カレンの正体
白雪姫は、ちゅんちゅんとさえずる鳥の声で目が覚めました。白雪姫が身支度をしているとステラがやってきて、聞きました。
「おはよう、白雪姫。調子はどう?」
「おはよう、ステラ。調子はとてもいいわ。ぐっすり寝たら、疲れも取れたみたい」
「そう、よかったわ。身支度を終えたら一緒に朝ごはんにしましょう。そうね……鏡のいる部屋で」
「素敵!そうしましょう!ステラ、すぐに行くわ!」
白雪姫は元気に応え、身支度を整えました。
ステラは白雪姫の部屋を一足先に出て、鏡のいる部屋に行きました。鏡がステラに話しかけます。
「ステラ、本当に全てを話すつもり?」
「ええ。その方が、白雪姫にとってもいいでしょう」
「……カレンのことも?」
「……ええ」
一体2人——1人の魔法使いと1つの鏡は、何を語るつもりなのでしょう?
やがて、白雪姫が鏡とステラの前に現れました。自分とステラの分の朝ごはんを持って。
「ステラ、朝ごはん持ってくるの忘れたんですって?食堂のお手伝いさんが言っていたわよ」
そう言いながら、慣れた手つきで料理の乗った皿を並べていきます。
「あらあら、私としたことが。ありがとう、白雪姫」
「いいえ、いいのよ。さあ、食べましょう!」
白雪姫のその言葉を合図に、朝ごはんが始まりました。
「白雪姫、貴方が『現実世界』に行っていた時のことを話さないといけないわね。聞いてくれるかしら?」
「ええ」
白雪姫が答えると、鏡になにやらある光景が映し出されました。
「今、鏡さんが映しているのは……この部屋ね」
「そうよ。貴方が『現実世界』に行った時のこの部屋での様子。耳をすませてみて、その時の会話も聞こえるはずよ」
白雪姫はうなづき、耳を澄ませました。
[——あの子をこの世界に帰さないためには、お前があの世界に行って青りんごを食べさせるしかないね!とにかく赤いりんごは食べさせちゃいけないよ!]
[16年前の……時のようにですか?]
[そうだよ。あの時は上手くいったんだ、ヘマをするんじゃないよ。もし赤いりんごを食べそうになったら……そうだね、カレンの秘密でもバラしてやればいい。そうすればあの子はあの世界に残りたがるはずさ。分かったね?]
[はい。そして、私は赤いりんごを食べればよいのですね?]
[そうだ。これからお前をあの世界に飛ばすよ]
[準備は出来ております]
鏡の中の魔女は手下に魔法をかけ、次の瞬間、手下の姿は消えていました。
[……全く、カレンも白雪姫も!親子で私の邪魔をしてきやがって……!]
「……ちょっと待って!」
白雪姫が大声をあげ、
「どうしたの?」
ステラが問いかけます。
「……16年前の時のようにって……カレンが『現実世界』に来てしまったのも、確か16年前で……しかも、カレンの秘密って……なんなの?それに……」
白雪姫は、声を震わせながら言いました。最後の方は、言葉になりませんでした。
ステラは静かに告げました。
「……昔の話になるけど……いいかしら?
……鏡が教えてくれたのだけれど、あの魔女は昔から世界一美しいのが自分でないと気が済まなかったそうなの。でも、ある時から世界一美しいのはカレンだと言われるようになり……いつしかカレンを殺そうと思うようになっていたみたいで……」
ステラは静かに語ります。
「けれどカレンはクラニウム王国の女王様、簡単に会える人ではない。だから、カレンを殺したい、その一心でこのお城にやって来た。そして、召使いとしてここに紛れ込み、毒りんごを食べさせようとして……今回と同じ失敗——材料間違いを犯したのね。それでカレンは『現実世界』に飛ばされてしまったようなの。
それで、あの魔女は手下を『現実世界』に送り込んで、帰る邪魔をさせたの。
例えば、言葉を通じさせるペンダントを壊したり。まあ、カレンはあの世界の言葉を多少は知っていたから不自由はなかったようだったらしいけど……。
他にも、二度とこの世界に帰れなくなる呪いをかけた青りんごを食べさせたり。カレンはそれを食べてしまったがために、この世界に戻れなくなってしまったの……」
「じゃあ……翻訳家の見習いで、行き来の方法がうろ覚えだったから帰れなかったんじゃなくて……お母様のせいで?」
「そうよ」
「どうして、そんな嘘を……」
「そう嘘をついたのは……カレンはこの国、クラニウム王国の、女王さま——貴方の本当のお母様だったからよ」
白雪姫は、ステラの言葉が信じられません。
「……そんな!カレンはそんな事、1つも教えてくれなかったわ……!」
「教えたらきっと、貴方が『おとぎの国』に帰れなくなると思ったからでしょうね。もしそれをあの世界で告げられていたら……それでも貴方は、この世界に帰って来た?」
白雪姫はしばし考え、首を振りました。
「多分……残っていたわ。ずっと会いたかった人で……出来るなら、これからもずっと一緒にいたい人だもの」
「そうよね。だけどカレンは……カレンも、ずっと一緒にいたいのは、貴方と同じはず。だけど、二度と『おとぎの国』に帰れない身としては——ずっと『現実世界』で暮らすことが大変で、二度と『おとぎの国』に帰れないことがどれだけ辛いことなのかが分かっている身としては、貴方のことを『おとぎの国』に帰したいと思うのがきっと自然よ。だって、貴方はカレンにとって……大切な人だから」
その言葉を聞いて、白雪姫は、ぽろぽろと涙を流し、呟きました。
「カレン——お母様、ありがとう」




