合わせた。

 メイナードはこんなところで知り合いと会うなんて思っていなかったから、驚いて目を見開く。

 

 ニコラだった。


 いつものように研修生のための動きやすい服ではなく、街で買い揃えたような上下に身を包んでいる。

 メイナード同様驚いて立ち止まったニコラは手に持った袋から硬質な音を漏らした。

 そのなかに、まるで金貨が大量に詰まっているかのようだった。

 そしてニコラは何もかもが闇に包まれたかのような仄暗い顔を浮かべて、涙をためた目でメイナードを見た。

 ひどく申し訳なさそうな表情だった。

 

 そして、ようやくメイナードは何が起きているのか気づいた。

 嵌められたのだ。

 

 不自然過ぎる理由で領主に雇われる身となったメイナード。

 領主の城で報酬を受け取っているニコラ。

 わざわざ直接引き合わせることなく、別室で安全確認をさせられたカルラの身柄。

 数日前に助けてくれと言ったニコラ。

 竜の噂をもらしたニコラ。

 メイナードが戦争のことを知らないことで過剰に悲しんだニコラ。

 修道院へ着く前――街へ到着する前を狙った襲撃者。

 

 全てがメイナードを修道院から引き離し、領主の物とするための策略だったのだ。

 修道院の機密性が高いから、内部に裏切り者を用意してメイナードを誘導して、ここまでの流れをつくったというわけだ。

 不自然な理由で犯罪者になるのも、そもそも結論ありきだからだ。

 カルラの身柄を確保しているのは、強大な力をここで使わないように人質がいることを見せるためだ。

 メイナードが戦争のことを知らないことで悲しんでいたニコラは、自分よりもずっと歳下の何も知らない子どもが戦争へ行くことに涙を流していたのではなく、そんな無知な子どもを嵌めようとしている自分に自己嫌悪したのだ。

 メイナードが広場で竜を待ち構えていた時に騎士達が寄ってこなかったのは、気づいていても無視する必要があったからだ。

 

 全てが、メイナードを嵌めるために動いていた。

 その裏を引いている領主は、魔法使いであるメイナードに殺されないために、顔どころか名前すら出さずに駒だけ用意している。

 個人がどれだけ強くても、倫理観を無視した社会の圧力に抗うのは難しい。

 

 ニコラが、全てに気づいたメイナードを見て、顔を伏せて去っていった。


 **


 騎士は、メイナードが今までの流れが脅しであったことに気づいたのを察していた。

 しかしあくまで善人であることと助けようとしていることを全面に押し出して、にこやかな様子を取り繕っている。


「ここがこれから過ごす君の部屋だ! この部屋はわざわざ外まで出なくてもトイレと風呂に入れるように個人用のものが用意してあるんだよ。当然、ベッドとリビングも別れているし、ウォークインクローゼットもある。不満があれば召使いが夜でも駆けつけてくれる」


 魔法使いの莫大な力を抑えるためには、多くの飴が必要だ。

 ただ腕っぷしが強いだけの個人ではなく、いざとなれば街すら壊せる存在だからだ。

 社会一つよりも大きな力を一個人が所有可能なこの世界では、魔法使いを働かせるために多くを提供するほかない。

 効果的に縛りあげたうえで、その縛りが苦にならないような報酬を与えなければ、動かすことはできない。

 だからこそ、脅しをかけられている今でさえ、メイナードの待遇は良い。

 

「どれくらい働けば良いんですか?」

「全部の借金を返し終わるのは予定だと五年もかからないよ。でもそれ以降も同じように報酬をあげることはできるし、わざわざ他の仕事を探す必要はないんじゃないかな?」

「それは僕が決めることだと思いますけど」


 メイナードはパーシバルがさり気なく借金という言い方をしたことに苛立ちを覚えた。

 さっきまでなら理不尽に感じこそすれど、この世界のルールと受け取れた。

 しかし今は違う。

 領主は教会からメイナードを奪うために、ここまでやったのだ。

 それなのに自分が悪いように言われるのは我慢ならなかった。


「少なくとも教会に満足な報酬を渡せるだけの備蓄はないよ」


 終始賑やかで、表情豊かだったパーシバルが突然顔をしかめて、冷たく言い放った。

 それから何もなかったように、にこやかな笑みを浮かべる。


「僕の父は教会の人間だから、敵対するような真似はしたくないんです」

「敵対なんてしないよ……相手から攻撃してこない限りはね」


 パーシバルは言外に、その可能性を感じさせた。

 本当に攻撃してこないなら、そんな風に言う必要さえないはずだった。

 メイナードが先程よりも豪華なソファの端っこに座り、つま先を床につける。

 どう動こうかと考えるが、選択肢は少なかった。

 カルラは人質に取られているし、領主はどこにいるかも分からなかった。

 諦めて、顔をあげる。

 パーシバルが清々しい笑みを浮かべて手を差し出しており――


 ――メイナードが握り返す前に、パーシバルの背後にあった扉が真っ二つに割り裂けた。

 

「中央教会宣教局のペルペトゥア・ボニージャだ。立て付けの悪い扉が邪魔だったもので排除させてもらった」


 身体の線に合わせられた修道服を着て、美しい銀髪をなびかせた女が、粉砕された扉の前に立っていた。

 片方の袖が捲りあげられていること以外は普通の服装の彼女だったが、持ち物は明らかに異常な事が伺えた。

 両腕に一本ずつ、斧を携えていたのだ。


 パーシバルはすぐさま、指笛を吹いて仲間を呼ぶ。

 帯剣していないから、腕を身体の前で構えつつ、部屋の脇にあった壺を掴む。

 疑問をぶつける前に応援を呼んだのは、パーシバルの職業意識の高さを伺わせた。


 しかし異常な女にそんな理屈は通用しない。

 斧を無造作に揺らしたまま、パーシバルの前まで歩いた。

 攻撃する前兆がなさすぎて、お互いの獲物が届く距離まで近づくことをパーシバルは許してしまった。

 女は攻撃しない。


「そこのメイナードを回収に来た」

「彼はいま犯罪者で、身柄は領主が預かる形になっている。たとえ教会からの使者であっても軽々しく、受け渡すことはできない」

「無理やりさらうと言えば、どうする?」

「あなたも捕まえることになるだろう。わたしが捕まえられなくても、もうじき仲間が来る」

「それは法的な意味合いで?」

「物理的にも」

「どちらにせよ、そういう真似はできないさ。これを見ろ」


 いつの間にか片方の斧を床に突き刺していた。

 空いた手で修道服から書類を数枚取り出して、テーブルに投げた。


「これはわたしの不逮捕特権の書類。わたしは宣教局に所属している間の全ての犯罪を教会によって裁かれる身だから、王から警察権を割譲された領主では逮捕できない。さらに物理的にわたしを抑えようとするなら、それは軍事権の行使になる」

「いざとなればそれも辞さない覚悟だ」

「それは領主の独断では判断できない。もし外敵を相手に戦争行為を行った場合、後日王へ報告する義務がある。判断材料のなかに宣教局所属のわたしの死が入っていれば、必ず教会は圧力をかけてくるぞ。偽装された戦争によって得た一時的な戦力のために、領主の地位を貶める覚悟はあるか?」


 女は淡々と全てを話した。

 その間に騎士達が続々と部屋の前へ集まったが、彼女の圧力とパーシバルの指示によって不用意な動きはなかった。


「あなたを抑えることは確かにできないようだ。だが、メイナードは違う。この子は正式に逮捕された身分であって、勝手に外へ連れ出すことはできないはずだ」

「メイナードも宣教局に入った(・・・・・・・)と言ったら?」


 パーシバルが目を見開いて、歯を食いしばった。

 それを一切無視して、女――ペルペトゥアはメイナードを見る。


「助けに来たぞ、メイナード」

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