第九十五話 唐突
酒宴の次の日、政景さんは無事目を覚ました。起き上がろうとするのを綾さんと輝政が支える。
「政景様、何処か痛むところはありますか?」
「いや···少し体が重く感じるがそれだけだ。皆心配を掛けてすまなかったな」
「そうですか···良かった···本当に良かった···今医者をお呼び致しますね」
そう言って涙を拭い、綾さんは一度出ていく。寝落ちしてしまった二人の子も起こしてくるだろう。
政景さんにこれまでの状況を説明する。その間に絶が綾さんの代わりに看病を行う。
「そうであったか···確かに体に衝撃があって、気付いたときにはこれよ。それにしても景亮、助けてくれたこと感謝するぞ」
「いえ、周りの人達が手伝ってくれたおかげです。それよりすみません。曲者は見つけたのですが···」
「構わんよ。越後の者でないのならな···であろう? 輝政よ」
「はい義兄上様」
政景さんの問いかけに輝政は微笑んで答える。
「しかし、皆には申し訳のないことをした···折角の酒宴も台無しになってしまったな」
「そんなこと。またいつでもできますから、今は体を休めてください」
輝政は絶と二人で背中を支え政景さんを寝かせる。その時、
「お父様!」
「父上!」
部屋の外から卯松君と華ちゃんが入ってきて政景さんの顔を覗きこむ。
「おぉ二人共、心配かけたな···」
遅れて綾さんと医者がやってくる。医者は直ぐ様政景さんの診察を行う。
「···ふむ。これでしたら大丈夫でしょう。後は体の重さが抜けるまでゆっくり休めば完治となるでしょうからゆっくりお休み下され」
そう言うとでは、と頭を下げて部屋を出ていった。
それからは子供達と遊びつつ、政景さん綾さんと談笑タイム。ゆっくりとした一時を過ごした。
さて、政景さんは眠り、子供達は綾さんの元で勉学に励み、絶と輝政が部屋で休んでいる間に俺は松尾衆を伴って事故現場の池へと再度向かった。
既に宴の席は片付き、池岸には転覆した船だけが置かれている。
「段蔵、詳しいことは分かったか?」
「それが···曲者は自らの身分を示す物を所持しておらず、家紋などもつけておりませんでした。池に潜っていたことから忍、もしくはそれに近しいことのできる者であるとは確信できますが···」
「周到だな···」
「えぇ。あの時越後の者ではないと言いましたが、どこぞの誰かが隠していたか、手引きをしていたとしてもそれを証明する方法はありませぬ」
段蔵は少なくとも上杉に正規で使われている者の顔は覚えている。その段蔵が見たことないと言っているのだ。
「これは手詰まりだな···んじゃ戻ろうか」
これ以上調べてもなにもでないだろう。俺は諦めて坂戸へと戻った。
戻った俺を待っていたのは、綾さんと輝政、絶の三人だった。どうやら勉強は一段落ついたようだ。
「おや、景亮。戻ってきたのですね···丁度いい。今二人にも伝えるところでした。貴方達も夫婦。たまには立場を忘れ遠出するのもいいでしょう。春日山には私が使いを出しておきます。水入らずで湯巡りでもしてきなさいな」
「「は?」」
「そうですね···言い訳ついでに越中まで足を伸ばしなさい。もちろん神保殿の元へ行ってはなりませんよ?」
「あ、義姉上様、突然何を···」
綾さんの笑顔は俺たちの反論を許さなかった。
というわけで何故か急に旅に出ることになりました。




