第六話 信じてくれる人
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ご飯を食べ終え、食器を女中さんに片付けてもらう。
女中さんが部屋を出ていくと、お互い向かい合って座った。
少しの沈黙の後、景虎さんが先に口を開いた。
「さて、景亮。さっきも言ったが互いに聞きたいことは山ほどあろう。私以外ここには居ないし、誰かが盗み聞いていることもない。ゆえに隠し事なしで話してくれると嬉しい」
「……」
景虎さんはどこまで俺を分かっているのだろう? 少なくとも、隠しておきたい事があるってのは分かっているんだろうけど。だからこそ、ここには誰も近寄らせないし、隠れている人も居ないと言っているんだ。
しかし、信頼していいのだろうか? 俺が本当のことを話したとして、捕まるならまだいいが、殺されたりしないだろうか?急に心配になってきた。
向こうからすれば俺は家畜と同じようなものだ。飼うことも殺すことも簡単にできる。いつだって俺を捨てられる。
想像をすればするほど恐くて冷や汗が出る。手が震える。唾が出てきてぐっと飲みこむ。
「……お、俺が全てを話したとして、貴女は俺をどうするつもりですか?」
景虎さんは俺の問いに、怖がっているのが分かったのか優しげな目で答える。
「悪いようにはしない。そなたの全てを私は聞こう。秘め事は永久に胸に秘めよう」
なぜそこまで言えるのだろうか。
「その言葉、俺はどうやって信じれば良い?」
卑屈な自分が嫌になるが、恐いものは恐い。
「そうだな……では私の昔の名、私の隠すべき本当の名である"凜"に誓おう」
「凜……それが景虎さんの名前なのか?」
「ああ。兄上である長尾景虎が戦で死に、私が長尾の、越後の全てを継いだ時に捨てた名だ」
本当の長尾景虎が死んでいた? それを隠すために景虎さんは長尾景虎に成り変わって越後を統一したのか……。
そんな重要なことを見ず知らずの俺に教えてまで俺を信じると言ってくれるのか
その時、俺はやっとこの人の言葉を全て信じようと思えた。
「どうして、俺にそれを話してくれたんですか?」
「それくらいしなくてはそなたは私を信頼してくれまい? それにそなたには言ってもいいと、そう思えたのだ」
「直感ってこと?」
「あぁ。私の直感はほぼ当たるのだよ。毘沙門天の化身である私の直感だ。信用してくれていい」
そうお茶目に言った。
何だか可笑しくなった。俺は堪えきれなくなって笑ってしまった。
「分かった。話しますよ、俺の事」
俺は景虎さんに、俺の身の上、どうしてここにいるのかを全て話した。
当然、俺のいた世界の事も話してしまったが、後悔はしていない。
景虎さんは俺の話をしっかり、時に目を輝かせて聞いてくれた。俺も景虎さんの質問にできうる限り答えた。
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結局話してしまった。自分がおそらく未来からやって来たであろうこと。未来の生活のことなどたくさんのことを。だけど肩の荷が降りたように気持ちが軽くなった。まぁ、喋ってしまったので今さらどうしようもないから好きにしろって感じである。
景虎さんは俺の話の全てを聞くと、暫く目を閉じて考え込んでいた。
「ふむ……分かった。そなたの話、信じよう」
「信じてくれるのか?」
「無論だ。そなたの着ているものはこの日の本では見たことのないものであるし、そなたの話には嘘偽りがなさそうだからな。しかし……この話は他の誰にもしない方がいいな」
「元々そのつもりですよ。信じてくれるとは思ってないですし」
「私は変わり者だと?」
「十分変わり者ですよ。俺を拾って、こうして話してる時点で」
「フフッ、そうか、私は変わり者か。では変わり者同士、仲良くしようではないか。取り敢えずは、そなたのその言葉遣いは止めよ」
「は? いや、それは無理ですよ! お殿様なんですし」
「私はそなたの主君ではなかろう? 名を呼ぶときも景虎で構わない」
うーん……どうしよう……。
「変えなければ、先程の件を将兵らに話し、打ち首にでも……」
「景虎と呼ばせていただきます!!」
うっわ、早速だよ! 結構お茶目だよこの人!!
「フフッ、そなたの反応は面白いな」
なんか弄ばれてるなー俺。
「さぁ、では話の続きといこうか。そなたの話は楽しいからな、もっと聞かせよ」
そんな感じに景虎に振り回されながら、夜は更けていった。