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第九十話 対面

さて、とうとう主人公同士が初顔合わせです! ブックマーク感想指摘お待ちしております!

 

「輝政様御出座!」


 定満さんの声を合図に部屋に入って上座に座る。すでに下座と呼ばれる場所には二人、俺より少し年上の男性と中年のおじさんが座っていた。一方こっちは上杉四天王と噂される"宇佐美定満""直江景綱""甘糟景持""柿崎景家"の四人が二つに別れて控えてくれている。


 俺が座るのを確認すると、中年おじさんが演劇のようにわざとらしく大袈裟に頭を下げる。


「御初に御目にかかります。織田家臣細川与一郎藤孝に御座います」


「同じく、須藤惣兵衛元直に御座います」


 二人の名乗りに答えるため、俺は教えられた通りの台詞を言う。


「良くぞ参った細川兵部大輔殿。私が越後国主上杉輝政です」


 俺の名乗りを聞くと、二人は頭を上げる。そして、細川さんが唐突に喋り始めた。


「いやはや、しかしながら···」


 細川さんは整った髭を撫でる。


「岐阜よりここまでは遠く、険しい道で御座いますなぁ·····某、馬に揺られ過ぎて身体のあちこちが痛うて痛うて仕方が御座いませぬ」


 ···なんだろう。すっげぇ怪しい。全てがわざとらしく思えてくる。何ともやりにくい。と、とりあえず何か反応しなきゃ!


「そ、そうか。···長旅、苦労でありましたな」


 すみません···これが精一杯です···!


「いやいや、能登は自然に富み、美しき風景が多数ありました故、身体は兎も角、心は非常に健やかでありますよ」


 俺が心の中で輝政に謝っている間も細川さんのしゃべりは止まらない。


「それにこれ程までに峻厳な山や、環境、地形故に、越後の屈強で精強な兵が生まれるのかと思うと、”弱兵”と言われることが多い尾張やそれよりも更に”弱兵”と侮られる旧幕府軍は近くの山にでも籠って修験道が如く心身を鍛えるべきだと思いまするよ。いや、某はやりとう御座いませぬが。……某は茶を立て、花を愛でる方が己に似合うと思っております故」


「…………して、要件は」


 細川さんの喋りに圧倒された俺は無理やり話を戻す。こんなんいつまでも付き合ってられんわ!


「おっと、そうでした。ついつい愚痴を漏らしてしまうのは拙者の悪い癖ですな。……和睦を、結びたく」


 おぉ、とうとう来たか···俺は定満さんに選手交替する。定満さんの方を向くと、定満さんは頷いて口を開く。


「和睦ですと?」


「はい。織田は現在毛利と戦をしておりますが、そちらに集中したいのですよ」


 稀代の策士"毛利元就"の家系を中心とした毛利軍と軍神率いる上杉軍。両方を相手にするには流石の織田も骨が折れるのだろうか。ここで和睦とは···この前の戦いはなんだったのか。


「で、ありましょうな」


 細川さんの言葉に頷きはしたものの、定満さんたちもどこか納得していない顔をしている。


 そして須藤さんが畳み掛けてくる。


「それに、上杉とて織田にばかり眼を向けている訳にもいかぬと思いますが」


「···どういうことですかな?」


「伊達に北条、武田。上杉には外敵が多いでしょう? それに家中にも火種はあると思われますが?」


 成る程···確かにその通りではある。ちょっと小耳にはさんだが、どうやら伊達や蘆名が妙な動きをしてるらしい。···ってん? もしかしてこいつら···伊達と蘆名に動くよう仕向けやがったか?


 須藤さんの嫌らしい質問に、定満さんは胸を張って答える。


「現在、武田は先の敗戦により動くことは出来ず、北条、伊達に対しては備えてありますれば、心配はご無用。また、家中は輝政様の元一丸となっております。そちらの方こそ烏合の衆を纏めるのは大変でございましょう?」


 正反対の性格のおっさん二人がやりあう。


「おっと、これは痛い所を突かれましたな、ハッハッハ! さて、ならば此方も次の手に参りましょうか。···此方を」


 細川さんは懐から白い封筒を取り出し、床に置く。景綱さんがそれを拾う。


「これは···書状ですな。近衛殿から···ですか。開けても?」


 前久さんからの書状!?


「えぇ、勿論。妹の絶殿に宛てた文も御座いますればそちらは後でお渡しくだされ」


 許可を貰い、最初に景綱さんが読む。


「では……成る程。恩人である織田と戦をして欲しくはない。軍を退いて欲しい……ですか」


 手紙の中身を要約して全員に伝わるように声に出してくれる。


「ほぉ、その様な事が! 遠き地に嫁いだ妹と、その家の身を案じ、それと同時に恩ある家のことも考える···なんとも、なんとも美しいではないですか!」


「……そうですな。近衛殿はお優しい方ですから。しかし、そちらと近衛殿はどのような縁で? 確か本願寺にいるはずですが?」


 細川さんが大袈裟に反応するのを定満さんが冷静に切り返す。実際前久さんが本願寺にいることは掴んでいたし、本願寺が織田よりだったのも知っている。あくまでそれの確認として聞いたのだろう。


「本願寺も今は織田の勢力下。本願寺が勢力下に入った際、間に入ったのが近衛殿でしたのでな。加えて、公家や朝廷との取りつぎにも協力して頂いておりますよ」


「そうですか···」


「···では、返答を頂きたく」


 須藤さんが催促してくる。


「こちらとしてもその和睦受けることはやぶさかではないが、条件を付けさせて貰いたい」


「えぇ、それは当然でしょうからな。聞きましょう」


「まず能登、越中、越後そして北信濃への侵攻はしないこと。そしてもう一つ。近衛殿との書状のやりとりをやらせていただきたい」


「ふむ。妥当でしょうな。しかしながら、書状のやり取りは危険ですな。織田の情報を掴まれてしまいましょうし、その際は一度“軍監衆”を通し、内容を調べさせて頂きますが、宜しいか?」


「かまいませぬ。輝政様と妹君が家族である近衛殿に近況を伝えるだけの手紙で御座いますからな。しかし兄妹の手紙のやりとりまで内容を調べるとは、軍監とは警戒深い方々なのですな」


 皮肉ともとれる言い方で定満さんが言い返すので、さすがにとそれを諌める。


「やめろ定満……申し訳ないお二方。手紙に関してはどうぞお調べくだされ」


 「忝なく。……では、その条件で」


「えぇ、問題ありません。さて、お二方とも今日はお疲れでしょう。質素ながら食事と寝泊まりする部屋を設けさせていただきました。宜しければ今日一日ここでお寛ぎ下され」


「おぉ、それは有難い」


「いやぁ、こういった場はえらく緊張致しますし、拙者もくたくたですからなぁ。有難く、休ませて頂きまする」


 織田軍の使者二人の余裕そうな顔は一切変わることなく、和睦の話し合いは終わった。

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