第七十一話 追い詰められて
クロスオーバー作品との書いている時代にズレがあると指摘を受けましたが、自分が日常話を書きすぎているせいです。こちらも早く追い付きたくはあるのですが···なんとか頑張って書いてまいります!
綾さんの言葉に一番反応したのは政虎だった。
「いきなり何を仰るのですか!」
「いいえ、いきなりではありません。絶には以前より言っておりましたし、二人にも遠回しにではありますが、伝えてきたつもりですよ」
「しかし、婚姻を結ぶのであれば上野との繋がりを···」
「いつまでそう頑なでいるつもりなのです? 貴女の本心、姉であるこの私が知らないとでも思っているのですか?」
「うっ···それは···」
「此度のことで狼狽えていたのは誰ですか?」
綾さんにじろりと睨まれ、たじろいだ政虎はようやく観念したように呟いた。
「私···です···」
その言葉に満足げに頷く綾さん。
「素直でよろしい」
「しかし、家中の者の中には反対するものも出るでしょうし、大将の夫という立場は家中を揺らがせることになりましょう」
政虎の懸念は正しい。
まず家の格なし、位なしでは上杉の婿に相応しくないと思われるのは当然のことだ。更に俺と政虎、絶さんが結婚することにメリットが見えない。縁談を持ちかけてくる家の場所は、上杉と北条、武田に囲まれた所にある。そこに布石を打てるのだから、戦略的に見ればそちらの方を取るだろう。定満さんなどの重臣は特にそう思うかもしれない。
それにこの戦国時代は基本的に男性社会。家を継ぐのも、戦に出るのも男の役目だ。大将の夫という立場は、政虎の立場を揺るがしかねないものだ。中には担ぎ上げる者も出てくるかもしれない。
「それは既に手を打ってあります。景亮の立場についても貴女が一言言えば収まるでしょうし、絶の夫ともなれば文句を言う者も口を閉じるでしょう」
「確かにそれはそうですが···」
政虎と綾さんの話は続く。俺と絶さんは静かに事のなり行きを見守るしかない。ってか口を出せない。
政虎は綾さんに詰め寄られ、悩みに悩んだあげく一つの結論を出した。
「少し、二人と話し合う時間をください」
綾さんはその願いを聞き入れてくれ、
「では明日、その覚悟を聞きに参ります。それまで存分に語り合いなさい」
そう言って出ていった。
綾さんが出ていくと、緊張の糸が切れたように俺と政虎は一緒に溜め息を洩らした。
外は既に日も落ちていた。
「すまなかったな二人共。このような事になってしまって」
政虎が申し訳なさそうに頭を下げてくるのを俺達は慌てて諌めた。
「お顔を上げてください政虎様!」
「そうだよ! 政虎のせいじゃないさ。これもきっと必要なことなんだと思う」
「そう···だな。さて、もう夜も更けてきた···一人が風呂に入る間に、入っていない二人の間で話し合わないか? 本人がいては話しにくいこともあるだろうし」
俺と絶さんはそれに賛成し、風呂に入る順番を話し合って決めた。
結果、最初に俺で次に政虎。最後に絶さんという順番に入ることになった。