カレンの過去
「……これ、なんて読むのかしら……?」
白雪姫はつぶやきました。
『音楽室』という言葉は現実世界の言葉で、白雪姫は読むことができなかったのです。
〔どれ?見せてごらんよ!〕
風香が言うので、白雪姫はみんなにそのカードを見せました。
〔……『音楽室』だね!〕
〔あっ!『音楽室』って聞いて思い出したけど、私達も『音楽室』に行かなきゃいけないじゃない!〕
〔そうだよ、そうだよ!みんなが待ってる!〕
急に現実世界の人たちが騒ぎ出しましたが、白雪姫はそんなのはそっちのけで尋ねました。
「ねぇ、『お、んが、くしつ』って、なんなの?何をするところなの?」
〔『音楽室』はね、音楽の勉強をするところだよ!あとは……『吹奏楽部』が活動に使っているかな〕
「えっ?『す、いそう、が、くぶ』?それは、なんなの?」
〔『吹奏楽部』はね、いろんな種類の楽器を使って演奏する、学校の中にある団体だよ。私達も『吹奏楽部』なんだ〕
〔だから私達も少し、『音楽室』に用事があるから、一緒に行こう!〕
「うん!みんなありがとう!」
「……ところでカレン、」
音楽室に向かう現実世界の人たちの後ろを歩きながら、白雪姫は話しかけます。
「なあに?白雪姫」
「カレンは……翻訳家なの?」
少しカレンは考えて、答えました。
「そうよ、私は翻訳家——いいえ、正確に言うと、翻訳家の見習いなのかしら」
「見習い?」
「そうよ。16年前の私は、翻訳家の見習いだった。私は、言葉を翻訳する人としてはもう十分な実力があると認められていたの。でもね、おとぎの国と現実世界を行き来する方法は、うろ覚えだった。そんなうろ覚えの状態でここにきてしまって……帰れなくなってしまったのよ。だから私は、ずっとここにいるの……」
「そうだったのね……」
「そんな私の言葉を——おとぎの国から来たけど帰れなくなったと言う言葉を信じてくれたのが、16年前の『吹奏楽部』の人たちだった。『吹奏楽部』の『顧問』——まあ、面倒を見てる大人と言えばいいかしら、『顧問』の人がね、私のことを家に泊めてくれているの。しかもそれがね、16年もの間、ずっと続いているの——一度『顧問』が変わるってことで住む場所も変わったけどね。でも、みんな優しい人たちだから、とても感謝しているわ」
「そうなのね……」
2人がお互いに無言になった時、花梨が声をあげました。
〔しらゆきひめ、ここが『音楽室』だよ!〕
〔さ、入ろう!〕
風香が言い、音楽室の扉を押します。
扉はキィ……と軋んだ音をたてながら開きました。




