第七十三話 景亮と絶
今回はセリフ多めです。
政虎が出ていくと同時に、俺は絶さんの前に座る。絶さんがお茶を淹れてくれた。
「政虎とはどういう話をしたの?」
「ふふっ、内緒でございますよ」
はぐらかされてしまった。まぁ流石に不粋か···。
「ですが本心は聞けました」
「そっか···んじゃ政虎には後で聞くことにするよ」
俺は絶さんの淹れてくれたお茶をずずっと飲んで一旦間をリセットする。
「ふぅ···旨い」
「ありがとうございます」
越後に来てからの絶さんは、京で初めて会った時と雰囲気が少し変わったと思う。京の頃の絶さんより能動的に見える。
「そういえば、絶さんと初めて会ってからもう二年経つのか」
「もうそんなにですか···時が経つのは早いものですね」
「近衛家の屋敷でぶつかって、次の日にお茶呑みながら話して···」
「はい。実は公家のお方以外の男性とあれだけ長く話をしたのはあの時が初めてだったのです」
「そうなの?」
「えぇ、そうなのです···外の話をせがむ私に、景亮様は色々な話をしてくださいました」
「そうだったっけ。もう随分前の事みたいに思えるよ」
「ふふっ、そうですね」
二人出会った頃を懐かしむ。まだあの頃はこんな付き合いになるなんて思いもしていなかった。
「絶さんはさ···俺と婚姻してもいいの? 義務とかじゃなくてさ···」
「···ここに来たとき、私は近衛家の者としてここに参りました。そして近衛家の者として嫁ぐことを覚悟しておりました···ですが今は、私個人として景亮様の元に嫁ぎたい。景亮様、政虎様と共にいたい。そう思っております」
「そっか···」
絶さんと俺の覚悟の差を思い知らされる。
「俺はさ···もう心は決まってるんだ。けどさ···やっぱりそう簡単にはいって言えない自分もいる」
自分はいつまでたっても弱い人間なのだろう。そしてタイムスリップしてきた人間なのだ。国主で恩人である政虎、貴族の出身である絶さん、一方の俺はただの浪人上がりのような男。
本来であれば、婚姻どころか出会うこともない存在だ。
俺が葛藤しているのが分かったのか、絶さんは俺の手を握ってくる。
「景亮様···私達は他に誰でもなく、貴方様と添い遂るのです。自信をお持ちください」
そう言って微笑む絶さんを見て、不思議とさっきまでのネガティブシンキングがすーっとなくなっていった。
「ありがとう···絶さん」
「景亮様、もう夫婦となるのです。さんを付けず、絶とお呼びください」
おおう···中々に積極的。
「た···絶。これでいいかな?」
「はいっ! 旦那様!」
俺のオドオドした呼び掛けに、花が咲いたような満面の笑顔でそう言った。
話も落ち着き、ゆっくりと駄弁りながらお茶を飲んでいると、漸く政虎が戻ってきた。
時間は一時間を過ぎていた。
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