第八十話 足利義昭
ようやっとここまで来ました! 足利義昭の登場です。
さて、俺たちの婚姻の儀が終わって数か月後のこと。幕府の新将軍である足利義昭から上洛せよという書状が届いた。幕府に忠義があり、尚且つ力のある政虎を味方にしておく為だろう。力や影響力のある勢力が必要ということか。
義昭は史実、室町幕府最後の将軍である。延暦寺、朝倉、浅井、本願寺、雜賀衆、武田、三好、六角などと共に織田信長と対立したが、最後には織田に敗れ備後に逃れた。豊臣秀吉が天下をとったその後に将軍を辞するまで将軍ではあるものの、一般的には備後に逃れる時点で室町幕府は終わりとされている。
これからはより畿内に注視する必要があるな···。
甲斐と相模、駿河の情報をもうちょい深く探ってもらいたいし···。
政虎は勿論これに応じる。八百の軍勢を引き連れ、上洛することになった。
今回の上洛の主旨は兵を京に詰めることではない。関東管領を新たな将軍に認めてもらうことだ。それに前久さんの事や京の状況などの情報も集めなくてはならない。
商人の話によると、どうやら義昭は前久さんを京から追い出し、関白を辞めさせたそうだ。
関白であった前久さんがどうなったかは今のところ話が来ていない。
そのせいで絶さんも元気がない。
それに畿内では織田が朝倉や浅井、三好などと戦を起こしている。寡兵での上洛が求められる。その戦乱の情報も色々掴まなければ···。
そしてなによりこの上洛で見極めなきゃならない。幕府側に着くか、別の道を模索するか。
上杉が、俺達が生き残るため、選択肢を誤ってはならないのだ。
二週間後 京 政虎視点
私は公方様への謁見のため、下段に平伏していた。
公方様の近くに座っていた男が口を開く。
「面を上げい!」
私は頭を少しだけ上げる。
「公方様、こちらが越後上杉の当主、上杉政虎と申すものにございまする」
「知っておる。上杉の当主よ、面を上げるがよい」
「はっ!」
そう公方様に言われ、私はやっとお顔を拝した。
義輝様に比べて体は細く、強迫観念に駆られているかのように全身から焦りを感じる。落ち着きなく手の扇子は動き、目は世の全てを憎むかのように殺気だっている。無理に尊大な振る舞いをしているようにも見える。
少なくとも豪気な方ではないだろう。繊細な上に熱しやすい性格···といった感じだろうか。
「余が第十五代征夷大将軍、足利義昭である。此度はよくぞ参った」
「はっ!」
「さて、関東管領の件だが、そなた以外務める者もおらん。これよりも務めるがよい」
「はっ! ありがとうございます! 幕府のため、この役目必ずや全ういたします」
「うむ···上杉は良くわかっておるではないか」
公方様は満足そうに頷くとボソッと呟いたのを私は平伏した状態で聞いた。
「他の者共もこれくらいに頭を垂れ、忠義を見せればどれだけ楽なものか···余を傀儡にせんとする愚かな者共め···必ずやその頭、かしづかせてやろうぞ」
それは心の底から涌き出るような憎悪に満ちた声色だった。
しかし、何故かより印象に残ったのは、公方様の隣で隠れて肩を竦める隣の男の困ったような溜め息だった。
クロスオーバー作品である野央棺様の作品"分枝世界の戦国記譚~黒の章~"もよろしくお願いいたします!




