第七十六話 通達
今回は第三者視点で書いています。クロスオーバー先の作品が色々やってる間は日常回が続きます!
春日山城の評定の間は人で埋まっていた。主君上杉政虎の姉にあたる綾御前が突如集合をかけたのだ。しかも理由は言わず、ただ急ぎ来るよう伝えただけで。
それぞれの将は自らの居城に城代を置いて急ぎ来たものの、上座には誰も座っていない。
しかも珍しいことに今回はいつもは筆頭家老のような役目を果たし、将と向かい合うように座ることも多い宇佐美定満も他の将と同じように座っている。
将らの間ではやれ上洛だの、武田北条攻めだのの噂が流れていた。
「上杉政虎様、上杉長尾一門衆、御出座!」
そんな時、戸が開いて綾御前を先頭に絶、景亮、政虎、憲政、政景、山浦国清、八条義春、山本寺定長、上杉景信が入室する。
家臣団が全員頭を下げる中、政虎を上座に、その前に政虎以外が漢数字の八の字の形に座る。
「皆、面を上げなさい」
綾の言葉で全員が顔を上げ、そして驚いた。政虎の義理の父である憲政や親族衆筆頭の政景など一門衆の中にただの側付きである景亮がいるのだ。本来であればそこにいることさえ相応しいものではない。
綾は家臣全員を見回す。
「皆、ここに景亮がいることに疑問を持つものもいるでしょう」
その言葉にはほぼ全ての将が頷いた。
「そうでしょう。しかし、これには理由があるのです。此度、私の妹であり越後の国主である上杉政虎が婿を迎えることになりました」
部屋の中が流石に騒がしくなる。と同時に、一部の将はその婚姻相手に気付き顔を強張らせたり驚きの顔を浮かべたりした。
「···お相手は?」
将を代表し、定満が綾に問う。
「ここにいます政虎の側付きである松尾景亮です」
松尾景亮の名前を聞き、場は更に騒がしくなっていく。
そして場のボルテージは上がっていき、賛成する者と反対する者とで言い争いにまでなった。
その場を一喝したのはやはり定満だった。
「静まれぇい!!···綾様、政虎様。この定満、その婚姻に反対の立場をとらさせていただきます」
定満が反対の声を上げると、柿崎景家や中条藤資などの反対の立場をとるものもそれに加勢し声をあげた。
「···その訳はなんだ?」
今まで黙っていた長尾上杉一門の中から政景が立ち上がり定満を問いただす。
定満は怯むことなく、冷静に理由をあげた。
「景亮の手柄はここにいる将全員が認めるところではありましょう。なれど、婚姻ともなれば話は別。家柄、来歴ともに何も持たぬ景亮が関東管領であり越後の国主である政虎様の婿になるともなれば、その立場が揺らぎかねませぬ。それに景亮に来ていた豪族からの縁談はどうなさるつもりか? まさか、政虎様と婚姻したので無理ですとでも言うおつもりで?」
定満さんの言葉は婚姻反対派の総意見だ。反対派からは「そうだ!」とか「その通り!」など賛同する声が上がる。
しかし、それに反対し口を出したのは直江景綱だった。
「定満殿。その意見、綾様や政虎様が想定していないとお思いですか?」
「むっ」
「この景綱、綾様より愛を説かれ幾数年。こういうことは定満殿より分かっているつもりです。何より、上杉長尾親族一門の皆様がこうしているのです。それはつまり、立場の問題については既に解決したということでありましょう。その解決方法は···絶様ですね?」
「えぇ。景亮は絶とも婚姻を結びます」
絶さんの一言で反対派は勢いを削がれ、黙り混む。
「···成る程。公家であり関白の前久様の妹君とも婚姻となれば、立場も問題はなくなりますな。上野の豪族との縁談はどうなさるおつもりで?」
「無論。こちらから断りをいれるなり、別の者を紹介するなりします」
「···既にここまで決まっているのであれば、何も言うことはありませぬ」
定満さんは姿勢を正し、頭を下げた。それに続いて他の将も次々頭を下げる。
「では婚姻の儀の日まで皆支度を手伝ってくれますね?」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
家臣団を言いくるめると、婚姻の準備はより早く進んだ。時が経つにつれ、景亮の緊張は激しくなるばかりだった。
そしてとうとうその前日はやって来たのだった。
クロスオーバー作品である野央棺様の"分枝世界の戦国記譚~黒の章~"もよろしくお願い致します!




