第七十二話 俺と絶と政虎と
相変わらずの日常回です。 次からは政虎と絶の一人お風呂シーンは省きます。需要があれば幕間という形で書くつもりです。ご意見、その他感想指摘もお待ちしております!
さて、部屋に二人を残し風呂へとやって来た。
「ふーっ···何だかどっと疲れた···」
体をそそくさと洗い、湯船に浸かる。
「···婚姻、か」
まぁ、この時代は婚期が早いから俺の年齢でさえ遅いくらいなのかもしれん。
しっかし大分前から何となく、俺達を結ばせようとしてる感じはあったけどとうとう実行に移してきたな···。
綾さんだけではない。改めて考えると政景さんや憲政さん、段蔵に前久さんも遠回しに催促していたのだろう。いくつか心当たりがある。特に政景さんと段蔵。
「まいったな···」
確かに政虎と絶さんのことは魅力的に思っている。周りにバレるくらい態度に出ていたってことだろうか···タイムスリップ前じゃ恋愛なんて妄想の中だけだった縁遠いもので、その内何かあるだろー的な思いしか抱いてなかった。淡い期待ってやつだ。
それがこの時代に来て政虎と絶さんと出会い、何だかんだと一緒にいることも多く、二人といる時間が一番落ち着くようになった。タイムスリップしてきた俺がたった三年という時間の中で、ここまで心開けるのは出会ったとき、政虎がやさしくしてくれたおかげだと思う。
「一目惚れ···ってやつなのかな?」
やだ···俺って惚れやすいタイプだったの!? しかも二人とか節操なしだな俺ってば!! なんてふざけでいる場合じゃない。
あの二人はどう思ってるんだろうか?
約三十分ほどゆっくり湯船に浸かり、色々考えてみたものの、纏まることはなかった。
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景亮が風呂に入っている間、政虎と絶は景亮のことを話していた。
出会い、初めて会った景亮の印象、今日までのこと···。お互いの知らない景亮の話をした。
「それで? 絶殿は此度のこと、どう思っている?」
絶は少し考え込むと、しずしずと話はじめた。
「···私は、近衛家の娘として生まれました。故に何処に嫁ごうと、役目を果たすのみ···そう思っておりました」
「今は?」
「出来ることなら政虎様、景亮様と共にいたい···そう思っております」
手元の湯呑みを撫でながら、絶はそう言った。
「そう···だな。私もそう思う」
政虎は改めて景亮と出会った頃の事から今までのことを改めて思い出す。
馬にも乗れず、武器も満足に振るえない。だが頭は切れ、時々常識外の事を言い、やってのける。基本的に軟弱で頼りないが、ふとした時に頼りになる。
政虎の出家騒動、越中の平定から犀川での援軍、古河御所の城攻めや八幡原での救援。大事なときに必ず横に来てくれる。
恋愛経験のない生娘である政虎が、知らず知らず好きになるのも無理ないのかもしれない。
一方の絶にとっても、一切飾ることなく素で話してくれる存在は景亮が初めてだった。自分を大きく見せたり、立場や力を誇ることもない。公家世界で生きていた絶にとって、まるで自由に空を飛ぶ鳥のように見えていた。そして縁もあり、京から出て景亮の屋敷の元で、ある程度自由に動けているので、景亮に恩を感じていた。
「政虎様は景亮様の事をどう思っていらっしゃるのです? 今ここには景亮様は居りませんし、本当の事をお聞かせくださいませんか?」
絶の核心に迫る質問に一瞬ビクッと身体を揺らすが、流石に慣れ始めたのか、すぐに落ち着きを取り戻す。
「···絶殿はどんどんと姉上様に似てくるな」
「ふふっ、そうですか?」
「···景亮のことは好いている···のだと思う。景亮には全てをさらけ出せるし、何より景亮の傍にいると、胸の奥がなんと言うかこう···温かくなるのだ」
それは誰にも言ったことの無い政虎の本心だ。当然景亮にも言っていない。
絶の顔に笑みが浮かぶ。そこにはいつもの凛とした政虎の姿はない。初めての恋心に左右される只の可愛らしい女性に見えた。
「政虎様は景亮様の事を、本当に大事に思っているのですね」
その言葉にいい加減素直になった政虎は肩を竦めて答える。
「···一生添い遂げるなら景亮しかいない。そう思える程にはな」
「ふふっ、私はお邪魔ですか?」
「ふっ、思っても無いことを。私一人に景亮は奔放すぎる。それに絶殿が居るからこそ、安心して外に出れるのだ」
「そうですね。景亮様は自由なお方ですから···では私の役目は家を守ることですね」
「あぁ。頼めるだろうか?」
「勿論でございます!」
二人して笑い合う。後は景亮の覚悟だけだ。
するとそこに景亮本人が戻ってきた。
「話は終わった?」
「あぁ。では次は私が入る番だな」
政虎は立ち上がり、景亮と入れ替わりに部屋を出た。