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第九十四話 昔の知識は役に立つ

 

 政景さんの乗っていた船が転覆し、直ぐ様救助が行われた。他にも乗っていた人はいたが、気を失っているのは政景さんだけのようだ。


 しかし、誰もが政景さんの体を揺らし心配そうに見つめるだけで、動こうとしない。いや何とかする方法が分からないのか···!?


「全員ちょっと退いて!!」


 俺は直ぐ様周囲に並んでいた人達を押し退けて政景さんに近付き、その横に座る。そして意識がないこと、呼吸していないことを確認する。


 その間も後ろに並ぶ人達は動かない。


「何をぼさっとしてる! 早く医者を呼べ! それからあるだけの布か布団、一台の荷車を持ってきて!なければ槍を二つ持ってきて!」


 俺が叫ぶとようやく全員が動き出した。


「綾さん! 俺の言った通りのことをして!」


「わ、分かりました!」


「まず政景さんの鼻をつまんで顎を上に持ち上げて!」


 綾さんは俺の言った通りのことを手を震わせながらもしっかり行う。


「俺がこれから心臓マッサージをするから、それを俺がやめたら政景さんに接吻して口の中に息を吹き込んで!」


 俺は政景さんに馬乗りになり、胸骨圧迫を行う。おぼろげな記憶を無理やり引っ張り出す。


 俺がやめると、俺の指示通り綾さんが人工呼吸を行う。


「一回じゃない、もう一回やって!」


「はっ、はい!」


 それを何回も行う。その間に布と荷車が到着する。良かった···槍と布、毛布で仮の担架を作るよりは簡単に運べるし時短になる。


 六回目の心臓マッサージの時、


「ーーっ! ごほっ! ごほっ!」


 政景さんが咳き込み口から水が漏れる。


「来たっ!」

「政景様(義兄上様)!」


 俺は直ぐ様布と布団を政景さんに被せる。体を冷やさないためと思ったが、これが正しいのかはわからないが、やらないよりはましだろう。


「んじゃ荷車に移すぞ! 男三人手伝って!」


 荷車に布団を敷き、その上に政景さんを移動させる。


「今はまず城へ戻るぞ! 誰か先に行って布団を用意しておいて!」


「は、はっ!」


 俺の言葉を聞いた誰かが馬を使って坂戸城へと先に向かう。


 それから力自慢の男達で荷車を引く。舗装されていない道はガタガタな場所もあるが政景さんを落とさぬように、でも急いで城へと戻った。


 無事坂戸城に着くと、下に敷いた布を六人で持ち上げて寝室へと移動する。


 一方の綾さん、輝政、絶を中心とした女性陣で看病の支度を行う。


 その頃には医者も到着し、俺の役目は終わった。後は医者に任せておけば充分だろう。俺は全員が政景さんの周りにいるなか、一人別の部屋に向かう。


「段蔵」


「はっ、ここに」


「お前の糸には何か引っ掛かったか?」


「···一人。越後の者ではありませんでした。されど何処の者かは知れませぬ。既に喋る口もなし」


「そうか···何処にいた?」


 北条、武田のどちらかか? いや今はいい。


「池の中に。所で(あれ)は如何致しますかな?」


「それもお前に任せる。船も見ておいてくれ···俺は政景さんの元に向かうからそっちは頼んだぞ」


「分かり申した」


 池へと戻る段蔵と別れて政景さんの元へ戻る。


 部屋の戸を開けると医者の診察が丁度終わったところだった。


「では私めはこれにて···」


 医者が仕事道具を持って部屋を出るのと交代に座る。すれ違い様に笑顔で会釈された。


「それで政景さんの様態は?」


「えぇ···命に問題はないようです。まだ目覚めていませんが、今は体を冷やさぬようにと」


「どうやら景亮の処置のおかげだそうだ。医者も驚いていたぞ?」


「そっか···」


 とりあえず一安心か···。後は段蔵達の情報しだいだな。


 それから数時間後、段蔵達が戻ってきた。


 結果としては、やはり上杉に属している奴ではないことは分かったが、何処の奴かは分からなかったようだ。



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