幕間 段蔵と弟子の一幕
というわけで幕間です! こんな感じでよかったのかなーと思いながら書きました。気に入ってくれたら嬉しいです!
京からの帰宅後 越後 月夜視点
私と弥彦の二人は、伏嗅の養成所から現在の師である加藤段蔵に引き抜かれました。
御師匠様は鳶加藤の異名を持ち、忍びの術だけでなく妖術や忍び道具など多岐にわたる術で主である松尾景亮様を支えてこられました。
御師匠様は政虎様の元に来たとき、その怪しさから一度雇うことを遠慮されたという。それからしばらくした後、突如現れ政虎様のお側付きとなった景亮様が引き留め、配下にしてくださったそうだ。
それから川中島、越中、小田原など景亮様に付き従い戦場に行っては景亮様の策の元多くの攻を上げ、いつしか周囲からも認められるようになっていったという。
そして、伏嗅の養成所から私達を引き抜き、自らの技をお教えくださっている。
御師匠様は自らが動けなくなった後も御師匠様と同じ役目を果たせる者を育てたいのでしょう。
御師匠様は常々私達にこう教授されます。
「弥彦、そなたは我が主の策を果たすための術を。月夜、そなたは我が主を守護する術を継がせる。拙者の後を継いだときは二人で我が主の手足となれ。主の矛に、盾になれ。主のために命を捨てる覚悟を持て。そして、主のために生き延びよ」
それこそ主が、そして拙者の願いよと笑う。
普通であれば、主に命を捧げよ。そう教育される。当然養成所でもそうでした。
ところが御師匠と主様は違う。命あっての物種が二人の共通する思いなのでしょう。
実際に主様と初めてお逢いし、その優しい瞳、海の様に広く深い器に触れ、この方こそ我が真に使えるべき主であると確信した。これは弥彦も同様だと思います。
今日もまた、我らが主のため、御師匠様の元で術を磨くのです。
------------------------------------------
越後 松尾景亮屋敷 段蔵視点
今日もまた、弟子二人に術を教える。まるで水に浸けた布のように教えたことを吸収していく二人を見るのは最近の楽しみでもあった。
しかし、あまりに主のことを有ること無いこと話したせいか、二人の主に対する忠誠心というか敬愛の念は、もはや神聖視の域に達しているように見える。
まぁ···よいか! 何も問題はあるまいし。
さて、今日の鍛練は実戦組手。拙者が二人と実際に組み合い、制限や制約なしで仕合う。ただし、武具に関しては木製の模造品を使用する。
「では、始めるとするか···準備はよいな?」
「「はいっ! よろしくお願いします!」」
それぞれ構える二人。
「うむ···では、始めっ!」
開始の声と同時に二人は駆け出す。前後に列び走ってくる。前に弥彦がいて月夜を隠すように動く。
まずは弥助の太刀を受ける。流石に若い弥彦には力で押されるが、受け流して後ろに跳ぶ。
すると弥助の後ろから、月夜が背中を蹴って跳んでくる。しかもその後ろから再び弥助が走ってくる。
「かっかっか! いいぞその調子だ! ···だが」
月夜の太刀を受け流し、その腹を蹴り、弥彦の方に飛ばす。
「ぐっ···っ!」
「うおっ!?」
弥彦は横に避け、月夜は受け身をとり仕切り直す。
「ほぉれ、これで終わりか?」
「冗談を!」
弥彦は直ぐ様こちらに向かってくるので打ち合う。
「ただ向かってくるだけでは芸がないぞ?」
「分かっています···よっ!」
弥助が体を捻ると空いたところから小刀が現れた!
「月夜か!」
小刀を叩き落としながら後ろに下がる。小刀に対応していると死角から弥彦が再び攻撃を仕掛けてくる。
「かっかっか! よいよい、そのまま攻めよ!」
「くっ···余裕綽々で!」
挑発するように軽やかに弥彦の連撃の悉くを避けていく。
「弥彦、避けなさい!」
再び弥彦の後ろから今度は縄が結びつけられた小刀が飛んでくる。
「むうっ!?」
縄は拙者の体に巻き付き、上半身が動かなくなる。
「これで私達の勝利···ですね?」
「よっしゃ!」
勝ちを確信した二人は近づいてくる。しかし···
「あまりに単調。あまりに遊びのない」
袖から隠し刀を滑らせ縄を切り、弥彦の木刀を奪う。
「あっ!」
そして弥彦の顔を踏み台に、月夜の元に跳ぶ。
「ぐえっ!」
月夜はすぐに構えの姿勢をとる。
「遊ぶとはふざけることではない···余裕を持ち、心の中を悟られることなく、時に苛烈に時に飄々と敵を鎮める。時に表に現れ、時に闇に紛れ。それがこの鳶加藤の忍びの道」
上から攻撃し、月夜の背後に着地。振り向き様に月夜の脇腹を掴む。
「ひゃぁあん!?」
くすぐったかったのか、月夜は体を震わせ武器を落とした。
「かっかっか! 月夜のくせして随分可愛らしい声を出すの~」
「お、お、お、御師匠様ぁ~~?」
「おぉ、怒った怒った!」
それからは型も遠慮もなにもない月夜と弥彦の攻撃をぬらりくらりと交わしていく。
「お? 今日も鍛練···じゃないな。何やってんだ?」
屋敷の中から我らが主、松尾景亮様が顔を出した。怒っていた月夜も姿勢を正し頭を下げる。大殿の御夫君となられた今も、この屋敷に寝泊まりしているどころか、大殿が夜に入り浸るようになった。夜の営みも···ふっ、若いというのはいいものですなぁ。
「いやいや鍛練にございます。これが拙者の教え方なのです」
「···一回も地面につかずに町の中で師匠を追いかけたり、町の中を歩いたり隠れて人に声を掛けられたら素振り五十回とか、日々過ごしている内で御師匠様に後ろを取られたら小突かれるとかがですか?」
弥彦が口を尖らせる。
「へぇ~何だか楽しそうじゃん」
「普通の鍛練もしておりますし、この遊戯の様なものも鍛練の内。これでいつのまにかこの段蔵のように、あらゆることが出来る優秀な忍びになれるのです!」
常日頃気に掛けることで、それは経験となり周囲を隈無く見る余裕が生まれる。
「あっ、そう···まぁ、段蔵に任せるよ」
「主、今日のご予定は?」
「商人と会って、伏嗅の持ってきた情報を政虎と一緒に整理するって感じかな? 畿内への対応もそろそろ決めなきゃいけないしね」
「成る程···では何かあれば拙者らにお声掛け下され」
「おぅ。弥彦も月夜も頑張れ~」
「「はっ!」」
手を左右に振って主は屋敷を出ていった。
「さぁ、続きを始めるとしようぞ」
なるべく早く、この二人の完成度をある程度まで上げなければ。この老体が何時まで持つか分からない。
今はただ、この愛しき弟子たちを育てることが拙者の役目なのだ。




