第七話 景亮会議と越後一の女傑
次の日、俺は景虎が呼んだ女中によって袴に着替えさせられる。
「そなた、全く似合っておらんな」
余計なお世話だ。似合ってないのは俺自身が一番よく分かっている。
「さて景亮よ、今日は諸将らにそなたを会わせよう思ってな。別の部屋に主だった者らを集めている。向かうぞ」
「はいよ」
というわけで俺は景虎に連れられ、その部屋へと向かっている。
初めてのお目見えって訳だ。面接に行く新社会人の気持ちが分かる。
つまり超緊張中である。
ここだと言われた部屋に景虎の後について入ると、貞興兄と頼久の他に8人が頭を下げていた。
「面を上げよ」
その言葉に全員が同時に顔をあげる。
「さて、諸将らよ。定満や貞興、頼久より話は聞いているだろうが、この者は先の北条の残党討伐の折、私が拾った男だ。名を松尾景亮という。昨日より我が側付きとして召し抱えることにしたため、承知しておくように。何か言いたいことがあるものは構わん。申してみよ」
「では皆を代表して拙者が」
そう言って口を開いたのは恐らくはこの中で最も年上であろう白髪の混じった男性だった。
「定満か。よい、申せ」
「はっ。では……そこにおられる松尾殿のことを我々は知りませぬ。しかし、殿がそうなさるのであれば我らは何も申しませぬ」
「では、問題なかろう?」
「しかし、側付きになさるのであれば話が違い申す。どこの誰とも知れぬ者を側に置くのは我々も承知しかねまする。草(忍のこと)でないと確信して言えますかな?」
その言葉を受け、景虎は定満さんを睨み付ける。
「先程の言葉は嘘か?」
言葉の端に苛立ちがあるのを誰もが感じるが、定満さんは顔を変えずに答える。
「いえ、嘘はございませぬ。ただ、我らにこの者を信じることのできる何かを我提示してくだされと申しておるのです」
その言葉にこの場にいる半数以上が頷く様子を見せる。
「何か……か……」
景虎はどうしようか悩んでいる。どうしよう助けたいけど何も思い付かないし、口出ししていいのか分からないし……。
全員が一切口を開かず、誰もがどうするべきか考えていたとき……。
「恐れながら申し上げます」
そう口に出したのは初めて見た八人の中でも最も若く見える男だった。
「清胤か、申せ」
「はっ。某もこの方の素性は知りませぬ。なれど殿、貞興殿、頼久が実際にこの方と話し、信じられると言ったのです。それがその何かにはなりませぬか?」
その言葉に貞興兄と頼久が同調してくれる。
「その通り! 俺は殿と自分の目を信じる」
「私もです。それにもし草のような仕草を見せれば宇佐美殿自ら斬ればいいでしょう」
四人。半数以下でもこの場で味方になってくれる人がいる。それがとても嬉しかった。
「どうだ? 定満。この越後を背負っていく若き芽らを信じてはくれないか? 頼む」
そう言って頭を下げる景虎。
「殿……それほどまでに、この男を……」
定満さんはそれにたじろく。他の人たちも驚いているみたいだ。
またもや無音となった部屋。数十秒ほど経っただろうか? 景虎がもう一度口を開こうとしたその時
「よいではありませんか」
部屋の外から、女性の声がした。落ち着いた優しい声だが、芯の通った力強さを感じる声だ。
「まさか!」
誰もが声の聞こえた方に目を向ける。
戸を開けて入ってきたのは豪華な着物を着た女性と、顎に髭を生やしたナイスミドルな男性だった。
「綾様……政景様……」
そう誰かがポツリと漏らすと、その場にいた俺以外の全員が姿勢を正した。
その様子に、綾と呼ばれた女性と、景虎を含めたこの場の人達との力関係がはっきりとわかり、
(この人……誰か知らないけど逆らわない方がよさそう……)
そう思ったのだった。
評定にいるのは、主人公、長尾景虎、宇佐美定満、柿崎景家、直江景綱、甘粕景持、本庄実乃、斎藤朝信、色部勝長、千坂清胤、小島貞興、小國頼久の12人です。
貞興と頼久がいるのは評定前に会っているから景虎が主人公の味方として来させたからです。




