魔女は何処へ
白雪姫は、そっと涙をぬぐい、言いました。
「ごめんなさい……ありがとう。話を、続けてくれる?」
ステラは、何も言わずに、うなづきました。そして、鏡に目配せをしました。
鏡には再び、この部屋の様子が映り始めます。
[……でも公務はしないとね……全くもう、あの子娘は……!]
魔女は、いなくなりました。
しばらくの間、しんとしていた部屋ですが、不意に、声が聞こえました。
[……今だわ]
それは、ステラのものでした。
[古き盟約を誓いし者よ、我の元へ戻りたまへ……]
ステラが白雪姫に教えられた呪文を唱えると、鏡の額縁が水色の光を帯び、その光が鏡の中に吸い込まれ、消えます。そして不意に、鏡から黄緑色の光が放たれ……
光が消えた時、そこにはステラの姿がありました。
[やったわ……!私、外に出られたのね!]
ステラは大喜び。鏡も祝福します。
[おめでとう、ステラ!私もステラが外に出られて本当に良かったよ!……で、ステラのことを閉じ込めた魔女のことは、どうするつもり?ずっとステラが出てこれたことを隠し続けることはできないよ?]
[もちろんよ。そうね、あの魔女には……すべての責任を取ってもらいますから]
ステラはにっこりと笑って言いました。
でも、もしかしたら、少しだけ怖く見えたかもしれませんね。
「……そうだわ!ずっと聞きたかったの。お母様は?お母様はどこにいるの?」
「白雪姫、今はこれを見ていて。きっとすぐにわかるから」
「……分かったわ」
鏡が映し出す場所が変わりました。
場所は、公務が行われる広間です。そこには机と椅子があり、そこで魔女は公務をしていました。
[魔法で一気に公務を終わらせてみようと何度思ったことか!……でも、今まで結局それをやったことはないわね。どうしてかしら……]
魔女がブツブツと呟きながら公務をしていましたが、途中で言いました。
[……ああ、もういい!魔法で公務を終わらせてしまいましょう!]
いつもはやらないようなことでしたが、魔女はよっぽど苛立っていたのでしょう、もう今日は何もしたくない気分なのでした。そこで、魔女は魔法をかけようとしましたが……
[汝と古き盟約を誓いし者よ、元いた場所へ戻りたまへ……]
不意に、呪文が聞こえてきました。そして、白いワンピースを着た女の人が近付いてきます。顔は、逆光でよく見えません。
魔女から濁った緑色のような色の光が放たれ、その光は白いワンピースの女の人が持つ、赤い玉の中へと消えていきます。
魔女は、自分の魔力がなくなっていくのを感じていました。そして、それをどうすることもできないまま、いきなりそこから立ち、叫びました。
[……誰なの⁉︎]
完全に濁った緑色の光が消えた時、ようやくその人の顔が見えました。
[……ステラ!]
[そうよ、私はステラ]
魔女はわなわなと震え出しました。
[お前は……どうしてここにいるんだ⁉︎]
[どうしてここにいるか?……封印を破っただけにすぎませんわ]
ステラは涼しい顔で言いました。
[そんなことが、出来るわけが……]
魔女は崩れ落ちるように、座り込みました。
[……今度は私の番ですよ]
ステラが、言いました。
たった一言。
それだけなのに、とても恐ろしく感じられました。
ステラは赤い玉を仕舞い、今度は水晶玉を取り出しました。そして、小さな声で何やらぶつぶつと、呪文を唱え始めたのです。
すると、水晶玉が白い光を放ち始め……
[……ステラ、やめて!]
[いいえ、やめませんわ。しばらく、水晶玉の中で反省していただきます。私を鏡に閉じ込めたこと、カレンや白雪姫を『現実世界』に飛ばしたこと……]
恐ろしくなってしまった魔女は、甲高い声で叫びました。しかし、誰もやってくる様子はありません。数少ない召使いたちは全員、食料の買い出しに出かけてしまっていたのです。
——白い光が消えた時には、魔女の姿はありませんでした。
ステラが、水晶玉の中に封印してしまったからです。
「お母様のこと……封印したの?」
「ええ……そうよ」
「……そうだったのね」
白雪姫は、しばらく黙っていましたが、言いました。
「その封印は、解けるものなのでしょう?」
「解こうと思えば出来るわ」
「水晶玉の封印だけを解くことも出来るでしょう?」
「ええ。出来るわよ」
「……なら、私が30歳になった時……封印を解いてほしいの。しばらくお互いに距離を置いた方がいいとは思うけど、私はまだ……お母様を、完全な悪い人だと思いたくないの。ただ、きっと……魔法の力を得たことで、欲が強くなってしまって、魔法でなんでも叶えようとしてしまっただけだと、思いたいの。だから、私がちゃんと大人になってから、お母様とお話ししたいの。その頃にはきっと、お母様も反省しているとは思うし、落ち着いて話してくれると思うから……お願い、ステラ」
ステラは少し考えて、うなづきました。
「分かったわ」
「ありがとう、ステラ」
今日はクリスマスイブですね!
今日は皆さん、どのように過ごしていらっしゃいますでしょうか?
明日はクリスマスです。
クリスマスに相応しい、ハッピーエンドにしようと思っておりますので、あと少しだけ、お待ちください!




