表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

掻き消された言葉

〔みんな遅いよ!あれ?その子は誰?〕

〔しらゆきひめだよ。『おとぎの国』から来たから、帰るお手伝いをしてたの!〕

〔そうだったんだね〕

〔なら遅れても仕方ないか〕

現実世界の人たちがそんな会話をしている中、白雪姫は部屋を見渡します。


『音楽室』は、少し広い部屋でした。

そこには扉が3つ、奥に見えます。奥には黒くて大きなものが置いてあって、手前の壁には、左側に五線譜が書かれた黒板があります。そこに、沢山の人が集まっていたのです。沢山の楽器と共に。

と、不意にチョークが動きました。そして、黒板に文字を綴っていきます。

「最後の試練:旅立ち→宝箱を探し、鍵で開けよ」


「最後の試練だって!宝箱を探して、さっきの鍵で開ければいいんだわ」

白雪姫が言いました。すると、現実世界の人たちは口々に話し出します。

〔宝箱?〕

〔どこにあるのかな?〕

音楽室を見渡す限りだと、それらしきものは見つかりません。

白雪姫は尋ねました。

「……みんなは、宝箱がどこにありそうか分かったりする?ほら、私はここのことを全く知らないから……」

〔うーん……〕

〔あるとしたらあの小部屋の中かなぁ〕

現実世界の人たちによると、奥にある3つの扉の奥には小さな部屋——小部屋があって、そこならば隠し場所がたくさんありそうだと言うのです。

「なら小部屋の中を探しましょう!」

〔そうだね!〕

そこで、白雪姫たちは小部屋の中を探すことになったのです。


〔1番左の扉は、今鍵がかかっていて開かないから、真ん中から探そうか。ものがたくさんあって大人数は入れないから、しらゆきひめとカレンが入って探してみてよ。私たちは、小部屋以外でありそうな隠し場所を考えたり、左の部屋の鍵を開けたりするから〕

「分かったわ」

白雪姫がうなづくと、カレンが言いました。

「少し狭いから、気をつけて入るのよ」

「うん、ありがとう」

白雪姫は真ん中の扉を開け、そっと中に入ります。その後にカレンが続きました。


「たしかに少し狭いわね……」

そんなことを言いながら、2人は部屋の中を頑張って探しますが、それらしきものは見つかりません。

「……無いわ……」

「そうね。一回外に出ましょうか。隣の部屋を探しましょう」

「そうね、そうしましょう」

そして、2人は音楽室に戻るのでした。


〔ねえ!左の部屋の鍵を取って来たけど、どうする?どっちの部屋を探す?〕

花梨に白雪姫は話しかけられました。

「うーん……カレンは、どっちがいいと思う?」

〔……右がいいわ〕

思いがけず、力強い口調で返されました。

〔えー?左にすれば?〕

不意にそう言ったのは、智也です。

白雪姫は一瞬迷いました。

でも白雪姫は、カレンとの約束を思い出しました。

(彼になんと言われても、無視する。試練を乗り越えて手に入れたものは、渡さない)

白雪姫はにっこり笑って言いました。

「私、右の部屋を探すわ」


〔じゃあ、僕が左の部屋を探してくるね〕

智也はそう口にします。

白雪姫とカレンは、右の部屋に入りました。

こちらの部屋には棚があり、そこに沢山の物が収められています。ぱっと見では、この部屋の中にも宝箱は見当たらなさそうです。

「棚の中とか、下とかを探してみましょう。陰になっていて見えなかったりするかもしれないでしょう」

「そうね」

棚には扉は付いていません。棚の中には宝箱はなさそうでした。

もしかしたら、ここには無いのかも……と思いつつ、白雪姫は、棚の下を覗き込みます。

そして、息を呑みました。

「……カレン、あったわ!宝箱よ!」

喜びのあまり、そう叫ぶ白雪姫の手には、たしかに赤い宝箱がありました。

「やったわね、白雪姫!」

カレンもとても嬉しそうです。

一旦宝箱を持って音楽室に戻ると、白雪姫の声が聞こえたのでしょう、現実世界の人たちが嬉しそうにしていました。

〔宝箱が見つかったんでしょう?〕

〔やったね、しらゆきひめ!〕

そう言って、白雪姫やカレンと一緒に喜んでくれたのです。


〔白雪姫、こっちにも宝箱があったよ〕

不意にそう言ったのは、智也でした。

智也は緑色の宝箱を持っています。

「ありがとう。でも先にこっちを開けるわ」

白雪姫はそう言って、鍵を取り出し、赤い宝箱を開けました。

(あの子の言葉は、無視をする)

そう自分に言い聞かせながら。

宝箱の中には、1枚の紙と真っ赤なりんごが入っていました。そして、紙にはこう書かれていました。

「おめでとう、白雪姫

このりんごを食べれば元の世界に帰れるだろう」


白雪姫は赤いりんごを手に取ります。

「このりんごを食べれば『おとぎのくに』に帰れるんですって!『げんじつせかい』の皆さん、カレン、今までありがとう!」

白雪姫は、別れを告げます。

〔『おとぎの国』でも元気でね!〕

〔またね!〕

現実世界の人たちがそう別れを告げたにも関わらず……


〔こっちにも、りんごが入っているよ。ほら、青りんごが〕

智也がそう言って、宝箱を見せます。

たしかにその中には、美味しそうな青りんごがありました。

(あの子の言うことは、聞いてはいけない)

白雪姫は、そう自分に言い聞かせました。

(この赤いりんごを食べれば、『おとぎの国』に帰れるのよ。迷ってはいけないわ)

白雪姫が赤いりんごに齧り付こうとした、その時。


〔……いいの?白雪姫〕

その智也の言葉には、なぜか白雪姫の行動を止めるだけの力がありました。

〔あのね、いいことを教えてあげようか〕

白雪姫は、必死に無視しようとしますが、体が固まって言うことを聞いてくれません。


〔みんな!楽器を吹いて!この智也は偽物なの!言葉で白雪姫を誘惑して帰るのを邪魔しているの。だから、お願い!みんな手伝って!〕

カレンが突然、叫びました。

現実世界の人たちは、騒めきました。何事かと囁く声が空間に満ち溢れます。


不意に、低くて大きな音が聞こえて来ました。

誰かが楽器を吹き始めたのです。

白雪姫はその音を聞いて、はっと我に帰りました。体が自由に動きます。

低い音につられるようにして、音が増えていきます。音が増えると、智也の声は聞こえなくなっていきました。

「さあ、今のうちよ。早くりんごを食べて、元の世界に帰りなさい」

カレンが白雪姫の耳元で言いました。

「ありがとう、カレン」

白雪姫はにっこり微笑んで……


赤いりんごを一口、齧ったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ