疑惑
〔白雪姫、みんな、あったわよ!〕
カレンの声が昇降口に響きました。
みんな、カレンに駆け寄ります。
「これの中よ」
カレンは白雪姫に紙袋を差し出しました。白雪姫がその中を覗き込むと……そこには1つの鍵と1枚の紙が。
「あ……これだわ、きっと……!
……この紙は何かしら?」
白雪姫が紙袋の中にある紙を取り出すと、白紙だったその紙に、黒い文字が浮かび上がりました。そしてそこにはおとぎの国の言葉で一言、「御名答」と書かれていたのです。
「やった……!カレン、ありがとう!」
「いいのよ、白雪姫」
〔鍵があったんだね!どこにあったの?〕
〔ここの……掲示板の木枠に刺さった釘にかかっていたわよ〕
〔……すごいね、カレン!〕
〔掲示板にあるなんて思わなかった!〕
みんながカレンに言葉をかけました。
と、その時。
〔どうしたの、みんな?……なんかすごく騒がしいけど〕
昇降口の、外からの入り口から1人の男の子が入ってきました。
〔いまね、しらゆきひめのお手伝いをしているの〕
〔……というか、今日休むんじゃなかったの?〕
〔……ああ、なんとか来れることになったんだ〕
現実世界の人たちのこの会話を、白雪姫は理解できなかったようで、首を傾げています。
「この子は……誰?」
〔紹介するね。この子は智也〕
〔あ……はじめまして。智也です〕
「と、もや……くん?私は白雪姫。よろしくね」
〔あ……よろしく、しらゆきひめ。で……しらゆきひめを手伝っているってどういうこと?〕
〔ああ、それはね……〕
花梨が大雑把に白雪姫のことを手伝うことになった経緯を話しました。
〔なるほどね。その紙は何?〕
智也が白雪姫が持っている紙を指差して訊きました。
「これ?御名答って書かれた紙よ……あら?裏に何か書かれているわね」
御名答と書かれた面を智也に見せたので、裏面が見えたのです。しかし、智也は質問しておきながら、あまり話を聞いていません。
〔——この字、かっこいいなぁ。読めたらいいのに……あ、そのペンダント、貸してよ!貸してもらえたら読めるかもしれない〕
「たしかにね。それなら……」
貸してあげる、と言って智也に近付こうとしたところで、白雪姫はカレンに腕を引かれました。
「白雪姫、だめよ」
小声で、でも聞いたこともないほど真剣な声で、カレンは忠告します。
白雪姫は、これは他の人に聞かれたらよくないと思い、ブレスレットを外してポケットに入れます。そして、小声で話しかけます。
「どうして、カレン?」
「よく考えてみて。どうしてあの子はこのペンダントが現実世界とおとぎの国の言葉を通じるようにするものだと知ったのかしら?誰もそんなことを彼に言っていないのに」
「あっ……!」
白雪姫ははっとしました。
そう、誰もペンダントの力のことを彼に言っていません。彼がペンダントの力のことを知っているわけがないのです。
「きっと、彼は偽物よ。白雪姫がおとぎの国に帰れないように邪魔をしに来ているんだわ……だから白雪姫、覚えていて。もしあの子になんと言われようと、無視して欲しいの。そして試練を乗り越えて手に入れたものは——ペンダントとか、この鍵とかは、決してあの子に渡してはいけないわ。分かった?」
「……分かったわ、カレン」
カレンはうなづきました。
「さあ白雪姫、もうペンダントをかけてもいいわよ」
白雪姫は「分かったわ」とだけ言って、ペンダントを首にかけました。
〔ところでしらゆきひめ、その紙の裏にはなんて書いてあるの?〕
「ああ、そうだね。忘れていたよ」
風香に言われ、白雪姫は「御名答」と書かれた紙の裏に書かれた文を読みました。
「試練その3:探検→『音楽室』へ行け」




